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真夜中奇譚集  作者: 神楽 羊
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境界の色

僕が出会った不思議な話をつらつらと

この話は実話であり実在する人物から聞いた話である為、場所や名前などは一切表記しない。

そしてある程度のフェイクを混ぜてはいるが大筋はこの通りである。


もしこの話を聞いた事がある人や本人に届いた場合、この話について敬意を持っているという事を理解して貰いたい。

心からそう思う。


そして出会えた事に感謝を。


あなた達は今でも元気にしているだろうか?







この話は僕があの世を信じるようになったきっかけのひとつの話だ。


僕は若い頃、る繁華街のショットバーでバーテンダーの真似事をしていた。


僕は霊体験と言えるか言えないかくらいの微妙な体験談を少なからず持っていた。


学生の頃、友達と心霊スポットに面白半分で行ってそのうちの一人が軍人の霊を連れて帰って来てしまったと泣き出し、山奥の細い道を命からがら逃げ出したり


車の中で念仏の様にごめんなさいごめんなさいと謝り続ける友達の声がずっと聞こえていて誰も声をかける事が出来なかった。

あの時の車内、夏だというのに凍えそうな冷たさと消え入りそうなヘッドライトの光は今でも脳に焼き付いている。




焼け落ちた人形の霊が出るという屋敷に行った事もあった。

鬱蒼うっそうと茂る森の中、黒焦げの屋敷をぐるりと取り囲んでいるフェンスの外から朽ちた勝手口を懐中電灯で照らすと灯りが落ちた。音もなく暗闇が辺りを支配する。


友達皆に震える声でふざけるなと怒られた。


その後僕は必死でライトが勝手に消えたのだと説明したが買ったばかりなのにそんな訳あるかと言われ頼むからつけてくれ、と懇願されたが僕にはつけることが出来なかった。


その中の一人がなかば奪い取る様に僕の手から懐中電灯を取ると問題なく点灯した。

やっぱり驚かそうとしたんだろ?と皆が安堵した様に笑う。


違うんだとあまりに必死に否定する僕、異変を感じた友達が再び同じ場所を照らすと、懐中電灯が消えた。

パニックになり皆で転がる様に逃げ帰った。


勝手口のそばにあった塞がれた井戸の禍々しさと異様さは今も忘れられない。




***





それは真夜中、バーで一人店番をしていた時の話だ。

うだるような真夏の頃だったと記憶している。


客は常連の女の人が一人と身長が180cmはあるようなガタイの良い男性の二人だけだった。

男性は最近飲みに来てくれる様になった人だ。


僕以外の二人は初めて会うので話す事も無くカウンターの端と端に座っていた。


男は豪快を絵に描いた様な人で幽霊なんてぶっ飛ばしそうな雰囲気を持っている。


その男がウィスキーのロックを飲みながら話し始めた。


「君なら信じてくれるかもしれないと思ったから話したい事があるんだけど聞いてくれるかな。」


もらったビールを飲みながら僕は答える。


「どうしたんですか?お化けでも見ましたか?」


冗談のつもりだった。


「あの世を見た事があるんだ。」


僕はデジャヴを感じて息を飲んだ。彼は続ける。




「何年か前に体の一部を切断するかしないかの大事故に遭った事があってそこで見た夢を強烈に今も覚えているんだ。

綺麗なお花畑があって綺麗な空で綺麗な川が流れていた。無性に川の向こう側に行きたくなってさ、それも全然大きくない川で膝くらいまでしか水がないんだよ。

川の半分まで歩いた所で急に声が聞こえて、男でも女でもなく年さえも分からない様な声でそっちじゃない、そっちじゃないこっちだ、って言ってくるんだ。

初めの方は言う事を聞いていたんだけどこんな性格だからさ、段々腹が立って来てね。

なんであんたに指図されないといけねえんだ!って叫んだ瞬間に目が覚めたんだよ。」


気がつくと病院のベッドの上で隣を見ると母親が居たという。


涙目の母親が息子に声をかけた。


「今あなた、心臓が止まっていたのよ。」と




僕は鳥肌が止まらなくなった。怖かったのもあるが

僕はもう一人の客、何も語らず煙草を燻らせている女性の方を見るともなしに見た。




***






それはほぼ同じ話を隣に座っている女性から聞いた事があったからだ。


二人は初対面だった。




それから一か月程前に同じように店番をしていた時何人かの常連が集まり怖い話をする流れでその話になった。


その女性はある時重い病に罹ったらしい。


助かるか助からないか五分五分で今晩が山かも知れませんと医者から家族が伝えられた夜、彼女は夢を見た。


「凄く綺麗なお花畑に気づいたら居たの、全てが綺麗な景色で川が流れていてね向こう側にどうしても行きたくなったの。」


川に入ろうとすると向こう岸に亡くなった親族と、飼っていたペットがいたらしい。


威嚇の声と親族の追い払うような仕草で来るなと言われているのだと感じ、また来るよと後ろを振り返った瞬間に目が覚めたのだという。


気がつけば峠を越えていて容体は安定しその後退院出来たのだとその人は言った。



こんな偶然があるものなのかと僕は混乱した。

三途の川を見てきた人間がこの場所には二人いる。


僕が知る限り二人ともこんな冗談を言うようなタイプではなかった。




僕は男性に向かって質問を投げかける。


「綺麗だ綺麗だと言ってましたけど空の色って何色だったんですか?」












琥珀色こはくいろ




男と女の声が綺麗に揃い、カウンターの二人はお互いにハッとした様に目を合わせた。


はじめましてという意味とあなたも見てきたんですねという意味の会釈をしたのをただ僕は何も言えずに見ていた。


僕には分からない深い部分で二人は分かり合っているように見えた。







そんな不思議な夜の話





暖かくて切ない、それでもここにあるもの。

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