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最強と破壊者の亀裂

「…ハイロ…さん…」


かろうじて残った左目で状況を把握しながら、目の前の景色にそういった。

あれは、本当にあのハイロさんなのか?

答えはわからないけど、とにかく正気ではないことはいやでも悟った。


「…“消えろ”」


ハイロさんが放ったその言葉の直後。私たちのギルドは跡形もなく消えた。

…まあもう、マスターがいない以上はあってもなくてもいいものなのだけれど。


「…どうして…こんな…」


私は、ほんの数時間前のことを思い出した。



「…では、私は他のクエストを受注しよう」

「はい。では、こちらからお選びください」


いつもと何ら変わりない日常だった。

いつものように私は業務をこなし、人相がよく、比較的仲の良いヴァルさんにクエスト一覧の紙を渡し後続がいないことを確認して小休憩をとった。

大きく一伸び。仕事に追われ、疲れた体を伸ばすと、何とも言えない気持ちよさが体中を駆け巡った。

ふう、と腕を下ろしパッと目に映った景色に思わず目を見張った。


「……やめてくれ、しつこいぞさっきから」

「…どうしてだい?もしかして照れてるのかい?」


ヴァルさんは、つい先日ギルドに入ったばっかりの新人にナンパされていた。

こういったことは特に珍しいことではなかった。事実、ヴァルさんはその美しさと凛とした佇まいから野郎どもからの人気は高かった。


「はあ…仕方ない人ですね…」


ああ見えて、ヴァルさんはかなり人見知りが激しく、初対面の人に対してはキャラがブレッブレになってしまうのだ。


ただ、何か違和感が…。


…まあ、ただの杞憂だろう。それより、早く助けてあげなくっちゃ。

私はヴァルさんのところまで行った。



「ほら、早く。あんな男に言いなりになったままでいいのか…」

「申し訳ありません。当ギルドでは他人へ不快感、嫌悪感を抱かせる行為は固くお断りさせていただいております。すみませんが、お引き取りを」


見ると、周りの視線は私たち一点に集中していた。そんなにも人の不幸が気になるのか…という不満は心の中にしまった。


「は?君は入ってこないでくれ。これは僕らの問題なんだ。邪魔したらただじゃおかない」

「ある程度の護身術は身に着けております。なんなら、今ここで実践しましょうか?」


脅しに対して私は煽りで返した。

…ただ、ナンパにしてはかなり気の弱そうな、なんというか、こんな積極的になるタイプには到底見えなかった。


「…とにかく、今日はお引き取り願います。受け入れないのであれば、衛兵を呼ばせてもらいます」

「…なら、一つだけ、質問させてくれ。これの答えを聞いたら、大人しく下がろう」


ここから消えてくれるのなら、多少のわがままぐらいは聞いてやろうと思い、その要求を飲んだ。


「…ヴァル、一つだけ。嘘偽りなく答えてくれ」


質問の相手はどうやらヴァルさんのようだ。


「…君が、好きなのは誰だ?」

「…ん?」


思わずそんな声が漏れた。

ちょっと待て。そうなってくると違う。

二人は顔見知りだったのか?いや、この口ぶりからしてまさか…。


元カレとか!?チョー気になるんですけど!?


そんな風に勝手に心の中で舞い上がってる中、ヴァルさんは顔を赤らめながらうつむいていた。


「…ヴァルさん、正直に言いましょう!大丈夫です。こういうのはきっぱりと突き放すのが一番なんです!」

「突き放す…か。そうだな。いいだろう。その質問に答えてやろう」


ヴァルさんはいつもどおりの凛とした顔に戻った。


「…私がす…」

「す?」


「…スズムラハイロだ!」


「「「「えええええええええええ!!!!!!」」」」


こちらの様子を眺めていたほかのギャラリーも含め、大きな衝撃に全員が叫んだ。


「な、なんでハイロさんなの!?」

「そ、それは…まあ、正直に言えば顔もあるんだが…それ以上に、ハイロの人間性に惚れたんだ。だから、すまない。君の気持ちには…ん?」


ヴァルさんの話に勝手に盛り上がっていて気が付かなかったが、彼はなにやらうずくまっていた。


「ど、どうした?」

「…せない」

「ん?はっきりと…」


「許せない!!!!!!!!」


ヴァルが聞き返そうとした瞬間、彼は突如大声をだした。


「なっ!」

「え!?」


大声とともに感じたことないオーラが体を襲った。


「…許せない!どうして…あんなヴァルさんを大事にしないような野郎を!!!!!僕はこんなにも思ってるのに!!!!!!!!どうして!!!!許せない…許せない…なんだ?ヴァル、お前、あいつに洗脳でもされてんのか!!!!?俺だって言えないようにされてんなら…なら…なら!!!!!!!」


オーラが尋常じゃない量まで増え、ようやく異変に気が付いた。


「おい!なんだこのオーラは…ん?」

「ぐ、グラダスさん!この人…」

「仕方ない。強硬策に出よう。大丈夫。ヴァル、君を助けてあげるからね!!!!!!!」


その声と同時に、そのオーラがすごい勢いで周りを襲い掛かった。


「うわー!」や「いやー!」など。大勢の冒険者の断末魔が倒壊とともに埋もれていった。

もちろん、近くにいた私含めの3人は他の冒険者の何倍も力で吹き飛ばされた。


「くっ!うわぁ!」

「ヴァルさん!」

「ヴァル!」


そのどさくさにまぎれ、ヴァルさんは男に連れ去られた。


「くっ…お前、よくも俺のギルドと可愛い冒険者を…」

「うるさい!!!!!お前らは干渉してくんな!!!!」


気おされてしまうほどの圧がかぶさるように押し寄せてきた。


「ああ…仕方ない…ちょっと痛いけど我慢してね!!!!!!!」

「ふぐぅ!」


ボゴッと鈍い音を響かせ、ヴァルさんの腹を思いっきり抉った。


「ヴァルさん!」

「ヴァル!!!!!!!!!!!」


その事実に一番声を上げたのは他でもないグラダスさんだった。


「来い!スキル“鯨王”!」


地鳴りが響いたと思った矢先、下から水の鯨が飛び出してきた。グラダスさんのスキル“鯨王”だ。


「やるぞ」

「…ぼぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!」


本気の目だ。

そう思った瞬間。かつて世界を救った男の本気が炸裂した。


「…干渉するなって言っただろ!!!!!!!!!!!」



そして、それと同時に世界を壊す者の本気も炸裂した。

衝突したその衝撃は、あまりに強大で。世界の理に亀裂を入れた。


そして、それが結果的に…。


“…ここは…はは。いいねぇ”


この世界に障害(バグ)をもたらした。



「…ルシファー様、これ…」

「ん?っと…これは…まさか」


亀裂から入ってきたものは、非現実的で。ハイロにとっては知っているものだった。


「…まずいな」


入ってきたものは誰にも見えない笑顔を浮かべて、誰にも見えない声でこう言った。



“…さあ、日本じゃ誰にも怖がられなかったんだ。…僕はこの世界で魔王になってやる”

「どうやら、厄介な悪霊が入ってしまったらしいな」

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