想いが全て
放課後。
麗からは昼休みに「一緒に帰るからね。勝手に帰ったら私死ぬから」と高らかに宣言していた。
きっと、麗でなければ適当なこと言ってるなと鼻で笑うのだろうが、麗の場合は死のうとした前科があるので冗談として受け取ることは出来ない。
なので俺は今、麗の教室の前の廊下で待っている。
しばらく待っていると、教室の扉が開き、人が走ってでていく。
デパートかよとツッコミたくなる光景だが、さっさと帰りたい気持ちは分かる。
待てど暮らせど麗は出てこない。
何しているのだろうかと思い、ちょろっと教室に顔を覗かせる。
「麗〜! あんた本当にアレと付き合ってるの?」
「アレ?」
「そうそう、アレ。なんだっけ? 松田一颯だったっけ?」
「ちょー、加奈子違うよ〜! 前田一颯だってー!」
「あー、前田だったわ。前田!」
座っている麗は、茶髪女子2人に絡まれていた。
スカートを極端に短くし、腕を捲っている所から彼女たちは陽キャだと分かる。
メイクもかなり濃い。
ケバすぎて、顔がテカテカしちゃってる。
少しはナチュラルメイクであれだけ美しさを演出出来ている麗を見習った方が良い。
ナチュラルメイクにしたら、ブサイクがバレちゃうのか、こりゃ失敬。
「町田一颯」
「あー、そうそうそれだわー」
「陰キャすぎるから名前なんて覚えてないよねー」
「ねー」
麗の訂正に2人はうんうんと頷きながら、息を吐くように俺を罵倒しゲラゲラ笑う。
自分のことを馬鹿にされているのだが、あまり苛立たない。
目立たないということに関しても、陰キャということに関しても概ね認めているからだろうか。
陽キャからしてみれば、陰陽師も陰キャも然した違いではないだろう。
「それで麗はその町田ってのと付き合ってるの〜?」
「そうだけど?」
「え〜、もっと良い男絶対居たでしょ! なんで、あんな冴えない男と付き合ってるわけ〜? 意味わからないでしょ」
「分からないよねー」
「何か弱みでも握られちゃった? それなら任せてよー。友達として助けてあげちゃうねー」
「アハハ! それおもろー」
傍から見ればそれぐらい不釣り合いに見えるということだ。
自殺しようとしたところを助けたから付き合ってもらっているってのは考えようによっては脅しに近しいのかもしれない。
少なくとも、麗の想いを尊重しているとは声を大にして宣言出来る行為ではない。
今、麗が死に対してどう向き合っているのかなんかは分からないが、俺の事を命の恩人と思っている可能性だってある。
それだったら尚更俺からのお願いなんて無下には出来ないだろう。
断れない環境を作り出して、強制していると考えると中々姑息だ。
「何も面白くなくない?」
「だよねー……。へ?」
陽キャ2人の表情は一瞬で曇る。
笑みなんてものはどこかに吹き飛んでしまった。
「私の事、自分で物事決められない子供とでも思ってるの?」
「いや、そういうわけじゃないよねー?」
「そうそう。弱みだから! 助けてあげよーって」
「助けてなんて言ったっけ? 助けて欲しい時には……、何でもない」
麗はコホンと咳払いをする。
「とにかく、弱み握られてるわけじゃないから。関わらないで。私は私の意思で付き合ってるの」
「そ、そう……」
陽キャ2人組は麗に気圧され、さっきまでの勢いを完全に失っている。
「それに短い期間だけど時間与えるだけの価値がある人だと思ってるから。きっと、顔にしか興味無い君たちには一生理解出来ないと思うけれど、理解されたいとも思ってないから」
席を立ち、うーっと背伸びをして、荷物を背負う。
数歩歩いた後、パッと後ろを振り返った。
「私、君たちみたいな人達にかけるような時間残ってないから。邪魔しないでね」
可憐に髪の毛を靡かせると麗は教室の出口に向かって歩き始めた。
色々と盗み見していたのがバレると焦った俺は、慌ててその場から離れようとする。
しかし、動いた瞬間に麗と目が合ってしまった。
数秒、黙って見つめあった後に何事も無かったかのように目を逸らす。
会話は無く、ただただ2人でしばらく歩く。
昇降口を抜け、赤信号に引っかかったタイミングで気まずくなった俺は「あー」と意味もなく声を出す。
「何それ」
「いや……、なんか気まずくて」
「そう? 私は沈黙も良いと思うけど」
澄まし顔だ。
恋愛経験の差だろうか。
余裕の持ち方が大きく違う。
「それで、さっきまで教室覗いて何してたの?」
「あー、うん……。遅いなぁと思ってね」
「……」
麗は徐々に頬を赤らめていく。
「もしかして、聞いてた?」
照れながら口にする麗を横にコクリと頷く。
聞いていないと嘘を吐いても良かったのだが、後々あーだこーだ言われても面倒である。
「はぁ……。忘れて。面倒な取り巻きを取り払う為の出任せだから。あぁ、恥ずかし」
両手でパタパタと扇ぐ。
「んー、そんなこと言われてもなぁ。俺のことを面白い人間だって本当に思ってくれてるんだもんね」
「もう、やめやめ」
「でも、まぁ俺が居ることで生きる意味を見いだせてるならそれ以上に嬉しいことは無いよね。なんか、誰かのために生きてるって分かるだけで充実感が増してくる」
「何語ってるの? 気持ち悪いよ」
ニヤニヤしながら突っ込んでくる。
「気持ち悪いは余計だろ」
「フフ」
楽しそうに微笑む麗を見て、幸せを肌で感じた。
強制的に付き合うことになったかもしれないが、とても演技で見せる笑みには思えない。
少なくとも否定的な感情を持っているわけじゃなさそうだなと思い、ホッとしたのだった。
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