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らしいことをしてみる

 放課後に麗を直接誘えば良いや。

 そう考えた俺は昼休みに誘うこともせず、放課後になってから覚悟を決め、誘うことにする。


「デートカラオケでも良いか?」

「カラオケ?」


 心臓が張り裂けそうだ。

 麗の反応はあまり良くない。

 声をうわずりながらオウム返ししているぐらいだ。

 きっと「ありえない」だとか、「男としてありえない」みたいなことを言われてしまうのだろうか。

 相談したのはあくまでもイケメンな奏太。

イケメンという最高の取り柄がない俺がカラオケに誘ったところで下心丸出しとか変に勘繰られてしまうのだろう。

 俺は俺、人は人。

 それぞれの対処法があるってことだ。

 麗が俺に惚れきっているとかであれば話は別だろうが、残念ながらどういう心持ちで交際を承諾してくれたのかすら不鮮明である。

 故に、普通のカップルを基準にすること自体が間違っているのだ。

 形式上、付き合っているとなっているが感覚としては友達以上、恋人未満のような気持ちで居るのが過ちは犯さない。


 「あぁ……、すまん。カラオケは無いよな」


 無意味に髪の毛を触りながら、自ら却下する。

 精神衛生上、大胆に拒否されるよりはマシだ。


 「いや、カラオケで良いけど」


 麗は頬を人差し指で掻く。


 「反応的に嫌なのかと」

 「違う違う。大体、プラン立てろって言ったのはこっちだしさ。私がそれは無いとか言う資格ないでしょ」

「そうか……。じゃあ、あれどういうこと?」

「一颯ってカラオケとか行きたがるんだなぁって。なんかあぁいう騒がしい所好きじゃなさそうだしさ」


 確かに、あのような場所へ好んで行くような性格ではない。

 今回だって、奏太に提案されていなければ選択はしなかっただろう。


 「間違ってはないけれど……。別に絶対無理とかじゃないからさ。それに、ちゃんとした観光地行くよりは気持ち的にも楽だし」

 「そう。まぁ、私もカップルが集まるようなデートスポット連れていかれるよりは良いかな。カップルばかりの場所はちょっと苦手だし」

 「まぁ、とにかくそういうことだ。この前言ってたデートはこれで良いだろ?」


 麗は目を瞑って顎に手を当てる。

 しばらくそのポーズで固まった後に、目を開け、ニッコリと微笑む。


 「そうね。合格で良いんじゃない?」

 「なんで疑問形なんだよ」

 「まだ終わってないから。あくまでもここはスタート地点だから。そんなところで満足しているから童貞なのよ」

 「はぁ? なんで、童貞だって知ってんだよ」

 「ふふ。カマかけたら引っかかっちゃった」


 麗は嬉しそうな様子を見せる。

 人の童貞で喜ぶとかコイツビッチかよ。

 あー、ビッチだわ。

 こんな美少女、絶対童貞食いまくってる。うん、間違いないね。


 「一颯。失礼なこと考えてるでしょ。自殺する時、道ずれにするから」

 「やめろ。麗が自殺って口にすると洒落にならん」

 「って、思うのは一颯だけなんだけどね」


 一通りからかい、満足そうな表情を浮かべる。

 

 「それで今日は暇? 暇ならカラオケ行こうよ」


 胸の鼓動を肌で感じながら問う。

 相手に承諾を貰って尚、こうやって緊張してしまう辺り、自分の臆病さを思い知らされる。

 いつもだったら問う前に自問自答し、行きたいわけないよな……というネガティブな思考を作り出し、言葉にするのをやめてしまっている。

 それに比べてみれば今の俺は大きな成長だろう。

 何が俺を成長させているのかは分からないが、果敢に立ち向かうことが出来るのは良い傾向である。


 「……。ごめん。今日は無理かな」

 「あ、うん。そうか……。突然だったし仕方ないよね」


 断られたことで心に大きな負荷が掛かる。

 そして、誘わなきゃ良かったという後悔の念が俺の脳裏を駆け巡った。

 同時に、成功させると思わせるだけ思わせてキッパリと断る麗が悪いという擦り付けをしてしまっている。


 「今週の土曜だったら空いてるよ? 一颯の予定は?」


 目を逸らしながら麗は違う日程を提案してきた。

 本当に予定が合わなかっただけなのかと、ホッとする。

 遊ばれているんじゃないんだなという安心感は偉大だ。


 「大丈夫! 空いてるよ、空いてる!」


 安心感のせいで気が緩み、思わずボリュームを上げてしまった。

 周りに人が居なかったので、周りの視線をかき集めるなんてことは無かったが、麗は苦笑いしている。


 「無邪気だね」


 フォローと言えるのか言えないのか微妙な反応は、1番俺の心にグッサリと刺さる。

 時間差で恥ずかしくなってしまい、頬が段々と熱くなっていく。

 1人勝手に悶えながら、解散したのだった。



 次の日、学校に来ると例に漏れず奏太は俺の椅子に座っていた。

 今日は俺が教室へ入った瞬間に気付いたようで、「おう」と眩しい笑顔で挨拶される。


 「おはよ」


 控えめに右手を軽く上げ、机の上にポンっと荷物を置く。

 奏太は椅子から立つどころか、足を組み始めた。

 口にしなくてもその場に居座るつもりなのが伝わってくる。


 「どうだった? 楽しかったか?」


 頬杖を付く。


 「楽しかったってカラオケか?」

 「むしろそれ以外に何があんだよ」

 「あー……、そうだよなぁ」


 行ってないって言うのが面倒でつーっと目を逸らしてしまう。

 その反応に疑問を持ったのか、怪訝そうに俺の顔を覗く。


 「一颯、誘わなかったろ」


 ペシッと親指で俺の顎を弾く。


 「いや、誘ったから」


 両手を交差させながら全力で否定する。

 自分の都合良く勘違いしてくれるのなら良いが、都合悪いような勘違いは困るので致し方ない。


 「ふーん。それで?」

 「都合悪いから土曜日に行くことになった」

 「なるほどね。まぁ、平日の夕方とかはバイトとかあるだろうし、仕方ないんじゃない?」

 「バイトかぁ……。なんのバイトしてるのか聞いてないなぁ」

 「彼女のバイト先知らないとか……。一颯さぁ、少しは他人に興味持てよ。ちなみに俺のバイト先は知ってるか?」


 俺は黙ってしまう。

 何回か口にしていた気がするが、興味なく右耳からそのまま左耳へ抜けてしまっているので覚えていない。

 思い出そうという努力こそするが、無駄なものである。


 「はぁ……。やっぱり覚えてない。俺はコンビニバイトな。もしかしたら、福城さんなんのバイトしてるか言ってたりしてな」


 他人事だからか楽しそうに笑っている。


 「少し気にするようにするわ」

 「それ、普通だから」

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