夏川の画策
辺りが暗くなる中、俺は夏川に手を引っ張られそのまま影になるような所まで連れて行かれる。
人の足音が忙しなく聞こえ、話し声も雑音として耳に入ってくる。
「おい。せめてなにか言えよ。無言でどっか連れてくのはやめろ」
「あ、すみません。つい……。んー。この辺なら流石に聞かれませんよね」
落ち着かない様子で辺りをキョロキョロ見渡す。
「ふぅ……」
夏川は胸の当たりをギュッと掴みつつ息を大きく吸っている。
その一連の動作で落ち着きは取り戻したようで、動きにやかましさは消えていた。
「先輩。私やろうと思うんです」
夏川は決意した顔でそう宣言するが、何が何なのか全く理解出来ない。
俺は夏川の心を読める人間じゃないのでむしろ、この言葉だけで読み解こうと思う方が間違いだ。
「何をだよ」
「……。逆になんだと思いますか?」
小悪魔のようにイタズラっぽい笑顔を見せる。
「わかんねぇーよ」
「先輩ったら本当につまらないですねー。少しぐらいは付き合ってくれても良いじゃないですかー」
「はいはい。悪かったよ。で、何をしようとしたんだ?」
「本当に悪かったと思ってるんですかねー……。軽く流されただけなような気がするんですけど、まぁ、先輩にそこまで求める方が間違いかもしれませんね」
夏川は呆れたようにそんなことを口にする。
俺の事なんだと思っているのだろうか。
酷すぎるけれど、言っていること自体としては間違いでは無いので何も言い返せない。
まさにこれこそぐうの音も出ないということだ。
「私、阿佐谷先輩に告白しようかなーって思ってるんですよ」
なんだかそんなことだろうなとは予想出来ていたので驚きはしない。
ただ、単純にテンプレみたいな展開だなぁと思うだけ。
少なくとも、今の状態で夏川が奏太に告白しても成功率は限りなくゼロに近いだろう。
人と人が関連している以上、絶対とは言いきれない。
俺自身がゼロパーセントの状態で告白に成功してしまっているのだ。
だが、今の奏太と夏川の関係性や奏太の考え方的には無理と考えるのが至極真っ当である。
傍から見ていても奏太の想いは夏川よりも麗の方へ向いている。
そんな状態で仮に成功したって長続きしない。
「申し訳ないけど――」
「分かってます。分かってますよ……」
夏川は俺の言葉を遮る。
遮断するだけ、遮断すると夏川は黙る。
そして、しばらく沈黙が続いた後に神妙な面持ちでそっと口を開く。
「私だって今の状態じゃ成功しないだろうなって思ってるんですよ……。でも、今言わないと一生言えない気がして……」
「それ、多分だけどさ。この雰囲気に飲み込まれてるだけじゃねぇーか? 冷静になった方が良い」
テーマパーク特有の雰囲気に飲み込まれているだけだ。
周りにはカップルが沢山いて、イチャイチャしても良い、イチャイチャしたい……。
そして必然的に脳みそが恋人を手に入れたがってしまう。
こればっかりはどうしようもない。
夏川の目の前で何も配慮せずに麗とイチャイチャしてしまった俺の責任も少なからずあるだろう。
あるからこそ、夏川の飛び込みを食い止めなければならない。
食い止める義務が俺にはある……。
そう思っている。
「先輩。知ってます? 恋って冷静になれないんですよ。熱くなって熱くなってどんどん熱くなって。この熱が冷める時は好きな人に魅力が無くなった時です」
「つまり、もう止まれないと?」
夏川はふふと微笑む。
「先輩。ちょっとだけ違いますよ。止まれないんじゃないんです。止まらないんです」
「同じ意味だろ」
「同じ意味じゃないですよ。意思があるか無いかですよ」
「そういうもんか」
「そういうもんです」
「告白する気持ちも変わらないか」
「変わらないです。成功しても、失敗しても良いですから。まぁ、そりゃ成功した方が良いですけど。でも、私的にはすることに意味があると思ってるんですよね」
人差し指を唇に当てて、上目遣いでそんなことを口にする。
「先輩的には私の告白失敗すると思ってるんですよね?」
「そうだな……。あぁ、そうだよ。とても奏太が頷くとは思えないな」
ストレートにぶちまけてしまい、一瞬焦るが過去には戻れないし、ここで変に誤魔化そうとすると話がややこしい方向へ進みかねない。
だから、取り繕うとするのを諦めて一言一句伝えておく。
「先輩がそう思うのならきっと成功はしないんでしょうね。私と阿佐谷先輩の付き合いなんてここ数日、数週間のものですし。今までは一方的に想いを抱いてただけで認識すらされてなかったと思いますから……。まだ、阿佐谷先輩のことを知り尽くせてないんですよ。阿佐谷先輩を知り尽くしている先輩がそう言うならそうなんでしょう」
悟ったような表情を浮かべて口にする。
「それでも告白はしようと思います。さっきも言いましたけど、ここで告白しないと一生思い伝えないことになりそうなので」
夏川の気持ちは変わらないらしい。
ストレートに伝えてもなお、夏川の気持ちが揺れないのであればもうこれ以上俺ができることは無い。
これ以上口にしたって、執拗いと嫌がられるだけである。
もう、それならば少ない可能性に賭けて告白をし、玉砕してくれば良い。
「まぁ、それなら頑張れよ」
俺はポンっと夏川の肩に手を置いておく。
そのタイミングでパレードの為に交通整理が行われる。
人もかなり増えてきて、この辺りにまで人が溢れている。
「人増えてきましたし、私達も戻りましょうか。これ以上先輩のこと借りていると福城先輩に文句言われちゃいますし」
「そうだな。戻っとくか」
「はい。そうしましょう。あ、もしも私が振られたら全力で慰めてくださいね。それが先輩の仕事ですから!」
夏川はスッキリとしたような表情を浮かべ、奏太や麗が居る場所へと戻っていく。
俺もはぐれぬように着いていく。
こんな可愛い子にこれだけ想われている奏太は幸せ者だ。
そして、夏川が可哀想だ……。




