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お迎えに来た盗撮犯

 待てど暮らせど雨はやまない。

 というか弱まらない。

 この形を崩したくない俺はとりあえずずっと麗を抱きしめておく。

 冷えそうな体を温め合うという点においてもこの抱き合うという行為は非常に意義のあるものなのだ。


 黙って抱きしめあっていると雨音の中に突然、パシャリというスマホのカメラ音が響く。

 俺も麗もビクッと身体を震わせ、即座に離れる。

 音の聞こえた方へ視線を向けると視線を逸らす夏川とニヤニヤしながらスマホを構える奏太が居た。

 2人はそれぞれ傘を持っている。

 常に傘を携帯しているのか。

 凄い女子力高いな。

 いや、女子力なのかどうかもの怪しい。


 それよりも今はスマホを構えている奏太を問いただしたい。


 「おい。何撮ったんだよ」

 「何って、濡れあっている男女が抱擁しあって愛を確かめているシーン」

「それっぽく言ってもダメだからな。盗撮だぞ、盗撮。その写真俺に送った後消しておけ」

 「へへ。しゃーねぇーな。送っておくから許せよ」


 俺と奏太を手を交わす。

 許しを乞う奏太とその写真が欲しくなってきた俺のウィンウィンな交渉である。

 そんなことをしていると後ろの方から物凄いオーラを感じる。


 「消して? 阿佐谷くんは今すぐに消して、一颯も今すぐに消して? け し て?」


 背筋がゾワッとするような恐ろしい声で要求してくる。

 俺も奏太も麗には太刀打ちできないことを重々承知しているので「はいっ」という二つ返事で削除する。

 まぁ、後で復元すりゃ良いだけ。

 簡単なお仕事。


 「あー! ちょっと阿佐谷先輩死んでくだい!」

 「はぁ? なんだよ、突然」

 「ちょっ、阿佐谷そっち見ちゃダメですってー! 先輩は阿佐谷先輩のこと殴ってくださいー!」

 「なんで俺が奏太殴らなきゃいけないんだよ。俺まだ捕まりたくないんだけど」


 スっと麗の方に視線を向けて全てを理解する。

 しばらく裏のこの状態を見ていたのでなんも思わなかったがこいつの服透け透けじゃん。

 下着が丸見え。

 俺は思考よりも先に奏太の目を手で隠してしまう。

 彼女の恥ずかしい姿を他人に見られて興奮するような性癖は生憎持ち合わせていない。


 「いってぇなぁ……。皆揃って何すんだよ」

 「阿佐谷先輩。今、福城先輩透け透けなんですよ。肌の色もブラジャーの色もくっきりと見えちゃってます!」

 「はぁ? そんなレアなもん見せろよ」

 「ひぃっ……。阿佐谷くんって最低ね」


 麗は体を隠すようにしながら、冷たい視線を奏太へ送る。

 殺意なんて感じられない、ただただ見限られたような視線だ。

 まだ殺意が含まれている方が冗談みが感じられて良い。

 こんな、凍てつくような視線はただただ悲しくなってくる。


 「先輩も気が利かないですね。彼女の下着が見られそうになっているんですから何か服ぐらい買ってきてあげたらどうですか?」

 「服なんてこんな所に売ってないだろ」

 「売ってないだろじゃいんですよ。ここテーマパークですよ? 遊園地ですよ? お土産用の服ぐらい幾らでも売ってますから適当に買ってきてあげてください」

 「でも、麗の好みとか……」

 「こんな状態で好みとかそんなこと気にしてる余裕ありませんから。女の子にどんな理想抱いているのか知りませんけど、ブラジャーを不特定多数に見られるよりファッションセンスの欠片もない服着てた方がよっぽどマシですよ。だから、さっさと買いに行ってください。このド変態は私がしっかり責任持って管理しますから」

