虫嫌い
「では、登録完了です。こちら、同盟カードと概要です」
一枚のカードと一冊の本を渡された。
カードは同盟に入っているという証明書。そして本は同盟に入っている際の注意書きやプレゼンと言ったパンフレットのようなものだった。
「これで、また一緒に冒険できるな」
「え?あ、ああ、はい」
また俺と一緒に冒険する気でいてくれることに驚きながらそう返すと
「むぅ…ハイロは私と冒険するのは嫌なのか?」
と、頬を膨らませてしまった。
「い、いやそうじゃないです!」
「本当か?」
「はい、本当です」
あわあわしながら弁明をする俺。それを面白がって笑みを浮かべるヴァルさん。それを眺めてあきれ顔をしながら眺めているギルド嬢。
ただ、そこに別の視線があったようにも。今思えばそんな感覚もあった。
「じゃあ、行きます?ダンジョン」
「い、一緒にか?いいのか?」
折角一緒に冒険できるんだ。こんな権利行使しない手はない。
もしかしたら吊り橋効果も期待出来たり…。
「はい。丁度、二人以上限定のダンジョンがあって。そこの敵の素材が欲しくて」
「わ、わかった。じゃあ、受注しに行こうか」
二人並んで受付に向かう。左にいるヴァルさんに見えないように右手で小さくガッツした。
「ヴァルさん、一緒に冒険しましょ?」
ハイロがそう言うとヴァルは少し困った顔で
「あ、ああ。じゃあ、行こうか」
と言った。
仕方ない。ヴァルは断れない性格なんだ。だから、こうして優しい対応をしてるんだ。可哀そうに。
そう時間もたたないうちに、二人は受付に向かった。
右にいるハイロは、ガッツポーズしていた。ヴァルのことも考えずに。
「…心配しないで、ヴァル姉。助けてあげるからね」
そう言って、僕は一枚の幸せな絵を握りしめた。
僕らだけの幸せの絵を。
~獣虫地帯 ランク☆☆~
「…では、行きますか」
「……」
俺の呼びかけに、ヴァルさんは何も答えなかった。
「あ、あれ?ヴァルさん?」
「…あ、あそこ、なんか…その…」
ガチガチと震えながら、指を指した方向には、何かがいた。
「あれは…」
よ~く目を凝らしてみると。
そこには蜘蛛の姿をした魔物がいた。
「え、ただの魔物じゃないですか。もしかして、変異種とかですか?」
「…て」
「え?」
か細い消えそうな声で何かを呟いたが、なにも聞こえず聞き返した。
すると、バッと顔を上げ、目に涙を浮かべ
「あれやっつけて!」
と言って縋ってきた。
いや、もしかしてこれって…。
「…ヴァルさん、もしかして、虫苦…」
「うっさい!」
ヴァルさんはそう言いながらパチンと頭を引っ叩いた。
「痛っ!ちょ、キャラ忘れてません!?」
「どうでもいい!早く!」
魔物の方を見てみると、こちらにじりじりと近づいてきていた。
ヴァルさんも、それに気づいた。
「きゃあああああああああああ!あ、あっちいけ!しっ!しっ!」
「だからキャラ…」
素のヴァルさんを見れたという眼福感と、早くどうにかして落ち着かせないとという気持ちが混在した。
そんなことを思いながら
「“刺せ、地面”」
と魔物の下から剣山を飛び出し、ハチの巣にしておいた。
こんなにさっくり倒せるなら、恐れる必要もないのにな…。
「…ヴァルさん?」
「行かない」
あれから1時間。完全にヴァルさんはイヤイヤ期に入ってしまった。かわいいが、面倒くさい。
「そんなこと言っても…ヴァルさんが立ち上がらないと始まらないんですよ~」
「そ、そんなこと言ったってな!怖いものは怖いし、気持ち悪いものは気持ち悪いんだ!」
ずっとこの調子で座り込んでいるため、もう諦めようかともなんども考えた。
「というか、分からなかったんですか?こんな感じの魔物が出ること」
「そ、それは…その…」
「…はぁ…じゃあ、やめますか」
俺はヴァルさんを持ち上げ帰ろうとすると
「あ、いや、いいんだ!いいぞ、行こうか…」
「無理言わなくていいですよ。怖いものは誰でも怖いんですから」
いやほんと。自力で立ち上がってダンジョンに体を向けるヴァルさんの足はマッサージチェアの強ぐらい震えていた。
「…行けるんですか?」
ワンクッション。この恐怖から逃げられるクッションを敷いたが、ヴァルさんは無理やり笑顔をはっ付けて
「大丈夫だ、問題ない」
との事。
ああ…途中で倒れないでくれ頼むから。




