目的の遂行へ
「一颯。あのさ……」
「うん」
星羨祭も終わり、ゆったりとした昼休みが過ぎていく。
相も変わらず空き教室で飯を食っている。
「気になってること言って良いかな?」
麗はからあげを口に放り込む。
「あー、うん。ちなみに俺も1つ気になってることがあるんだけどさ、言って良い?」
俺は喋りきった後にウィンナーへかぶりつく。
「なんで千春が居るの?」
「なんで夏川が居るの?」
お互いに同じ疑問を頭に浮かべていたらしい。
我が物顔で椅子に座ってお弁当を広げて、だし巻き玉子を口に入れている夏川は何だと言いたげな様子で首を傾げる。
口の中が空になった後、喋り始めた。
「なんでってなんでです? 先輩と福城先輩がここで食べてることを知ったので食べに来ることの何が悪いんですか? ここは凄い静かですし、なんか先輩たちと居ると気遣わなくて良いので気が楽なんですよー。昼休みぐらいしっかりと休みたいじゃないですか?」
「ここは私たちの愛の巣なのよ」
「あー、そういうイチャイチャは要らないです。お弁当が甘くなっちゃうんですよねー」
「奏太みたいなこと言うんだな。お前」
「そうだ。先輩。阿佐谷先輩のこと紹介してくださいよー。今フリーでしたよね? 紹介してくれれば落とせる自信あるんですよね」
「別に良いけどさ。多分夏川が嫌いなタイプだぞ」
「あー、つまり先輩みたいなタイプってことですか?」
「夏川ってストレートパンチ放つの得意だよな。アイツと同じタイプだと思われるの純粋に嫌なんだけど」
「まぁ、先輩の嘆きはどうで良くてですね。紹介さえしてくれれば良いんですよ。判断は私の仕事ですから」
夏川は「はいっ! ウィンナー頂き! 先輩甘いですよー」と俺の弁当からウィンナーを強奪する。
「ちょっと千春? 何してるのかしら? それ私の特権なのだけれど」
「やったもん勝ちですよ。福城先輩もやれば良いんじゃないですか?」
「何勝手に推奨してんだよ。俺の弁当無くなるじゃねぇーか」
「油断してる先輩の責任ですよー!」
なぜか俺のせいにされてしまう。
解せない。
そして当然のように麗は俺の弁当からウィンナーを抜き取る。
2本あったウィンナーが一瞬にして消滅してしまった。
「俺のウィンナーが……」
悲観するふりをしつつ、麗の弁当からからあげを奪い迷わず口の中にぶち込む。
「あ……。私のからあげが……。ウィンナーとからあげの価値はとんでもない差あるわよ。返しなさい」
「うひぃのはぁはぁいあうよぉ」
からあげを口の中に入れながら煽っておく。
ブチギレるよりも淡々と煽った方が麗に対しては効果がある。
「べ、別に一颯だったら口の中に入れてても食べれるから。だから返しなさい」
麗は後戻り出来なくなったのかそんなことをほざく。
「福城先輩顔真っ赤ですよ。後輩の前でイチャイチャし始めないでください」
「顔真っ赤じゃないわよ。暑いだけだから。それよりも千春は阿佐谷くんを紹介して欲しいのよね」
話が逸れまくっていたが、不都合となった麗がスイッと話を元に戻す。
「そうですね。私みたいに魅力的な女子だったら阿佐谷先輩でも簡単に落とせると思うんですよー。先輩たちどう思います?」
夏川は首を傾げる。
ストレートに言い難いが奏太と夏川が付き合っているビジョンが全くもって見えてこない。
奏太と夏川はカップルというよりも罵り合える友達という方向へ進みそうだなと思う。
奏太は滅茶苦茶モテる。
好意を抱かれた時の対処法をある程度身に付けているような人間だ。
それが果たして正しい対処法なのか、これっぽっちも正しくない間違えだらけな対処法なのかはわかりかねる。
「十中八九成功しない。そもそも奏太って年下興味無いだろ」
「えー、別に1歳差ぐらい誤差じゃないですかー」
「んなこと俺に言われたって奏太が年下と付き合ってるイメージないぞ」
というか、大体奏太は今彼女を欲しているのかすら怪しい。
ココ最近、女関係の噂は聞かなくなっている。
その他のクズ話は所々耳に入ってくる……というか目に入ってくるんだけどね。
例えば、学校の自販機の下には確実に小銭が落ちてるから漁るべきだとか、美術室から黒色の油性ペンを盗んできて我が物顔で使うとか、女子からスマホ借りて「ごめん。パスワード閉じちゃったから解除して」と嘘を吐き、解除をさせ自分の指紋を登録したり……。
まともなことしてねぇーな。
というか、全部犯罪臭してるけど将来大丈夫なのか?
「先輩……。なんでそんな渋い顔してるんですか」
「どうせ阿佐谷くんのこと考えてるのよ。最近知ったけれど阿佐谷くんってクラスの女子をランキング付けしたり独断と偏見で胸の大きさをまとめたりしてるらしいわよ」
アイツそんなことしてたのかよ。
「いや、俺流石にそこまではしてねぇーから。ってか、一颯は一颯で否定してくれよ。そうじゃないと俺が本当にやってるみたいじゃんか」
知らぬ間に奏太がやって来ていた。
「なんでお前ここに居るんだよ」
「女子たち鬱陶しかったから『用事ある』って嘘吐いて抜け出したんだけどさ、行き場所無かったからここに来た」
「どっから聞いてた?」
「今さっきだよ。ありもしない噂を福城さんが喋り始めたタイミング」
「信憑性の高い情報だと思っていたのだけれど……」
「俺はね、女の子を傷付けるようなことはしないんだよ」
「じゃあ何ならするのよ」
「そうだな。こっそり黒板の日付次の日にしたりとかだな」
ドヤ顔でそんなことを口にしているんだから救えない。
というか、いつやってたんだよ。
俺気付いてないってことはすんなり騙されてんじゃん。
「あ、あの……。阿佐谷先輩初めまして。夏川千春って言います」
「んーっと。あ、あれだ。星羨祭の時、本部に居た子でしょ。俺こう見えて結構記憶力良いから」
「勉強には発揮できねぇーけどな」
「うるせ」
これだけしょうもないイタズラをやるようなクズだと証明しても夏川の目の輝きは変わらない。
恋は盲目と言うがここまでだとは思わなかった。
こうやって奏太は女たらしとなっていくのだろう。
羨ましいったらありゃしない。
だが、本人が望むのであれば少しぐらい手伝ってやっても良い。
「それじゃあ、せっかくだし4人でどっか出かけねぇーか?」
「一颯。それじゃあってさ……。前と何も繋がってねぇーぞ。お前も国語の勉強やり直しとけ」
「うるせ」
「遊園地とか行きませんか? 私の親が株主の優待券で貰ったチケットが10枚くらい余ってるんですよね」
「そう。悪くないわね」
「遊園地か。面白そうじゃん。一颯とも行ったことなかったよな。新鮮だわ」
トントン拍子で遊園地へ行くことが決定する。
上手いこと全員今週の土曜日が空いているらしいので日程もすんなりと決まった。
4人で出かけると言いつつ、麗とのデート時間をしっかりと確保しておく。
まぁ、基本的に自分への利益がないものを手伝おうとは思わないよな。
夏川は奏太とデートが出来て、俺は麗とデートができる。
まさにウィンウィン。