 「ちょっ、夏川ちゃん。ド変態って酷くない?」

 「酷くないですよ。そんな福城先輩のおっぱい見たいなら揉めば良いんですよ、揉めば!」


 そりゃ、好きな人が他の女子に欲情していたら想いを隠していたとしても良い気はしないだろう。

 夏川は私恨たっぷり含ませながら、奏太の頬を両手で挟む。


 「先輩、いってらっしゃーい!」


 早く行けと言わんばかりに見送られた俺は、雨でペラッペラになってしまった地図を片手に、空いた方で傘を持ち、お土産屋へと向かったのだった。





 意識しながら地図を見て気付いたのだが、お土産屋は結構存在している。

 アトラクションに付随して存在しているものもあれば一戸建てでポツンと建っている場所とある。

 かなりあるのでよりどりみどりだ。


 「うーん。せっかくならこれからも着られるような奴の方が良いだろうな。プレゼント的なね」


 そうは言ってみるものの、どこの店にどんな服が売っているのかは流石に分からないので結局俺の選択肢はそこまで広くない。

 そもそも俺のセンス自体が壊滅的な可能性もあるのでお手上げだ。

 もう、深いことは考えずに無難なものを買っていくことにしよう。


 1番近くにある店へと駆け込む。

 頭に青いリボンを付けた柴犬のようなキャラクターがコンセプトとなっているアトラクションに付随するグッズショップだ。

 結構男女共に人気なキャラクターであり、衣類が多めに存在している。

 この俺でも「あ、このキャラクター見たことある」という風になるレベルで有名だ。


 選択肢が思ったよりも広くちょっと悩んでしまう。

 真ん中にでかでかとそのキャラクターがプリントされているものもあれば、胸ポケットからひょこっと顔を出しているようなデザインのもの……とにかく本当に様々なデザインの服が存在している。


 「こりゃ困るな」


 どれを選べば良いんだろうかと少し悩んでしまうが、直ぐに悩んでいる場合では無いことに気づく。

 俺が決めようと思うからダメなのだ。

 次誰かが手に取ったものを購入しよう。

 うん、きっとそれが世間一般的な意見に違いない。


 そんなことを考えていると、目の前の女の子が真っ白なTシャツに読めないアルファベットとキャラクターがプリントされた服を手に取る。

 パッと見た時は何だこの派手な服はと思っていたが、改めて見てみるとまぁ無難なのかもしれない。

 俺の無難の基準は無地なので何かプリントされていると無条件に派手だなと思ってしまうのだ。


 ササッと購入し、麗たちの元へと戻る。

 大体所要時間は5分ちょっと過ぎくらい。

 まぁ、時間はかかっちゃったなと思うが戻ってみると奏太は未だに夏川によって妨害されていた。

 夏川は奏太と触れ合えて楽しいのだろう。

 奏太は奏太で本気になって見ようと思っていない。

 マジで性欲に負けているのなら夏川なんて簡単に押しのけられるはずだ。

 コイツらずっと茶番してたのかよという気持ちになりつつ「おう。帰ったぞ」と声をかけ、服を麗に手渡す。


 「ポチー? まぁ、無難なセンスね。グッズショップで買ってきたのかしら?」

 「うん。近くにあったから」

 「そう。グッズショップの中からであればかなり無難なもの選んできたわね。もっと派手なヤツたくさんあったんじゃないかしら?」

 「あったな。目がチカチカしそうだった。そっちの方が良かったか?」

 「そんな事ないわよ。むしろ、一颯ったら良いセンスしているなと感心しただけだよ。それじゃあちょっと着替えるからあっち向いていてくれ」

 「はぁ? ここで着替えるのかよ」

 「もう透けてるんだしどっちもどっちじゃない? 早く私を隠して」


 ワガママなお嬢様を守るために俺は仁王立ちしておく。


 「阿佐谷先輩も隠してあげてください」

 「あっち向いてた方が良いか?」

 「なんで阿佐谷先輩が福城先輩の方見るんですか。先輩に殺されますよ」

 「一颯に殺されるとか葬式で恥ずかしいから絶対にゴメンだわ」


 奏太はそんなとんでもない事を口にして仕事を全うする。

 いや、スルーしようと思ったけどさ、俺の扱い酷くね?

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