乗り終えて
「まだまだ時間あるな……。ファストパス平気で昼過ぎじゃん」
室内のジェットコースターを乗り終え、ファストパスの時間を改めて確認した後に、落胆する。
なんだかんだアトラクション乗ってれば時間なんて過ぎるだろという甘い思考を持ち合わせていた時期もあったが、現実はそこまで甘くはない。
「そうですね……。ちょっとお腹すきましたし、ご飯でも食べませんか? 色々食事できるところあるんですよねー」
夏川は地図を広げてはしゃぐ小学生のようにあちこち指をさして微笑む。
ポニーテールがぴょんぴょん揺れるのを見るとこちらまでなぜか微笑ましくなってくる。
「飯ありだな。ある程度系統だけ決めてさっさと向かおうぜ。これだけ人多いってことは昼もかなり混むだろ? 昼飯食うのにも並ぶとか流石に辛いんだけど」
「お昼は分散しますし、回転も早いですからアトラクションに比べれば早いと思いますよー」
「そういうもんか」
ここでふと思案する。
今まではアトラクションでの迷子等を危惧して、奏太や夏川と逸れぬよう一緒に行動していたが飯に関してはそこまで気にする必要もない気がしている。
というのも、地図はあるし、昼飯であればスマホも直ぐに確認できるはずだ。
どうしても連絡が取れなくなるという最悪の展開は避けられるだろう。
俺と麗で迷いに迷ってしまうという展開を避けられるのであれば、4人行動する理由もそこまでない。
むしろ、夏川の為に奏太と夏川の2人っきりな空間を作ってあげるべきなんじゃないだろうか。
言葉でチケット代の感謝を伝えるよりも、夏川に対してメリットのある行動で感謝を伝えた方がきっと良い。
何せ、俺と麗のデート代が浮いているのだ。
その一点だけで夏川に肩を貸す理由としては十分すぎる。
「せっかくだからさ、昼飯麗と2人で食べたいなって思うんだけれどどうかな?」
「一颯? 4人で来たのにそれじゃあ申し訳ないよ」
「福城先輩良いですよ。遠慮しなくて。先輩と2人でご飯食べたくないなら私たちと食べても良いですけど、そうじゃないなら存分に楽しんでください! こうやってきたのに気を張るのはつまらないですからね!」
俺の出した船に気付いたのか、それとも夏川の本心なのか分からないが良い方向へと転がす。
そこまで言われてしまった麗は「そ、それなら……」と食い下がる他ない。
蚊帳の外となっている奏太はボケェーっとスマホを眺めている。
「奏太。責任もって夏川のこと見ておけよ。コイツ顔だけは可愛いから1人にしたらどっか連れ去られるかもしれないしな」
「任せとけ! というか、むしろ一颯は福城さんを取られるなよ。一颯の場合は隣に居ても福城さんナンパされそうだもんな」
「どういうことだよ」
「深い意味は無いぜ。いや、本当に、マジで」
スマホをポケットにしまいつつ、アハハと誤魔化す。
「それじゃあここで一旦別行動ということで。先輩たちご飯終わったら連絡してください。私たちそれまで待ってますから!」
「おう。連絡しとく」
こうして俺たちは1度解散したのであった。
地図を夏川から貰い忘れてしまい、手ぶらで歩く。
隣に麗のような綺麗な人を置いて歩くとかなりの注目を浴びてしまう。
本当にそこらの女優さんやモデルさん顔負けな顔立ちなだけあり、注目を浴びるのは致し方ないのだろう。
「一颯?」
「どうした?」
歩いていると突然麗が声をかけてくる。
目的地がないから声をかけてきたとかではない。
今、従業員さんを探して歩いているのだ。
従業員さんに声をかければ携帯している地図を貰えるのだという。
「さっきからずーっと突っかかってたんだけれどね」
「突っかかってた?」
「そう。あのさ、千春と一颯っていつ連絡先交換したの? さっきの会話だとまるで連絡先を交換したみたいな感じだったけれど……。少なくとも私が連絡先交換した時は交換してなかったよね? それとも私の勘違いかな?」
具体的に何と問われると分からないが、とにかく何かとんでもない事に気付いたのかと身構えてしまったが別にそんなことは無かった。
ただ、単純に嫉妬の絡んだ質問を投げられただけである。
答えにくい質問であることに間違いは無いのだが、大きな問題へと発展しない言葉でホッとしてしまう。
少しだけどね。
とりあえず『あの時交換しただろ。覚えてないのか』ととぼけてみようと思ったのだが、麗のことだ、覚えていて囮として残した発言とも考えられるし、仮に違ったとしても夏川の方が煽るためにポロッと口にしてしまう可能性もある。
そう考えると嘘を吐くメリットは限りなく薄目だ。
嘘よりも真実を伏せておくという方が大切な気がする。
「あー、うん。覚えてないんだよなぁ。俺も。なんか気付いたら連絡先に入ってた」
半分くらい言っていることは合ってるし、半分くらい間違っている。
いつ頃登録されたのかも覚えているし、どうやって発覚したのかも覚えている。
覚えているという嘘を吐きつつも、勝手に登録されたというのは嘘じゃない。
このぐらい嘘と真実を混ぜ合わせれば夏川がポロッと口にしてしまったとしても麗に怒られることは無い。
「あの子、本当に何がしたいのか掴めないね。何を考えてるのかイマイチ読めないから苦手」
「苦手苦手言う割に結構面倒見てるよな。麗って本当に嫌いな奴には話しかけたりしないだろ?」
「それはそれ、これはこれ。あの子はいつも近くにいるから関わるざるを得ないでしょ? こんな近くなかったら距離とってるから」
なぜ意地を張るのか理解出来ないが、夏川と仲良いことにはしたくないらしい。
自分では気付いていないだけって可能性もあるが、まぁ今の状態で特段問題ないのでわざわざ客観的に見た状況を突き付ける必要も無いだろう。
「夏川の話はどうでも良いけどさ。麗ってマジで凄いな。こんな視線浴びて有名人かよって思っちゃうね」
「なぜか目を引いちゃうの。そんな凝視する人は居ないけれどね。でも、すれ違いざまに見られたり、少し遠くから視線を感じたりってのはしょっちゅうだよ。昔は慣れずに怖かったけれど最近は慣れてきたかな。私って可愛いし」
「夏川みたいなこと言ってるな。事実だからタチ悪いわ」
本当に可愛いから困る。
「色んな人が視線くれるおかげで話しかけにくくなってるのは有難いよ。ナンパとかされないし、街のキャッチさんにも捕まらないから」
「そういうもんか」
「そういうものだよ」
完全に素モードへと移行した麗は「ふふふ」と楽しそうに笑った。




