カラオケデート
土曜日。
国辰駅の改札を抜けてすぐ横にある、コンビニの前の扉横でスマホを眺めながら待つ。
意味もなく首をポキポキと鳴らし、読んでいないTwitterのタイムラインを縦スライドでひたすらに更新する。
スマホの左上に表示されている時計が進むにつれて、俺の鼓動は素早くなっていく。
「お待たせ」
見知った声が聞こえ、イヤホンを外し、顔を上げる。
少しの風が吹いてくるだけでふわりと揺れるアースカラーのシャツワンピに、白いパンツを履いている。
大人っぽさを感じられるコーデでまた、見ているこっちも涼しくなるようなコーデだ。
ファッションに疎い俺でもしっかりオシャレしているなと分かるぐらいにはきっちりとコーデを決めてきている。
無地の白い長袖のシャツの袖を半分まで捲り、ただのジーパンを履いてきている俺が恥ずかしくなってしまう。
「おう。オシャレだな」
「私、女子だよ? オシャレして当然でしょ?」
「いや、まぁそれはそうだけど」
「何? こういうファッションするの意外だった?」
「いや。似合ってるなぁって」
「ふーん。今日はやけに素直じゃん?」
「……。私服の女の子と出掛けるのなんて初めてで緊張してるんだよ。察しろ」
そんな意味の無い会話を繰り広げながら、カラオケ屋へ向かう。
カラオケ屋に入る。
受付には店員が居ない。
「これ押して良いと思う?」
「むしろ押さないでどうするの?」
質問を質問で返された腹いせに呼び鈴を勢い良く押す。
すると、バックヤードの扉が開き、可愛らしいポニーテールをぴょこぴょこさせた女性の店員さんが出てくる。
女子高生だろう。
若さが感じられる。
「いらっしゃいませ――」
決まったマニュアルのセリフを噛まずにダラダラ喋り続け、なんとなくでカラオケの機種を選択し、指定された部屋へと向かう。
「さっき、鼻の下伸びてたんだけど」
「伸びてねぇーよ」
麗は眉間に皺を寄せる。
確かに、女子高生っぽい可愛い店員さんだなぁとは思ったが思っただけで鼻の下伸ばすようなことは何も考えていない。
可愛いなと思っていること自体がアウトだって?
事実なんだから仕方ないだろう。
可愛いものは可愛いと思うし、エロいものはエロいと思う。
だって、男だもの。
部屋へ入る前にドリンクバーで飲み物を回収していく。
麗は烏龍茶で俺はメロンソーダ。
それぞれ確保しつつ、部屋の前に行き入る。
部屋は大きくもなく、小さくもない普通の部屋。
L字型のソファーなので、それぞれの辺の部分に座るように位置をずらすのだが、俺がズレると麗も着いてきて結局隣に座ってしまう。
「なんで着いてくるんだよ」
「むしろ何で隣に座らないのか理解できないんだけど。私たちカップルでしょ?」
「カップルは隣に座らないといけないのか?」
「当然でしょ。それとも私の隣嫌?」
あざとく見つめてくる。
「分かったよ。分かった」
「フフ。顔赤くなってて面白いね」
「なんか最近面白いの基準おかしくなってないか?」
「気の所為でしょ。それよりも歌うよ。はい、何か入れて」
麗にリモコンを渡され、モヤモヤした気持ちをそのままに曲を送信しマイクを握った。
ここからは会話と呼べる会話をすることなく、淡々と交互に歌を歌った。
ちなみに、麗の歌は凄く上手い。
その辺のアイドルには勝ってると断言出来るぐらいの歌唱力である。
学年のアイドルと呼ばれているだけのことはある。
多分、容姿だけで学年のアイドルと呼ばれている訳じゃなく、運動神経や歌唱力全てをひっくるめてそう呼ばれているのだろう。
俺は最初こそポピュラーな曲を選んで歌っていたのだが途中から選択肢が消えてしまい、仕方なくアニソンへと走ったのだが、案外麗がアニソンを知っていて驚いてしまった。
だが、冷静に考えてみれば麗の頭はラブコメ脳で、アニメに精通しててもおかしくは無い。
ダラダラとフリータイムで歌い続けること約5時間。
キリもよくなったので、打ち止め、カラオケ屋を後にしたのだった。
外はオレンジ色に染っている。
平日であれば、学校が終わって帰宅するような時間。
高校の最寄り駅である、国辰駅へ向かっているのでデート感よりも下校感が強くなっている。
「あー……。これ、明日声ガラッガラになっちゃうなぁ……」
「ずっと歌ってたし仕方ないな」
「でも、こういうのって良いね。他の男にデート連れて行ってもらうと観光地とかでさ、疲れちゃうんだよね。あわよくばホテルとか連れていかれそうになるし」
「ビッチじゃん」
「は? 連れて行かれそうになるだけで、行ってないから。てか、私処女。分かる? 処女」
「2回も言うなよ。てか、それは流石に嘘だろ。騙されんからな」
「信じないんだ」
腕を組んで遠い目でこちらを見てくる。
信じないも何も、こんな美少女がここまで誰の手にも渡らず純血を守り続けてるとは到底思えない。
好きだと思った人に告白すれば100パーセント成功するような容姿の持ち主だ。
そんな奴が「処女ですー」って言ったってむしろ誰が信用するんだろうか。
「ってか、一颯のエッチ〜。女の子に処女とか言わせるとかさいてー」
取ってつけたような棒読みである。
感情が全く篭っていない。
「……。まだ信じてないじゃん。なんで信じてくれないの?」
麗は潤った目で見つめてきながら首を傾げる。
「むしろなんで信じて貰えると思ったんだ」
「なんでって……。真実だし」
「はぁ……。麗みたいな美人さんが手出されてないわけが無いだろ」
「何? 本当に私の事ビッチだと思ってる?」
頷きたくなるが、グッと堪える。
「一颯からどう思われてるのか分からないってか、分かりたくないけれどね。私結構男を見る目はあると思ってるよ。考えてみ。高校で私が誰かと付き合ったみたいな噂流れたことあった?」
そもそも俺は学年のアイドルという存在としてしか認識していなかったので、噂も何も知らない。
聞いていたとしても、聞き流していて覚えていない。
「知らん」
「でしょ? 私誰でも付き合うようなたらしじゃないんだよ」
麗は俺の額に人差し指を突きつける。
そして、二カッと微笑んだ。
「一颯が初めての彼氏だから。死ぬ前に彼氏作りたいなって思ってたし良かったかな」
口を閉じると恥ずかしそうに少し頬を赤らめながら、人差し指をそっと額から離す。
そのままダラダラ歩き、改札を通る。
東京方面のホームに上がるエスカレーター前で麗は足を止めた。
「チキンだね」
それだけ口にすると、麗はホームへと上がって行った。
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