魔王
“…力が、欲しいか?”
「…その力で、もう何も失わないで済むのか?」
“…ああ。そうだな”
これ以上、なにも。
いきなり頭に響いた声に不信感を抱くことはなかった。
「…その力で、あいつを…あいつを…」
ギリギリと歯ぎしりが鳴る。歯は耐えられず、少し削れていた。
“…ああ。それどころか、もう二度と君の邪魔をする奴は現れないんだよ”
「なら…なら…」
もう、なにも失いたくないんだ。
もう、こんな思いをしたくないんだ。
二度と、こんなこと…。
「力を、貸してくれ」
“…なら、契約成立、でいいよな?”
そこで声は切れ、手の甲に奇妙なマークが浮かび上がってきた。
地の底から湧き上がる力に、一瞬飲み込まれそうになる。
「も、う…二度、と…」
「ん~?二度と?お前には今後なんてないんだよ!このままのたれ死んでしまえ!!!!」
真っ黒の魔法が一直線に勢いよく向かってきた。
ケルベロスに抑えられ、まさに絶体絶命だった。
ただ、もうそんなことはどうでもよかった。
「…“消えろ”」
誰に向けたわけでもない。俺の敵すべてに向けたものだった。
「!?」
「ケルベロス…?」
その問いにケルベロスは呼応しなかった。
死んだわけじゃない。ケルベロスは、文字通り消えたのだ。
「なんで…なぜおまえの言論統制がケルベロスに効いているんだ!!?」
「……」
「何か言ったらどうだ?おい!」
「……」
しゃべる必要なんてない。
もうこいつに道徳心をかける気はなかった。
「…なにか、か」
「ああ、怖いんだな!所詮お前は腰ぬ」
「“死ね”」
刹那、彼の心臓に等身大の釘が刺さった。釘は一回、二回、三回。体を貫いても、それは止まることがなかった。
「な…ぜ……ああ…この…あ…」
「…」
口元を、抑える。
ただこの前とは違う。
なぜか、誇らしかったんだ。
“僕は魔王。さあ、運命の城に行こうか。僕らの、未来を明るくするために”
「…ああ、わかった」
“ストーリークエスト 善悪の分け目完了”
“Lv,UP 53→100”
“魔王 と契約を交わしました 経験値が付与されます”
“Lv,UP 100→180”
“スキル派生 言論統制→言論統制・魔に派生されました”
善悪なんて決まってない。だから
善も悪も。俺が決める。
俺が決めた悪は、俺が裁く。
「…“消えろ”」
未練を残したくなかったから。
俺は、ギルドを跡形もなく消した。




