幻影の挑戦 その3
なにか心地の良い感覚が体を包み込む。
「…うう……」
「目覚めたか?人よ」
その声に吊られて目覚めると、灰色のどこかに寝ていた。
前から竜の首がにゅっと伸びて、俺の元によって来た。普通なら驚くんだろうが、身体中が痛く、驚く体力も気力もなかった俺はゆっくりと立ち上がった。
「これを飲め」
「これは?」
ホカホカと湯気が立つ白いスープを木のお椀に入れられ手渡された。
「治癒魔力循環を促進させる回復スープだ」
「あ、ありがとう…」
丁寧なことに竜には無縁のスプーンもつけてくれた。一口掬って息を吹き、口に入れた。
「…甘い」
甘いのだ。しかも、不快な甘さじゃなく、むしろ温かい方がおいしい甘さだった。
「少し体も楽になってくると思うぞ」
「ありがとうな。ところで、何してんだ?」
「…さっきの戦い。お前の勝ちだ」
スープに入っていた何かの肉の味がフッと消えた。
「それって…いやでも、お前の方が俺より早く立ち上がって…」
「…これまで挑んできた人間の何よりも。お前は強かった。それだけだ」
「それだけって…でも、俺は負けて…」
そう言うと、彼は俺を咥え地面にそっと置いた。
「…われもそろそろなのだ。これ以上選り好みしている暇がないんでな」
「でも…」
負けて強くなる。それに関しては俺はいいと思っている。
ただ、負けて何か力を得るのは違うと感じた。
「…われの力は、この世界のバランスの一つ。なくせば、他の力の勢力が高まり世界は混乱と血に染まる」
「…?」
急にそんなことを言われ、思わずお椀を落としてしまった。
「…だが、この体ももう先短い。其方なら、任せられるから。どうか、お願いだ」
そう言って、長い首を深々と下げた。
…そう、か。
彼はこの力を手放したいんじゃない。ここまで。最後までこの世界を思っていたいから。彼はこの力を託そうとしているのだ。
「…わかった。なら、ありがたくもらうよ」
「…すまないな」
悲しそうな目で、竜は言った。
「…最後に、名前でも教えてくれないか?」
「名前か?」
知っているだろ、見たいな目をしながら彼は言った。
「…我の名前は、ドラティックだ。頭の片隅にでも置いといてくれたらありがたい」
そう言ってドラティックは光となり、空へ飛び、そして彼は「力」となり俺の前に降ってきた。
「…これが…」
片腕、翼、そして何か光がそこに浮いていた。
―この光が“幻影の力”そして、われの腕と翼だ―
「“ステータス開示”」
“幻影竜の片腕
身体筋力+1000 身体魔力+500
スキル 竜燐 身体筋力依存の攻撃と身体ダメージを軽減する。HPが1に近いほど効果は高くなり最大で60%軽減する。
助手 戦闘時に発動する。戦闘の援護をする。
特殊条件 服に追加装備することで使用できる”
“幻影竜の翼
スキル 飛行 空を飛べる。
風起こし 戦闘時、任意で発動できる。渦巻き状の風を起こす。
外骨格 相手の攻撃を防ぐことがある。
特殊条件 服に追加装備することで使用できる”
“幻影の光玉
使用効果 食べることで使用できる。幻影の力を継承できる”
「さあ、この光玉を食べてくれ。そうすれば、すべてが終わる」
「…ああ」
不思議と抵抗は一切なかった。明らかに水晶玉のそれを、俺は大きく口を開けて飲み込んだ。
“Lv,UP 30→50”
“サブクエスト 幻影の挑戦達成”
“幻影のスキルを継承しました”
いつか見たような風に怒涛のウィンドウをすべて閉じた。
「これで、いいのか?」
問いに答えは、返ってこない。
「?お、おい?どうしたんだ?」
まさか…。
体の中で、何かが微かに動いた感覚がした。
「…よろしくな、ドラティック」
そう。そんな経緯があって、彼はこのあと「幻影の竜格」と呼ばれるようになったんだ。
え?どんな人物だったかって?本当にいい冒険者だったよ。裏も表もない。まさに「憧れる神様」だったよ。
「幻影の挑戦」―グラダス・ホエール―




