み~つけた
小学校時代の親友だった良子ちゃんの葬儀を終え、通りかかった道でふと立ち止まった。
このあたりはよく良子ちゃんたちと遊んだ場所だった。
すっかり日も暮れてしまったかつての遊び場を眺め、懐かしさと同時に淋しさが込み上げてくる。
私が遠方に転校して以来みんなとは音信が途絶えていたが、特に仲のよかった良子ちゃんの死を知らされていてもたってもいられず、懐かしの生まれ故郷を訪れることとなった。
そこで律子ちゃんと由美ちゃんの死を知らされた。
二人は良子ちゃんの次に仲のいい友達だった。
昔のクラスメイトの話によると、律子ちゃんは高校生の時に、由美ちゃんは成人してすぐに亡くなったのだそうだ。
二人とも不慮の事故だったらしい。
ショックで崩れ落ちそうだった。
次は私の番かもしれない、と場違いな自虐で周囲の苦笑いをさそう。
だが私は本気だった。
そう思わずにはいられなかったのだ。
はあ、とため息をついたところで、小さな人影に気づいた。
すっかり暗くなり、人通りも途絶えた淋しい裏道で、小学生くらいの女の子が動き回っているのが見えた。
どうやら何かをさがしているようだった。
その子の後ろ姿を見て、同級生だったゆきこちゃんのことを思い出した。
仲良しだったわけではないが、一緒に遊んだ記憶がある。
でも、ゆきこちゃんは友だちとのかくれんぼの最中に水路に落ちてしまい、帰らぬ人となってしまっていた。
こんな時間にこんなところでうろうろしていたら、大変なことになるかもしれない。
この子にゆきこちゃんと同じ悲劇を繰り返させるわけにはいかない。
そう思うや、私は彼女に近づいて声をかけていた。
「どうしたの」
返事はない。
「おうちの人は」
私の声が聞こえていないのか、やはり反応はなかった。
一心不乱に何かをさがし続ける女の子を眺めながら、どうしたものかと首をかしげる。
「誰かをさがしているの」
すると初めて反応があった。
「お友だちとかくれんぼをしているの」
「もうまっくらだよ」
「でもさがさなくちゃいけないの」
「どうして」
「みんなみつけないと、私と遊んでくれないの。りっちゃんとゆみちゃんとりょうちゃんはみつけたから、あとひとりみつけなくちゃ」
「もうおうちに帰っちゃってるんじゃない。聞いてみたら」
「でも一緒に遊んでくれるって約束したから。だからみつけてあげないと帰れないの」
関わってはいけない、すぐにここから立ち去らなければいけないと、心の奥底から何かが訴えかけてくる。
それとはうらはらに、自分の口から飛び出る信じられない言葉を止めることができなかった。
「お姉ちゃんも一緒にさがしてあげようか」
「ほんと」
うれしそうなその声を聞きながら、私はあらがえない何かから懸命に逃げようともがき続けていた。
「ええ」
駄目だ、これ以上は駄目だ。
早く逃げなければ。
しかし何もかもがもう手遅れだった。
「その子のお名前は」
「えっちゃん」
女の子が振り返る。
その時私は思い出した。
ここで先日良子ちゃんが事故死したということを。
そして、ゆきこちゃんが死んでいた場所だということも。
なぜこんな大事なことを失念していたのか、自分でも信じられなかった。
そうだ。
ここで私たちはかくれんぼをしていたのだ。
ゆきこちゃんに、みんなをみつけることができたら、一緒に遊んであげるといって。
みつかるわけがない。
ゆきこちゃんが百数える間に、みんな自分の家に帰ってしまったのだから。
私がそうしようといったからだ。
私がゆきこちゃんをいじめていたグループのリーダーだったのだ。
ゆきこちゃんが死んで、その罪の意識から私は逃げ出した。
否、自分たちのせいでゆきこちゃんが死んだことがばれないように、身をかくしたのだ。
親たちも、ゆきこちゃんのご両親も、そのことを知っていた。
だから、みつからないようにずっと逃げ続けていたのだ。
みつからないように、今までずっと……
「えっちゃん、みーつけた」
真っ黒い空洞のような目で私を見つめながら、ゆきこちゃんはうれしそうに笑った。
了
怖い話を考えていると、必ずそこに既視感を覚えます。
まったく新しいものなど考えつかないという諦めと、使い古された古典をいかにアレンジするかの葛藤に、いつも身を焦がしています。