パレード共に終わりを告げる物
「何を話していたの?」
麗は興味深そうに訊ねてくる。
単純に興味を持っているだけなのか、それとも良からぬことを頭に浮かべているのか分からない。
「そうだな。覚悟……かな」
「覚悟……?」
何を言っているんだというような視線を送ってくる。
敢えて分かりにくく表現したので、麗が分からなくても仕方ない。
というか、ここで素直に納得された方が色々勘繰ってしまう。
「まぁ、夏川を見てれば良いよ。全て分かる」
「ふーん。そう」
パレードが始まる。
俺と麗、夏川と奏太という感じで知らず知らずのうちにペアとなっており、それぞれ近くにこそ居るのだが、話したりは出来ない距離。
そんな絶妙な距離感を保っている。
パレードは順調に進む。
テーマパークのキャラクターたちの着ぐるみが踊ったり、手を振ったり……と、かなり重労働なことをしている。
あの中身は滅茶苦茶大変だと思う。
ただただ着ぐるみを着ているだけで暑いだろうに、これでもかといぐらい動き回るのだ。
アスリート並みの体力が必要なのは頷ける。
パレードが進むにつれて場の空気も盛り上がっていく。
やはり、音楽の力は偉大だ。
音楽が盛り上がるにつれて、着ぐるみたちの動きもぐんぐんと良くなっていき、最終的にはその光景を見ている俺たち観客が乗せられていく。
雰囲気に呑み込まれた麗は俺の小指に指を絡ませ、俺の方を見て微笑む。
何も喋らずに、その行為を受け入れると麗は頬を紅潮させ、絡ませる指を少しずつ増やしていく。
そして、最終的には恋人繋ぎとなる。
今日既に2回も手を繋いでしまった。
俺からが1回で、麗からが1回の計2回。
自分だけが求めているんじゃないんだということが伝わってきて、なんだか胸の奥が熱くなる。
パレードはクライマックスを迎える。
火花が吹き上がり、音楽も今まで以上にテンポアップしており、周りのカップルたちもそれ相応の行為をし始め、雰囲気も何もかもが最高潮だ。
麗は俺の肩を人差し指で突っ突く。
「ん?」
「千春もしかして告白してる?」
「なんでだ? 聞こえたか?」
「ううん。何となく。そんな気がした」
女の勘というやつだろうか。
きっとそうに違いない。
少なくとも、今夏川を見たって告白をしているようには見えないし、話も聞こえてこない。
なんなら表情すら確認することも出来ない。
だが、夏川が奏太へ告白しようとしていたことは事実であり、この麗の発言だ。
多分告白しているんだろう。
「さっき千春に引っ張られてたのって告白する報告だったりする?」
お見事だ。
その通り過ぎて何も言えない。
俺は麗に隠し事なんて出来ないんだろうなと悟りつつ、頷く。
「で、一颯は背中押しちゃったの?」
「押してはない。むしろ、止めようとした」
「そう……。じゃあ、千春の暴走って所かな。あの告白は絶対に成功しないかな」
麗は夏川と奏太を見つめながらそう口にした瞬間、パレードは終了した。
夏川と奏太と合流する。
夏川、奏太共に顔を引き攣らせ、何とも言えないような空気感を纏っている。
告白をするという事前情報が無ければ奏太が何か余計なことを口にしたんだろうなぐらいにしか思わなかったのだが、流石に今回は違う。
純粋に失敗したのだろう。
「……」
「……」
誰も何も喋らない。
パレードを見ていた人達は次々にその場から離れていくのだが、俺たちは立ち尽くすだけである。
「それじゃあ……。帰ろっか」
場の空気を見兼ねた麗はそう口を開く。
「お、おう。そうだな」
麗の出した船に乗っかっておく。
この空気を変えるのは不可能に近い。
であれば、この空気を作り出しているこの纏まりを崩すのが1番良い。
つまり、今日はもう解散しさっさと帰宅する。
それに限るというわけだ。
ボーッとしていると麗に耳を引っ張られる。
そして、耳元に顔を近づけられた。
「私が千春のこと送るから、一颯は阿佐谷くんと帰って」
なんか俺も嫌われたと一瞬思ったが、今夏川と奏太を一緒にしていても空気が悪いだけであり、それならこの場で別れさせた方が良いということだろう。
麗とイチャイチャしきれないというのは実に不本意だが、こればっかりは文句を垂れていても仕方ない。
「分かった」
「阿佐谷くん送り終わったら連絡して」
「え、うん。分かった……」
こうして俺たちはテーマパークを去ることになったのだった。
俺と奏太はたまたま空いた席に座る。
「贅沢なやつだな。夏川って結構良いと思うけど?」
「……。知ってるのか……。って、知らなくてもあんなの見たら察するか」
「俺は夏川に言われてたんだけどな。あ、もちろん止めといたんだよ? 奏太が頷くとは思えないってね」
「そうか……」
「夏川の何が好みじゃないんだ?」
我ながら意地悪な質問だなと思う。
年下に興味のない奏太が夏川を選ぶわけないと知っていての質問だからだ。
「年下だから……。ってのが半分。もう半分はなんか異性として見れなかった。夏川ちゃんと話してる時って一颯と馬鹿話してるような感覚なんだよ。異性というより友達感が強いって言うのかな」
「つまり、夏川は男みたいだってことか?」
「いや……。そういう訳でも……。あーっ、難しいなぁ……」
奏太の中でも答えが纏まっていないのか、髪の毛をクシャッとする。
それからしばらくすると、落ち着いたのか長い間目を瞑る。
そして、目を開けた。
「一颯。悪かった。一颯と福城さんの時間を奪っちゃって」
「気にするなよ。まぁ、謝るなら俺じゃなくて麗だな。俺は麗に言われたから従ってるだけだしさ」
「でも、一颯だったら言われなくてもその位は気遣うだろ」
「どうだろうな。買いかぶりな気がするけど」
仮に麗がこの提案をしていなかったら俺の口から提案していたのだろうか。
少なくとも頭の中には浮かんできたとは思う。
思うが、正直それを口に出したとは思えない。
麗と一緒に居る時間を天秤にかけてしまうとどうしても麗を優先したくなってしまうのだ。
こればっかりはどうしようもない。
「今まで女の子を振っても何とも思わなかったのに、夏川ちゃんを振った時はすげぇ胸が痛かったんだよ。この居心地の良い関係が壊れると思ったからかな」
「それってあれじゃね」
「あれ?」
「うん。あれ。恋」
「俺が夏川ちゃんに恋? んな、わけないだろ」
そんな冗談を言い合いをしていると乗り換えの駅へと到着する。
俺は電車を乗り換え、奏太はこのままだ。
「それじゃあ。本当にありがとうな」
「感謝も麗に伝えとけ。じゃあな」
俺たちはこうして解散したのだった。
お世話になっております。
バタバタしなくなると思いきや、むしろバタバタしてしまい、なろうを開く時間すら無くなってきた漆田です。
ここ数週間はこのペースでの投稿が続くことになると思います。
エタることだけは無いので、ペース遅くてもゆったりとお待ち頂けると嬉しく思います。
よろしくお願いします。
 




