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真夜中奇譚集  作者: 神楽 羊
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人形屋敷

焼け焦げた屋敷と死んだ娘代わりの人形。

専門学校の休み時間、しゅんが僕達に言った。

「人形屋敷って知ってる?」


僕は少し考えてから無い、と言った。


他の奴らも口々に無いと言う、軍人病院で怖い目に遭ったいつものメンバーだ。

ただこの話はあの病院へ行く前の話で僕達が初めて肝試しに行った時の事、しゅんに霊感がある事を僕達はまだ知らなかった。


「地元にさ、あるんだ。曰く付きの屋敷が。行ってみないか?」


暇を持て余していた僕達はうだるような夏の夜、瞬の地元の人形屋敷へ向かう事にした。




瞬の地元でまことしやかに語られ続けている話




裕福で高齢な夫婦が或る大きな屋敷に住んでいた。

二人は子供を望んでいた。歳のせいもあり中々子を授からなかったがやっとの事で産まれた娘を二人はとても喜んだ。

しかし運命は残酷なもので三歳になる前に娘は流行り病で死んでしまう、悲しんだ夫婦は娘を模した等身大の日本人形を作り亡くなった娘の代わりとして誕生日が来る度、記念写真を撮るようになった。

それが悲しみからなのか二人の中に狂気が孕んでいたからなのかはもう誰にも分からない。

一年毎に、彼らが願った成長を形にするように段々と大きな人形を作っては三人で一緒に写真を撮る。それは死んだ娘が十歳を超えるまで続いた。

そののち両親は他界しアルバムと多くの人形だけが屋敷に残された。

人形と彼女を写したアルバムが今も屋敷の二階にありそれを見ると呪われる。


そんな話だ。


怖い話が好きでいろんな話を漁っていた僕もこんな話は聞いたことが無かった。


何よりも毎年毎年人形を作り、死んだ娘の代わりに写真を撮り続ける老夫婦を想像し言い知れぬ不気味さに怖気おぞけが立った。


子を失った絶望で彼らは正気を失ってしまったのだろうか?それとも彼らの視線はしっかりと娘と人形を見ていたのだろうか。


どちらにせよ、と僕は思った。



「ここからは実際に俺の先輩達が中に入った話なんだけど。」


瞬が僕達を見回して言う。



***




怖いもの知らずの不良達が集まり屋敷の中を徘徊し腐った床に足を取られながらやっとのことで二階に辿り着くと人形の部屋があった。


隅に置かれマトリョーシカの様に順々と成長していく人形、そして中央に置かれた木製の机の上には埃を被ったアルバムが置かれていた。

不良達五人は輪を描く様に机を囲みアルバムを開くと、息を飲む。


そこには、ページの二枚目までは穏やかな家族が幸せそうに写っていた。





千鶴子 三才


異様な写真が一面に貼ってあった。


座敷童子の様な日本人形が部屋の真ん中に置かれ、その両隣に夫婦が立っている。

それも満面の笑みを浮かべて。


不良達は言葉を失う。


千鶴子四才千鶴子五才千鶴子六才千鶴子七才千鶴子八才千鶴子九才千鶴子十才



大きくなっていく人形と満面の笑みを浮かべ続ける老夫婦。


静寂が辺りを包み込む、夏だというのに酷く寒い。


そんな中リーダー格の男が言った。


「こんなの全く怖くねえよ!何ビビってんだよお前ら、こんな人形ぶっ壊してやるよ。」


そう言うと置いてあった人形を蹴り飛ばした。


「このアルバムは持って帰ってこれでオナニーしてやる!」


絶句する他の不良を馬鹿にしながらリーダーはアルバムをカゴに載せて自転車で家に帰りその途中トラックに轢かれて死んだ。

バラバラにした人形の様に身体が辺りに散らばっていたという。


車の中でそんな話を聞いているとくだんの目的地に着いた。至って普通の住宅街で曰く付きの屋敷があるとは到底思えない。


整備された坂の階段を登っていくと突然右手に黄色と黒の工事用フェンスが森をぐるりと取り囲んでいる場所に出た。

明らかに異様な風景で左手の住宅街とは空気が全く違っている。


「ここが人形屋敷、あの不良達の話があった後、屋敷が誰かに燃やされて立ち入り禁止になっているんだ。」


森の奥を懐中電灯で照らすと確かに黒焦げの屋敷が立っていた。


僕達は瞬が言うフェンスの壊れた場所にたどり着いた。ペンチか何かで切り取られていて屈めば人一人入れそうな穴が開いている。


そこには井戸があった


禍々しい雰囲気を纏った井戸が


そして勝手口だろうか?井戸の左隣に廊下がある。扉はすでに無く黒焦げた廊下が三十メートル程続いている。そこを見て目眩を覚えた僕が懐中電灯で廊下を恐る恐る照らすと不意に灯りが消えた。


何度スイッチをオンオフにしてみても灯りが付かない、脂汗が滲み出る。


「洋やめろって、面白くないんだよ!」



後ろにいる奴らがニヤケながら僕を見る。


「本当なんだよ!」


懐中電灯を渡した途端灯りがついた、そして嘘つき呼ばわりされた。


「照らして見てくれよ、廊下を。」


友達のうちの一人が廊下を照らすと灯りがまた消えた。



僕らは一目散に逃げ帰り二度とあの場所へは近づくまいと誓った。

人の愛は時に狂気を生むものです。

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