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合流

 奏太と解散して直ぐに俺は麗へ連絡する。

 まるで待機していたんじゃないかというぐらい素早く、麗から返信が来る。


『国辰駅に今から来て』


 淡白な誘いではあるが、誘われること自体が嬉しい。

 心をルンルンに弾ませながら俺は国辰駅へと踵を返した。

 何駅か戻ることになってしまうが大した問題じゃない。


 十数分電車に揺られて、国辰駅でへと到着する。

 もう夕方から夜に差し掛かるような時間なわけで、駅には休日出勤していたであろうサラリーマンたちしか居ない。

 いつも見ている国辰駅とは違う姿が見れて新鮮な気持ちになる。

 同時に社畜の大変さを思い知らされて少し鬱だ。


 しばらく改札近くで待っていると麗やってきた。

 俺の事を見つけるなり手を振ってくる。

 俺も周りの目を気にしながら手を振り返しておいた。


 「どうした? 夏川に何かあったか?」

 「ふーん。せっかくまた会えたのに開口千春のことなんだねー。私よりも千春のことが大切ってこと?」

 「いや、そうじゃなくて……」

 「分かってるよ。冗談、冗談。ちょっとだけ意地悪したくなっちゃった」


 麗はイタズラっぽい笑みを見せる。


 「千春は時間経てば良くなりそうかなって感じだったかな。阿佐谷くんの方はどうだった? 告白ってする方もそうだけど振る方も結構メンタル来る時あるんだよ」

 「経験豊富なだけありますなー」

 「ねぇ、それ煽ってるでしょ?」

 「煽ってない……って言えば嘘になる」

 「うん。正直でよろしい」


 なぜかお許しを頂きましたので、まぁ良いでしょう。


 「ちなみに奏太は気にしなくて良さそう。夏川を近付けると流石に気まずそうだけど、俺と話す分には特に問題なさそうだったな」

 「そう。心配する必要は無いかなって思ってたけれどやはりそうね」

 「それだけか?」

 「うん。それだけだよ?」


 麗はなにか文句でもあるかと言いたげな様子でこちらを見つめる。

 睨んで威嚇すらしてこない辺り、冗談とかではなく本気で不思議に思っているのだろう。

 時々麗って常識を欠落させるよなと思うが、まぁ口には出さない。

 不機嫌になられても困るし、俺の社会的地位も危うくなる可能性がある。


 「電話で良かったんじゃね?」


 それでも言いたいことは言いたいので怒らなさそうな所から撫でるように優しく触っていく。


 「そうね……。でも、あんな感じで一颯と解散ってのはなんだか味気ないし、後で顔合わせたいなぁと私は思ってたんだけれど……。これって、その、私だけだったのかな?」


 麗は頬を赤くして、不安そうな表情を覗かせる。


 「そんなわけないだろ。ただ、何かとんでもない事を告白されるんじゃないかってドキドキしてた」

 「ふふ。一颯ったら不安だったんだ」


 俺の頬を突っつきながら笑う。


 「不安で何が悪い」

 「なーんにも悪いなんて言ってないけど?」

 「そうかよ」

 「ふふ」


 麗は不敵な笑みを浮かべると、当然のように俺の手を握る。

 何度手を繋いでも胸がドキッと弾む。

 この他人の温かさにもまだ慣れない。

 いつかこの感覚に慣れるタイミングが来るのだろうか。

 そんなことを考えていると麗はニヤニヤ表情を弛めながら、不規則に俺の手を揉む。


 「どうした?」

 「いや……、一颯ったら照れてるなぁって。ドキドキしてるんだ」

 「そりゃ好きな女の子に手なんか繋がれたらドキドキもするだろ」

 「それじゃあ……、私と一緒だね」


 何だか今日の麗は全体的に甘い。

 いつもは多少の毒を持ち合わせているのだが、今に限っては毒なんてこれっぽっちもない。


 「なんか良いことでもあったの?」

 「なんで?」


 麗は不思議そうに首を傾げた。

 特に何かある訳じゃ無さそうだ。

 少なくとも、意識して甘い感情を表に出しているという感じではない。

 仮にこれが全て演技なのであれば女の子を信じれなくなっちゃう。


 「ずっとデレデレしてるなーって」

 「嘘、私今デレデレしてた?」

 「してた」

 「ちょっ……。恥ずかしいから見ないで」


 顔をカーッと真っ赤にして視線を無理矢理逸らそうとする。

 何だこの可愛い天使は……。


 「はい。もう終わり。行くよ」


 麗は目を逸らしながら俺の手を引っ張る。

 後ろから見てもまだ顔が赤い。

 流石の俺でもこれ以上触れてはいけないというのは分かるのでやめておく。

 これ以上触れていると執拗いと不機嫌になるのが目に見えている。


 「行くってどこにだよ」


 一瞬「そっか行くのか」と受け入れようとしたが、今の話の流れからどこへ向かおうというのか。

 ホテルへ連れ込まれるぐらいしか思い付かないのですが……。


 「一颯……。その表情本当に通報されるからやめて」

 「あ、戻った」


 汚物を見るような視線を送る麗を見て、何故か安心してしまう。

 やっぱり、麗はコッチの方が良いよね。

 甘すぎる麗は俺の中で生きている麗とは絶妙に合致しない。

 だから今までの麗を見ていると変な違和感を覚えてしまう。

 ただ、たまにならこの麗も悪くは無い。


 「……。一颯が私のことをどう思ってるかなんとなく分かったわ」


 麗はこめかみを押さえる。


 「罵倒してる方が似合ってるなと思っただけ。それより、どこ行くんだ? 本当に分からないんだけど」

 「サラッと答え合わせされたんだけど。なんか癪だから大好きっ子やるわね」


 ニヒっと何か画策しているような笑みを浮かべると繋いでいた手を離し、腕を絡ませてくる。

 そして、肩を寄せ、たまに駅とかでみるバカップルみたいなことをしてくる。


 「一颯。大好き。うーんと……、大好き」


 普段やらないようなことをしているせいで、出てくる言葉がワンパターン過ぎる。


 「あー、俺の負けだ」

 「んー。何が?」


 どうやら麗も折れる気は無いらしく全力で甘えてくる。

 こんな所知り合いに見られて困るのは麗だと思うのだが、良いのだろうか。


 「そう言えば目的地は特にないよ。適当に夜の散策をしつつ、話そうと思って。ほら、駅前じゃ色んな人にジロジロ見られるでしょ? なんか、二人の時間を邪魔されてる感じがして嫌だったんだよね」

 「なるほどな。それで? 何を話そうと?」

 「本当はあれこれ前置きして話そうと思ったんだけど、かなり時間も経っちゃったし端的に話すね」


 ポケットからスマホを取りだしチラッと確認すると終電チャレンジをするような時間じゃないにしても、かなり夜深い時間となっている。

 時間を見て改めて世のサラリーマンは大変だなと実感する。


 「明日暇なら千春と会ってあげて」

 「ん? 大丈夫だったんだろ?」

 「大丈夫だとは思うけれど私より一颯の方が何でか懐いてたし。一颯の方が色々吐けるかなって」

 「麗はそれで良いのか? 一応アイツ女だぞ?」

 「一颯は浮気するの? しないでしょ?」

 「絶大な信用だな」

 「私が負けるはずないもの」


 いつの間にかに大好きっ子を演じるのをやめていた麗はとんでもないセリフでドヤ顔をする。

 俺にもこんな自信が欲しかったなぁと切に願い、解散した。

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