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 「よっしゃー! 一颯。ファストパス取りに行くぞー! ついてこい!」


 奏太はそれだけ声を出すと詳しく説明することなく園内を突き進む。

 出迎える有名なキャラクターの着ぐるみも、写真スポットにも見向きもせずただただそのファストパスやらを取得するためにどこかへ向かう。

 説明がないのは単純に奏太が無能なだけなのか、それともファストパスのシステムを全く理解していない俺が悪いのか。


 「どこ行くんだよ」

 「どこ行くってファストパス取りに行くんだろ。一颯ったらお前ニワトリか?」

 「3歩歩いても忘れねぇーよ。元々知らねぇーんだよ」

 「はぁ? マジで? ここ来ないのか? 福城さんとの絶好なスポットだろ」

 「デートスポットとしちゃ有名だけどなぁ。まだ付き合って1ヶ月近くだしさ、家族とも来なかったから来ないし何も知らないんだよ」

 「はぁ……。福城さんも一颯も知らねぇーのか。そりゃデートで来ないわけだ。しゃーねぇーから俺が少しだけ案内してやる」

 「案内出来るほど園内の地図頭に入ってるのか? お前ガチ勢かよ」


 ここの遊園地に来たことは無いが、一般教養として広い面積を有していることぐらいは知っている。

 わざわざ訂正する必要も無いと思っていたので言っていないが、こういう世界観を作り出している施設は遊園地ではなく、テーマパークである。

 多分ここもテーマパークという扱いになるのだろう。

 調べたこともないので正しいことは何も知らないが国内のテーマパークの広さランキングみたいなのがあったらきっと上位にくいこんでくるはずだ。

 それぐらい名前は有名だし、広いというイメージもある。


 「覚えてるわけないだろ。俺別にガチ勢じゃねぇーからな。ビックリフライデーリバーに向かいながら見えてきたアトラクションについて説明するだけ」

 「なるほどな。じゃあ、あのでっかい城は何のアトラクションなんだ? 中にジェットコースターとかあったりするの?」

 「無い。あっらしいけど俺は行ったこともないし、詳しくどんなのだったかも知らない」

 「じゃあただあるだけってこと?」

 「らしい。結婚式とかはあったりするらしいけど」

 「ふーん。そうなのか」


 行くところ、行くところのアトラクションについてあれこれと聞く。

 聞いておけばある程度の答えが返ってくる。

 そこそこ知識として持っているのだろう。


 「逆になんでそんな何でもかんでも知ってるんだ? そんなに来るような場所じゃねぇーだろ?」

 「はぁ? 少なくとも2ヶ月に1回ぐらいのペースで来るぜ」

 「2ヶ月に1回? 多すぎだろ。金がヤバそう」

 「まぁ、5000円近くが入園料だけで吹っ飛ぶからな。一颯、マジで夏川ちゃんに感謝しとけよ。招待券貰えるとか中々無いことだからな」

 「俺が感謝するより、奏太からの方が喜ぶと思うけどな。夏川、イケメン好きだし」


 好きな人から感謝された方が喜ぶだろうから一応、奏太からも感謝の言葉をかけさせるように仕向けておく。

 俺は後で個人的に感謝の言葉伝えておこう。


 「それにしても、来すぎだろ。別に好きなわけじゃないんだろ?」

 「そうだな。特別好き……。ってわけじゃないな」

 「じゃあなんでそんなに来るんだ?」

 「ほら、女ってな。ここに連れて行けば大体満足するんだよ。楽しいし、お姫様気分になれるし……で。俺は俺で一々デートプラン組み立てるの面倒だしな」

 「でも、2ヶ月に1回のペースだと飽きられるだろ」


 相当ここが好きじゃないと流石に飽きると思う。

 少なくとも俺は飽きる自信がある。

 だって、この園内にあるアトラクション自体は2ヶ月で入れ替わったりしない。

 言ってしまえば同じアトラクションにそのペースで乗り続けることになるのだろう。

 そんなもん飽きるなという方が厳しい。


 「俺は飽きてるさ。すげぇー並んで時間食われるし、やってることは何も変わらないし。でも、毎回違う女の子だからな。話を楽しむと思えば案外悪くない」

 「お前女の噂無くなったなと思ったけどそんなこと無かったんだな」

 「いや、1年の3学期からは女の子と遊ぶのやめたぞ。福城さん追っかけてる方が楽しいし」

 「アイドルみたいな扱いするなよ……」

 「いや、あれはアイドルだろ。一颯は知らねぇーかもしれないけどな、お前と付き合う前までは手振ったら蔑むような視線を送りながら手振り返してくれてたんだぞ」

 「知らねぇーよ。ってか、嫌がられてるだろそれ」


 奏太が学年のアイドル、学年のアイドルと言っていたのは知っているがあくまでもそういう称号的な扱いかと思っていた。

 だが、話を聞く限りマジでアイドルみたいなことしてたんだな。

 してたというか、一方的にされてあしらってたって感じがするけど。


 「あの舞台での告白は大きかったよなぁ……。あれまでは一颯のこと目の敵にしてるやつそこそこ多かったけれど、あれから『福城さんの恋を応援することこそが正義』みたいな風潮出来上がったしな」

 「知らねぇーんだけど」

 「そりゃそうだろ。一颯そういうコミュニティ入らないし」


 知らない間に話が大きく膨れ上がっていたらしい。

 これ、俺知ってるけど麗と別れたら全方向から大バッシング喰らうやつだ。

 見捨てられないように努力しよう。うん、そうしよう。


  「後は一颯にちょっかいだそうとすると福城さんがすげぇ嫌そうな顔するってのもあるな。福城さんが好きであれこれしようとしてるのに一颯じゃなくて福城さんが嫌そうな顔すると萎えるんだよ。それに一颯って嫌がらせへのスルースキルそこそこ高いしな」

 「そうか?」

 「そうだろ。基本的にブチ切れたりしないじゃん」


 あまり意識していなかったがそうかもしれない。

 というか、奏太のしょうもなくて地味にウザイ嫌がらせという名のイタズラに影響を受け続けていたので慣れているのかもしれない。

 あと、純粋に嫌がらせだと気付いていないところもあると思う。

 基準が奏太だし、そればっかりは仕方ない。


 「ちなみにこれがビックリフライデーリバーな」


 奏太は足を止める。

 汽車のようなジェットコースターが目の前を走り抜ける。

 怖そうという恐怖の感情よりも、楽しそうという感情が先に出てくる。


 「んで、あそこでファストパスを発券するんだよ」

 「あれ? なんか人とか居ないのか?」

 「人は居ないな。入場券かざせば勝手にファストパス発券してくれる」

 「なるほどなぁ。すげぇ」

 「今の時代こんなの珍しくともなんともないだろ」


 そんなことを言い合いながらファストパスを4枚しっかりと確保し、入場ゲートの方へと戻る。

 往復だけでもそこそこな距離あるな……。

 これ、明日筋肉痛確定だわ。

 悟りを開きつつ、2人にファストパスを渡したのであった。

いつもありがとうございます!

これからもよろしくお願いします!

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