地味ーな星羨祭
ゴールデンウィークを挟み、2人の仲は完全に元へと戻る。
会議という側面で見るととても喜ばしいことなのだが、2人が結束して俺の事を掌で転がすのはどうにかして欲しいと思う。
夏川はいつもの事ながら、麗まで嬉々としながら罵るのだ。
ただ、仲直りしたお陰で会議自体はスムーズに進む。
そもそもある程度の事項は決定しており、後は当日どうやって動くかシミュレーションをするだけ。
簡潔に言ってしまえばやることと呼べるようなやることは存在しない。
日は過ぎていき、ついに星羨祭を迎える。
クラスとしてリレーの練習や学年種目である大縄跳びの練習こそしたが何か印象に残るようなことは起こらなかった。
強いてあげるどすれば、奏太が大縄跳びの時に転ぶ振りをして女の子のケツを触っていてドン引きしたことぐらいである。
やはり世の中は顔が良ければ許されるのだなと、悲しい現実を突きつけられた。
星羨祭は基本的に各クラスごとにまとまって座るのだが、俺たち実行委員は別にまとまる。
また、実行委員の中でも係でさらに細かく分かれるのだが、俺ら首脳陣は本部として中央部分にあるテントの中に椅子を設置しそこで優雅に過ごすことになる。
ご褒美だ。
「選手宣誓ってなんで私なのかしら……。委員長だからってそんな雑用に駆り出さなくても良いと思うのだけれど」
そんな文句をぶつぶつ呟きながら、手元にある紙を眺める。
選手宣誓時に喋る原稿だ。
全校生徒が校庭に出て来てから5分もせずに中央部分へ集まるよう集合がかかる。
本部の人間とはいえ、流石にクラスの輪へ紛れなきゃならないので気乗りはしないが向かう。
クラスの方へ行くと奏太が出迎えてくれた。
「本部席でイチャイチャするなよ? あそこ結構丸見えだからな。福城さんが原稿眺めてる姿とか結構面白かったぞ」
「分かった。特に後半部分を重点的に伝えておくな」
「やめてくれ……。俺生きて帰って来れないかもしれない」
「お前……。麗のこと鬼か何かだと勘違いしてるだろ」
コソコソ喋りながら進行を眺める。
開会式自体は特に問題なく進む。
校長の長い話を聞いた後に、PTA代表の長い話を聞く。
マジでさ「頑張ってください」の一言だけで終わってくれないかな。
なんで長々と話そうとするんだろうか。
あの人たちって絶対性格悪いよな。
麗の選手宣誓もカンニングペーパーなしで言い切る。
自分の彼女があそこで完璧にこなす姿を見るととても誇らしい気持ちになる。
それと同時に何が出来る訳でもない平凡な自分が恥ずかしくなり、何か自分だけにしか出来ないことを身につけようと誓う。
どうせ、終わる頃には忘れてるけどな。
その後も何が起こることも無く平和的に終わる。
何もハプニングが起こらないに越したことはない。
ハプニングが起こった場合影響を受けるのは俺たち本部だ。
のほほんと体育祭を眺めるという天国のような時間を奪われることになる。
開会式が終わり、最初の競技である50メートル走の招集が始まる。
そのアナウンスを聞き流しながら俺は本部へと向かった。
俺よりも先に麗と夏川は座って楽しそうに話している。
こんな最高級な百合の中に割り込むのは男として非常に忍び難いが、割り込まないと俺は放浪人となってしまうので割り込む。
「先輩おかえりなさい」
「一颯。おかえり」
「おう」
特に面白くもない返事をして椅子に座る。
「先輩たちって運動出来るんですか? なんかその辺の話全然聞いたことないなって思ったんですけど」
50メートル走のピストルが鳴り響く中、夏川はなんてことの無い在り来りな質問を投げてくる。
「そうね。小学生の時は代表リレーに選出されててたわよ」
麗はムフンとドヤ顔をしてみせるが、絶妙に答えとすれ違っている。
「福城先輩。私50メートルの話聞いただけで代表リレーの話は一切聞いてないんですけど……。というか、なんで小学生の話なんですか? 今はどうなんです? 今は」
突っ込もうとしたタイミングで夏川が先に茶々を入れた。
羨は眉間に皺を寄せ、渋い顔をする。
もしかして、これで押し通せるとでも思っていたのだろうか。
どれだけ俺たちのことを馬鹿だと思っているのか痛感できてしまい辛い。
「最近タイム計ってないから分からないわ」
「福城先輩……。流石に私でもそれは一瞬で嘘だって分かりますよ」
「いや、本当よ。日焼けしたくないじゃない? だから体育は適当な理由付けてサボってるのよ」
「マジかよ。初耳なんだけど」
「言ってないもの」
「成績とかどうしてんだ? 参加しないと落とすだろそれ」
「適当な事情先生に話してあるから問題ないわよ。毎回レポート書いて提出すれば出席点にしてもらってるのよ。はっきり言って普通に参加した方が楽よ」
「福城先輩の何がそこまで駆り立てるのか分かりません……」
「大丈夫だ。俺も全く分からん」
こんな感じで生産性のない会話をひたすらに繰り返す。
暇なのでこんなんでも有意義だなと思えてしまう。
会話していると時の進みは早いなと思うわけで、俺たちが1番不安視していた企画が始まる。
応援合戦だ。
「まさかあのまま通っちゃうとは思わなかったなぁ」
「ですね。絶対に面倒だったんですよ。じゃないと生徒の案をそのまま通過させないですもん」
「問題が起こったら私たちに責任をなすり付ける気なのよきっと。最低ね」
教師陣を一切信用しない俺たちはそんな会話をしながら見守る。
クラス毎にチーム分けされているので6チーム存在する。
故に、6チームがそれぞれ独自の応援を行う。
どんな応援をするか自体は自由だ。
普通に「フレーフレー」と掛け声をかけるも良し、全員で何か合唱するも良し、ダンスをするも良し……と規制は特にない。
自由度が上がれば上がるほど盛り上がりも上がるだろうという判断の元である。
ちなみに自由度が高い弊害は1つあり、調子に乗った馬鹿野郎がモラルにかけるようなことをし始めるという可能性だ。
下ネタとか叫び始めたら目も当てられない。
その辺は皆の倫理観を信じるしかないのだ。
とか、思っていると始まる。
結論から述べれば特に凄い演出もなければ馬鹿みたいな演出もなかった。
第1回ということもあり、全体的に手探り感の凄いまま終わってしまったのだ。
「思ってたより盛り上がらなかったわね」
「1回目にしては凄いんじゃないですか? やってけばそのうち面白くなりそうですよね」
「単純に詰めが甘かったな」
それぞれが規則なく適当に感想を述べ、そのまま次の演目へと移り、星羨祭は終わりを迎えたのであった。
準備の方に時間を割きすぎて、本番より準備の方が記憶に残ってしまったのは仕方ないことだろう……、と自分に言い聞かせることにする。
まあ、うん。
これはこれで青春だよね。




