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福城家

 「麗っていつもそっちだろ?」


 俺は東京方面のホームを指さしながら訊ねる。

 麗はバツが悪そうに目を逸らし、ゆっくりと頷く。


 「理由は聞いても良いのか?」

 「一颯と別れた後家には帰ってなかったってことよ」

 「そりゃそうなんだろうけどさ」


 なんで家に帰っていなかったのか。

 そもそも家に帰っていなかったのならばどこに向かっていたのか。

 疑問は湧き水のようにふつふつと出てくるが、こうやって曖昧に誤魔化したということは口にしたくないという意思表示だろう。

 であれば、深堀りするようなことする必要は無い。

 むしろ、ここで無理にでも聞き出そうとすれば更に口を固くするだけなのが目に見える。

 麗が喋りたいと思うその時まで俺はじっと待っておくべきなのだろう。


 「まぁ、喋りたくないなら良いよ。浮気してるとかじゃないんだろ?」

 「そんなわけない! 私一颯のこと好きだから……」


 麗は勢い良く喋りきると頬を赤くする。

 この姿を見ていると麗が嘘を吐いているようには見えない。

 そういうことであれば本当に俺が触るような内容では無いのだろう。


 「ありがとう」

 「素直に受け取るのやめなさいよ。凄い恥ずかしいわ……」

 「言われる方も中々恥ずかしいんだからな」

 「そ、それもそうね」


 沈黙が流れたのと同時に電車がホームに入ってくる。

 ドアが開き、俺たちは電車に乗りこんで椅子に座る。


 「どの辺に住んでるんだ? こういう話多分したことなかったよな」

 「うん。私ね、十姫女(じゅうきめ)駅の近くに住んでるわよ。丁度この電車の終点ね」

 「結構都会に住んでるんだな」

 「都会って……。案外そうでも無いわよ。駅回りは確かに都会だけど少し歩いたら住宅街なのよね」

 「そうなんだな。普段そっちまで行かないから知らなかったわ」


 そんな会話をしながら電車に揺られること数十分、麗の最寄り駅である十姫女駅に到着する。

 良く都内で雪が降ると中継に登場する駅なだけあり、改札を抜けてから所々見覚えのある景色が広がっている。

 無論、十姫女駅は片手で数えられる程度しか足を運んだことがないので本当に中継レベルの記憶しかないが比較的どうでも良いことだろう。


 「こっち」


 麗は当たり前のように俺の手を握る。

 こうやって指と指を当然のように絡ませていると俺と麗って付き合っているんだなと肌で実感出来る。


 麗に案内されること十数分。

 栄えている場面から一転し、周りには一軒家と場違いな高さのマンションが所々に建っているような住宅街に入った。

 その変わりように口をぽかんと開けながら田舎者のように辺りをキョロキョロ見渡す。


 「ここが私の家よ」


 麗が足を止める。

 視線の先には白い壁の一軒家が建っている。

 駐車場もあり、道路から見える庭にはトマトが実っている。

 特別大きな家というわけでも無ければこじんまりとした家でもない。

 白い壁なのにかなり綺麗に保っているなという感想が1番に出てくるぐらいには一般的な一軒家という感じだ。


 「福城」

 「ん? なんで突然苗字なのよ? 緊張で壊れたりでもしたのかしら?」

 「いや、表札にちゃんと『福城』って書いてあって本当に住んでるんだなぁって」

 「何よそれ。変なの」


麗はアホを見るような視線を送ってくる。

 酷くね。


 「それよりも入るわよ。あまり外でダラダラ話してるとご近所さんに弄られるし」

 「ご近所さんに弄られるのかよ」

 「そういうものじゃない?」

 「うーん……? そういうものなのか?」


 そういうものなのか否かはともかくさっさと家に入った方が良いというのには頷ける。

 だって、ここで変に引き伸ばしたって緊張が強まるだけだからね。

 それならさっさとこの緊張から解放された方が良い。

 受け入れてもらえるにしろもらえないにしろね。

 答えが分かればどちらにしろ緊張は和らぐし、答えが分からないと悶々として結果緊張に起因する。


 「ただいま。帰ったよ」


 覚悟を決める前に麗はサラーっと玄関の戸を開く。

 この子マジで容赦ないな。

 こういう時は俺のタイミングで行かせてくれよ。

 と、グダグダ言ってたって時が止まるわけじゃない。

 逃げ帰ることも、待機させることも出来ないのでフワフワした気持ちをそのままに俺も敷地内へと入る。


 麗に裾を引っ張られ、無理矢理玄関へと引きずり込まれる。

 中に入ると良い匂いが漂う。

 視線の先には麗に似ている人が立っている。

 麗をそのまま大人にしたような感じの女性だ。


 「初めまして。ウチの娘がお世話になってます。麗の母です」


 ニコっと笑みを浮かべる。

 とても母親とは思えないような容姿だ。

 どれだけ普段から容姿に気を使っているのか考えただけでゾッとする。


 「初めまして。麗さんとお付き合いさせて頂いております町田一颯です」

 「うんうん。いつも話は聞いていたから知ってますよ。麗ったら家に帰ってくると『一颯くんが、一颯くんが』って楽しそうに話してきますからね」

 「ちょっとお母さん!?」


 麗は頬を真っ赤にしている。

 まぁ、こんなの暴露されたら恥ずかしくからない方がおかしい。

 少なくとも俺が暴露された側なら今すぐ身を隠したい。


 「あれ、そういえばお父さんは? 麗の時間を奪うのに相応しいやつか確かめてやるとか言ってたけど?」


 なにそれ、聞いてないんだけど。


 「お父さんはお母さんが外に出しておきましたよ。邪魔ですからね」

 「良かったぁ。お父さん絶対一颯のこと威圧するもの」

 「あの人昔おじいちゃんにやられたことをそのままやり返そうとしてたのよ。自分がやられて嫌がってたのにね。歳って怖いわよ」


 麗と麗の母親は父親の悪口で盛り上がる。

 女子って学校でもかなり怖いけれど、家でも例外じゃないんだな……。

 というか、麗のお父さん絶対に家の中で立場ないタイプだろ。

 可哀想……。


 「あー、その。一応お菓子持ってきたので良かったら受け取ってください」

 「気遣わせちゃってごめんなさいね。元々私たちが突然家に残ったのが悪いのに」

 「いえいえ、どちらにせよ家にお邪魔するつもりでしたし」

 「有難く受け取っておきますね」


 すんなりと受け取ってくれる。

 押し付け合いがあると面倒だなと思っていたので非常にありがたい。


 「それじゃあ私の部屋案内するわね」

 「もうちょっと一颯くんとお話したかったわ」

 「あ、一颯。行くわよ! 早くしなさい」


 麗は半強制的にこの場をシャットアウトして俺を部屋へと連れて行った。

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