二章 きっかけ
「くそ…やられた…!」
町の中をかける。その反対からは人々が逃げるように走ってくる。
町中を、黒煙ともう一つ。紫のオーラが漂っていた。
「ヴァルさん…無事でいてくれ…!」
見慣れた通りを抜け、そこを曲がった先にあるはずのギルドに目を向けた。そこには…。
「あれ?遅かったね。ハイロくん」
「おぉぉぉぉまぁぁぁぁぁぁぁえぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!!!!!!」
そこで見た惨状は、あまりに受け入れられないものだった。
「…グラダス…さん」
首は、無事だった。体は何もかも、消え去っていた。
初めて、俺を組織に迎え入れてくれた人を、なくした。
「…ユメカ…さん」
バラされていた。四肢をすべて接がれ、首も離れていた。その周りには、がら空きになった恥部を襲おうと群がるゴブリンが集まっていた。
正直、死体に興奮をしているゴブリンというのは吐き気を催すほど気分の悪いものだった。
「よくも…よくもお前!!!」
「でもさ、君たちが悪いんだ。だって、僕をないがしろにするんだからさ」
そう言って、彼は引きずっていた人を、俺に見せた。
きれいな金髪。白い肌。スラっとした姿。見慣れたその姿は、ボロボロにされ、傷だらけでいた。
「ヴァル………さん……………………」
「ん?どうしたの?」
いつも担いでいた槍は、放り捨てられていた。
そんな…嘘だ…そんなわけがない…。
直視が、できない。きっと見てしまえば俺は俺じゃなくなる気がした。
「実はね、ヴァル、君に脅されすぎて僕じゃなくて君を選んだんだ。悪い子だね全く~」
「…え?」
思わず見てしまった。
見た瞬間、彼はヴァルさんの腹にこぶしを入れた。
それが、俺のスイッチを入れた。
「やめろ!!!!!!!!!!!!!!」
とびかかり、防ごうとする彼に俺は高らかに
「“動くな”!!!!!!!!!!!!!!」
と叫んだ。
刹那。急に下から何かが飛び出してきた。
いきなりのことで反応ができず、俺は吹き飛ばされていった。
「ぐっ!」
「…グルルルルルルル」
何事かとみてみると、そこには犬の姿をした魔物がいた。
ただ、その首は三つに分かれており、三つの顔がそれぞれにくっついていた。
「なんだ…それ」
「紹介するよ。僕の使い魔、『ケルベロス』だよ」
「グワアアアアアア!」
ケルベロスは挨拶代わりに大声で吠えてきた。
そこで、違和感に気が付いた。
「…なんで、お前は動けてるんだ?」
さっき、動くなといったばかりなのに、彼はケルベロスのことを撫でていた。
「ん?なんでか?そりゃ、ケルベロスのスキルがあるからね」
「…“ステータス開示”」
“ケルベロス Lv,100
身体筋力 1200 身体魔力 2000 知識 0 身体効率 100
メインスキル 冥界の番犬 Lv,4 冥界の炎などの冥界の魔法が使用でき、知識ステータスが0になるかわりに身体ステータスが二倍になる
サブスキル 無効 デバフ系統を無視する
冥犬 冥界系統の魔法の威力が上昇する
異常契約 ーERROR メッセージが正しく生成されません-
バットスキル 異常契約 ーERROR メッセージが正しく生成されません-”
「…くそ、まじかよ!」
そう言っている間にも、ヴァルさんの体をこぶしでえぐっていった。
「やめろ!」
「僕はやめてもいいんだけど…ヴァルが中々トラウマを克服できないみたいでね。ほら、言ってごらん?ギャレンさんのことが好きなんです、って」
「…いわない、ね…」
「ヴァルさん!?」
きっと、ヴァルさんも認めるだろうと思った。ただ、ヴァルさんの口からは拒否の声が漏れた。
「なんで…こんな時にまでプライドなんて張らないでくださいよ!!!」
「…いや、だね…だって…」
そういうと、ヴァルさんはこっちを見た。
「どうして!?どうしてこんな状況で断る理由があるんだ!おかしいでしょ!さっさと折れれば…折れれば命は助かるのに!!!」
「…だって…」
こっちを見て、ヴァルさんは見たことないほどやさしい笑顔で。悟った笑顔で。
「私は…ハイロ。お前が好」
「つまらない」
彼はそう言って、頭と胴を握った。
そして、徐々にだが、外側へと力を込めていた。
「やめろ!!!!」
反射的にそう叫んで飛びかかった。
しかし
「グルァ!」
「ぐっ!」
ケルベロスに抑えられてしまった。
「は…なせ…」
「無理さ。どんなに君が強くたって、ケルベロスにはかなわない。さ、君の愛の最期。そして、僕らの愛の…」
ぎちぎちと。音がやがて、グキッとなった。
「や…めろ…おおお!!!手を…出す、なぁ!」
「さあ、あんな男のしがらみから解放してあげるからねぇ!!!!」
「…ハイロ、好きだぞ」
その声に、涙が溢れてきた。
「“やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ”!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
不敵に笑ったそいつに、俺の言葉は届かなかった。
ぶちっ
と、首が、もげた。
どくどくと流れるヴァルさんの残骸を、彼は嬉々として飲んでいた。
「ああ!いい、いい!やっと、やっと…やっと一緒になれたんだ!もう怖くないさ!これで、もう!」
「…………あ、ああ…」
惨劇が、終わった。
この世界で愛した人は。この世界で慕った人は。この世界で仲良くした人は。
もう、いない。
なにかが、こみ上げてきた。涙はとっくに溢れていた。ただ、もう一つ。なにかが、俺を何かに引き込もうとする何かがこみ上げてきた。
失いたくない一心で。
復讐したい一心で。
俺はその何かに、すがった。
“…力を、貸そうか?”




