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スピードは早く

 気が気でない。

 手術はどうなったのか、麗は生きているのか、なんの病気だったのか。

 気にすれば気にするほど心の中を渦巻く感情はごちゃごちゃに絡まっていく。

 だが、俺がいくら気にしたって知る術はどこにもないのだ。

 残念だが、これが現実。

 考えたところで増えていくのは不安だけなのだ。





 「……。一颯、詳しく説明してくれ」


 麗が学校に来ていないことを知った奏太が聞きにくそうに聞いてくる。


 「今出回ってるような情報しか俺も知らない」

 「彼女が病気で倒れたのにか?」

 「あっちの親がな……。もう関わるなって言うんだよ。手術の成功率が低いから、結果は知らない方が良いって」

 「遠ざけたってことか」

 「すげぇ、冷静だな。もっと胸ぐらとか掴んでくるかと思ったよ」


 奏太には悪いがそういうことを平気でしてくるイメージを持っている。


 「一颯が逃げてるならそうするかもだけどな。一颯の状況が状況なのに怒るほど俺も理不尽な男じゃねぇーよ」

 「そっか」


 そんな会話をしていると教室の扉の音が大きく鳴る。


 「先輩! 先輩〜! 聞きましたよ。大丈夫ですか?」

 「はぁ。さっき奏太にも説明したけどなぁ。俺知らねぇーんだよ。詳しくな」

 「福城先輩のことも確かに心配ですけど、今私が心配してるのは先輩ですよ」

 「は? 俺?」

 「好きな人が倒れてケロケロしてる人なんて居ませんよ」

 「好きな人……。か」

 「……? どうしたんです?」


 夏川は首を傾げる。

 奏太に説明したことを一言一句そのまま同じように説明する。


 「先輩は知りたいんですか? 知りたくないんですか?」

 「どっちなんだろうな。俺にも分からないわ」


 手術の結果という恐ろしいものから目を逸らそうとしているだけなのか、麗の両親の気遣いを無駄にはしたくないという思いで素直に従っているのか自分自身理解していない。


 「どっちでも良いですよ。いつか分かるんじゃないんですか?」

 「他人事だなぁ」

 「他人事じゃないですよ。体験談なので」


 夏川はえへへと少し照れくさそうに頬を人差し指で掻く。

 何がと追求はしなかった。





 それから数日して麗は学校を退学した。

 理由は公開されなかった。

 死んだからなのか、記憶や下半身不随で学校に来られない状態だからなのか、成功しても出席日数的な問題で留年が確定するから退学処理したのか。

 考えても俺たち生徒には知り得ない情報なので考えるだけ無駄である。





 そのまま何が起こるという訳でもなく高校生活は終わりを迎える。

 結局、麗が生きているのか生きていないのかも分からない。

 麗の家の前にフラッと立ち寄ったこともあったが、もう空き家となっていた。




 有難いことに、定期的に告白されるようにもなっていた。

 自分の中で何か変わったという印象はないが、麗と付き合ったことで女性への接し方が大きく変わったのかもしれない。


 「付き合ってください」


 女性側からそう言われても付き合おうと思う気持ちは湧かない。

 告白される度に頭の中から抜けそうになっていた麗の記憶が走馬灯のようにフラッシュバックするのだ。

 どれだけ相手が可愛くても麗には劣るなとか、付き合ったら麗とやったようなデートをするんだろうなとか色々なことが頭の中を巡ると頷けなくなる。


 「ごめんなさい」


 結果としてそう答えざるを得なくなるのだ。





 卒業式。

 もちろんここにも麗は顔を出さない。


 「もういい加減福城さんのことは忘れろよ。無理矢理断ち切った親御さんも麗も報われないからな」


 式が終わって最後の別れを惜しむ中で奏太はそう声をかけてきた。


 「分かってるって」

 「彼女作るのが手っ取り早いんだろうけどな」

 「告白される度にフラッシュバックするんだから無理だろ」

 「それじゃあ、麗のことを知ってる……、というかこの状況を知ってるやつと付き合えば良いんじゃねぇーの」

 「そんな都合の良いやつ居ねぇーだろ」

 「いや、居るだろ。なぁ? 千春」

 「そうですよ……。って、私ですか!?」


 夏川は目を点にし、頬を急速に赤くする。


 「物は試しだ。千春が嫌じゃないなら付き合うべきだな。一颯の克服のためだと思って付き合ってやれ」

 「……。先輩がそれで良いなら」


 夏川は満更でもなさそうにモジモジしてみせる。

 フラッシュバック……しない訳じゃない。

 だが、それを上書きするように夏川との思い出も頭の中を駆け巡る。

 この麗の魔法を解いてくれるのはコイツしか居ないと本能が叫ぶ。


 「夏川。それじゃあ、俺と付き合ってくれ」

 「先輩が福城先輩を忘れられるように頑張りますね」


 こうして俺は夏川と付き合うことになったのだった。

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