ジュンヤ
「なあハイロ〜。もう俺、我慢できねぇぜ!」
「…」
「早いところ、あっち側の条件結界解いちゃおうぜ!」
「…」
「…なあって。おい」
ジュンヤの話は、全て俺は無視していた。
ジャニズム側には、難解すぎる条件をつけていた。本当は侵入禁止にしたかったのだけれど、仕方ない。できないのあれば、解けない条件をつけるだけだ。
「悪いが、あっち側の条件を解く訳にはいかない。諦めろ」
「…それは、単なるわがままか?」
「は?」
ジュンヤのその言葉に、少なからずイラッとした。
「だってそうだろ?あっちの人を傷つけたくないとかいうただのわがままだろ?否定するならはっきりと言ってやるよ。お前のそれは、ただのわがままだ」
「お前、自分で何やってんのかわかってるのか?」
「ああわかってる。わかった上で、だ。もうお前のそのわがままには付き合え…」
今にも衝突してしまいそうなほどバチバチしていたその時だった。
「ハイロさーーーーーん!!!!!!!」
懐かしくて。それでいて聞きたくない声が部屋中をこだました。
「ギルド、嬢…?」
「おいおい、お前をご所望らしいぞ?いつもみたいにしないでいいのか?」
と。そんな煽りも、俺の耳には届かなかった。
どうして…ギルド嬢が…?
「もう、いいんです!あの時の真犯人も、真相も!何もかもわかりました!」
「だから、なんだってんだ。俺はもう、人を信じたりしない」
「っ!そ、そんな…」
俺は彼女の諭しを、冷たくあしらった。
もう俺は信じない。信じたら信じただけ。その分裏切られるだけだ。
「信じるだけ無駄だ。信じるなんて、ただ裏切られるだけなんだ」
「…本当に、それだけですか?」
「?」
「本当は…信じて、また失うのが怖いんじゃないんですか!?」
「!?」
彼女の、その言葉は俺の心の核心を深く、貫いた。
どこかに潜んでいた何かが、あぶりだされたような。そんな感覚に見舞われ、思わず少しよろけてしまった。
「あ!大丈夫です…」
「“来るな”!」
駆け寄ってこようとする彼女に、俺は語気を強めていった。
「来るな。ここは、もうお前が来ていい場所じゃない」
「!?。そ、それでも!私は、私は…」
「…出て行ってくれ」
未練は残さなかったつもりだった。でも、僅かな未練が、着々と根を張って、ここまで侵食してきた。ここで除去しなければ、きっと中途半端な思いのまま。何もできず、何にもなれずに終わっていただろう。
そう思ったから、俺は突き放した。
「…つまんねぇ」
「は?」
反旗を翻したのは、他でもないジュンヤだった。
「お前は、つまらねぇ」
そういった矢先。彼は地に根のようなものを張り巡らせた。
「待て、何を…」
「一生かかってもヘタレのお前に代わって。俺がこいつらを処理してやるよ!」
地面が、溶け始めた。比喩なんかじゃない。物理的に、溶岩のようになっていっていた。
「待て!」
「いやだね!止めれるもんなら止めてみろ!」
その言葉に、一瞬体が固まった。
俺はこれを止めるべきなのか。
ジュンヤの言っていることは、正しい。一生かかっても、俺はこの思い出を捨てることはできなかった。そして同時に、これを壊すことはできなかった。勇気は、出なかった。
ならいっそ。このまま俺は見過ごすべきなんじゃないか?俺は、そのほうがいい。むしろそうして欲しいとさえ願った。
…いや、違うな。もう、こんな言い訳をつらつらと、暗示するのはやめよう。
「…“やめろ”」
「!?」
ジュンヤの張っていた根は、すべて灰となって消えた。
「おまっ…!何して…」
「…もう、いいだろ」
「は?」
俺は、怖かった。
変化することが。常に、変わっていくものが。
変化を得るとき。俺は、そんなときに、トラウマを持っただけなんだ。それだけ。
たったそれだけの為に、いくら犠牲を支払わせた?
数十、数百の未来を。心を。希望を。すべてを俺は、この数か月で真っ黒に塗りつぶしていった。
でも、間違いだった。それに気付くには、遅すぎた。
「…もう、いい。十分だ」
「…てめぇ…俺を…」
俺は、ジュンヤを無視してギルド嬢の元へと歩み寄った。
「ハイロ…さん?」
「……」
俺は彼女に、無言で手錠を放り寄こし、その両手を差し出した。
「え…?」
「俺は、落ちるとこまで落ちちゃったみたいだわ。いっそ、牢なりなんなりにぶち込んでくれて構わないし、死刑執行のタイミングも任せる」
「…っぷ!」
俺が言い切った数瞬後。彼女は吹き出し、笑い出した。
「なっ!こ、こっちは真剣に…」
「いや~、ふふっ!そうです、よね。でも、やっぱりハイロさんだ」
「どういう意味ですか…」
「いや~、飛躍しすぎた話は健在だなって」
そのあと、俺らは少し笑い飛ばした。
そのせいで、すっかり彼のことを忘れていた。
「…お前ら…絶対に殺す!!!!!!!」
「「!?」」
ありえないほどの気迫に、俺らは気圧された。
「っく!」
「せっかく…せっかくあと少しでこの世界の神になれたってのに!!!!!!!」
一言一言話すたび彼を取り巻く闇のオーラは徐々に勢力を増していっていた。
「こうなったら!お前の力を乗っ取ってやる!“憑依”!」
彼は、勢いよくこちらに突進してきた。素早く戦闘態勢をとった俺の一撃は、惜しくもジュンヤのほほを掠めるだけだった。
くる。そう察した瞬間、彼は勢いよく突っ込んできた。
しかし、痛みはなかった。
どういうことだ…?俺は直前の彼の言動を思い出す。
「憑依…憑依?まさかっ!?」
病は気からとでもいうのか。気が付いた瞬間、ありえないほどの腹痛に見舞われた。
「う、ううっ!」
「は、ハイロさん!大丈夫ですか!?ハイロさん!」
うずくまって動かない俺を心配してくれ、彼女は駆け寄ってきた。
俺は、抉られるような痛みを覚えながら、彼女に、最後の忠告をした。
「…俺から、離れろ…もうす、ぐ…ジュンヤ、が…」
俺の意識は、そこでぱったりと切れてしまった。




