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虐めのはじまり

 今まで気にしていなかった……、いや、気にしないフリをし続けていたがついに我慢出来る範疇を超えてしまった。

 自分1人が我慢し、抱え込めば全て丸く収まるのならそうしようと思い、黙っていたのが悪かったのかもしれない。


 最初は可愛いものだった。

 俺にだけ間違った連絡事項が回ってくるとか、回収したプリントに書いた名前を消しゴムで消されるとかそういう影響のあまりないイジメであった。

 連絡事項に関しては奏太が正しいことを教えてくれるし、名前に関しては名無しのプリントがあると言われたタイミングで素直に手をあげれば良かったので見て見ぬふりをすることが可能だった。

 しかし、今回の件をスルーすると流石に収拾がつかないことになると判断した。


 発端は昼休みだった。

 いつものように教室へ麗がやってくる。

 そして、飯を食っていると途中でクラスの陽キャである座間に「ちょっと、町田良いか」と呼び出しをくらった。

 断ったら断ったで後々面倒なことになるのが目に見えていたのでさっさと消化しようと、デイリーミッションみたいな感覚で座間に着いて行った。


 連れて行かれたのは使われていない空き教室。

 カーテンが閉められており、教室は昼の割に暗い。


 「なぁ、お前福城さんと付き合ってんだろ?」


 ガタッと音を立てながら近くにあった椅子に座間は座る。

 一挙一動から冷静さが欠けていると判断できた。

 あまり長居しない方が良いと本能が叫んでいる。


 「うん」


 あまりグダグダと話し込むと何されるか分からないので、素直に頷いた。


 「お前と福城さんは似合わないから別れろ……。って、言ったら別れるか?」

 「別れるわけないだろ。やっと出来た彼女だ。そんな簡単に手離すつもりはない」


 イライラし始めたのか、ピークに達したのか、一定のリズムで床を鳴らし、左手でクルクル髪の毛を触っている。


 「お前、誰に口聞いてんだ? 少し言葉を選べよ」


 ここで俺も大人の対応を見せれば良かったのだろうが、俺とてまだ思春期真っ只中な男子高校生だ。

 多少なりともプライドは存在する。


 「同級生に言葉なんか選ばないだろ」

 「あぁ? お前は鈍感なのか? それともわざと喧嘩売ってるのか?」


 こめかみ辺りをひくつかせながら、ガッと音を立てて立ち上がった。


 「お前は虐められてるんだよ。自覚あるだろ」

 「うーん。思い当たる節はあるけど、あれを虐めって言うのか?」


 虐められているという事実を認めたくない俺は意味もなく強がってしまう。


 「そうかそうか。なるほどな。お前にとっちゃあれはイジメの範疇じゃないってわけだな。良いぞ、ならもっとお前を苦しめることしてやろうじゃないか」

 「殴ったりするのか?」

 「しねぇーよ。した所でお前が痛いだけだろ。身体を痛め付けるんじゃなくて、心を痛めつけたいんだ……。まぁ、精々楽しみにしてろよ。そのイラつく余裕そうな顔を半べそかかせてやる」


 ふんっと鼻を鳴らすと座間はこの空き教室から立ち去った。



 ということがあって、放置できないと思ったわけである。

 放置できないから何をするのかと問われれば特に何もしない。

 何をすれば良いか分からないが正解だろうか。

 誰かに助けを求めるのは気恥しいし、変に恩を売ってしまうのは避けておきたい。

 どうにかこうにかして自分一人で解決出来るに越したことはないが、そう簡単に対処法は浮かばないので困ってしまう。


 「うーん。どうしたもんかなぁ」


 ベッドでゴロゴロしながら頭を回転させる。


 今まで以上のイジメがやってくると聞けば身構えてしまうが、実際にどんなものが来るかは分からない。

 座間からしてみれば大きな嫌がらせだったとしても、俺からしてみれば嫌がらせでもなんでもない……、なんてことも大いに有り得る。

 例えば、クラス全員が俺の事を無視してくるみたいな典型的なイジメは多分俺に効果はない。

 そもそも、積極的に関わろうとする人間では無いので影響を真に受けないだろう。

 そう考えてみると、身構えることも大切だが、1度喰らってみることも必要なのではと思ってしまう。


 「……。それで良いのか」


 自問自答するが答えは出てこない。

 むしろ、簡単に出てこられては困ってしまう。


 「保留だな」


 思考を完全に放棄した俺は諦めて、枕に顔を埋める。

 事が発生してから色々考えることの何が問題なのか。

 所詮俺が耐えるかどうかの問題だろう。

 であれば、慌ててありもしない問題への対策を講じる必要はない。




 次の日、登校するとやたら視線を感じる。

 最初こそ自意識過剰なのではないかと、気にしない素振りを見せていたのだが、廊下を歩いていても、教室に入っても視線の多さは何も変わらない。

 昨日の座間が口にしたことも相まって気にせざるを得ない状況へとシフトしていた。


 「よぉ」


 いつもと変わらない様子で奏太は声をかけてくる。


 「おはよう。あのさぁ、俺なんでこんなに色んな人から見られてるわけ?」


 何か知っているのではないかと思い、奏太に問う。

 コイツはコイツでクラスの陽キャだ。

 事情ぐらいは把握していても不思議ではない。


 「いや、それについて聞こうと思ってな」


 言い難いのか、視線をあっちこっちへと動かした後に、俯き髪の毛を触る。

 そして、下に向いていた視線を上へ向け、天井を仰ぐ。


 「他の女子に手出してるって噂されてるけどそんな訳ないだろ?」

 「はぁ? どういうことだ?」

 「詳しいことは知らないけどさ、町田は福城さん以外の女の子とも付き合っているって噂が耳に入ってきてな……。多分一颯の感じてる視線ってそれじゃない? 心当たりはないんだろ?」

 「ねぇーよ。俺が他の女の子と話せると思うか?」


 奏太はこれでもかというぐらい首を横にブンブンと振る。

 否定してくれるのは有難い話だが、そこまで勢い良く首を横に振られるのはそれはそれで悲しさもある。


 「うーん。何がどういう風の吹き回しでこうなったんだろうな……」

 「あー、うーん。そうだな」


 座間の仕業で確定だろうが、原因をべらべら喋るわけにはいかない。

 適当にはぐらかす。


 「とりあえず、誤解はさっさと解いておいた方が良いぞ。このままじゃ一颯は美人な彼女が居るのに浮気をしている最低な男って認識になるぞ」

 「それはそうだけどさ。どうやって誤解を解けば良いんだろう」

 「愛を叫ぶとか?」

 「ラノベのラブコメじゃあるまいし、勘弁してくれ」


 あーだこーだ話しているとチャイムが鳴ってしまったので、強制終了となる。

 勘弁してくれと口にはしたが、割と真面目に麗への愛を叫ぶくらいしか浮気をしていない証拠は無いのではないかと思ってしまう。

 やっている中でやっていない証明をするのは簡単であるが、本当にやっていない中でやっていないという証明を提示するのは非常に難しい。

 事実しか述べられないから仕方ない。


 「めんどくせぇことしてくれたなぁ」


 誰にも聞こえない声でボソリと呟いたのだった。

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