見え始めるゴールライン
かれこれ20分近くかけて昭湾駅に到着する。
改札を抜けるが夏川の姿はどこにも見えないのでとりあえず端の方に寄って待つことにする。
俺の中に生きているネガティブさんが『騙されてるんじゃないの』と囁いてくるが、高校生にもなって彼女持ちの人間にそんなしょーもない罠を仕掛けるわけないと自己暗示して気を保つ。
電車がやってきて、去る。
帰宅中のサラリーマンらしき人達の中に紛れて、ポニーテールに赤いパーカーを羽織って黒いスウェットパンツを履いており、赤いパーカーは着崩していて、中の黒いキャミソールが顕になっており、白い肩も形のはっきりしている鎖骨もしっかりと見えている女の子がこちらを見て手を振っている。
制服姿の夏川しか見たこと無かったのでこんな感情微塵も抱かなかったが、この姿を見てしまうと思わずエロいなと思ってしまう。
こればっかりは男として致し方ないことだろう。
むしろ、これで興奮しなかったら何で興奮するんだと言いたくなるぐらいエロい。
1歳差なんて実質同級生だ。
思春期真っ只中な男子高校生にこんな姿は刺激が強すぎる。
童貞殺しだ!
「あれれ? 先輩もしかしてエッチなこと考えてます?」
「か、考えてねぇーよ」
取り繕うとするが表情までは制御出来ない。
自分で表情が緩んでいると理解出来るのが悔しい。
「本当ですか? 正直になったらもっと凄いところ見ても良いですよ?」
「……」
凄いところってどこなんだろうか。
その発育途中っぽいそれを見せてくれるんですか。
お世辞にも大きいとは言えないその果実を……っと、危ない。
夏川に欲情してしまうところだった。
「俺には麗が居るから」
「もー。先輩釣れませんねー。少しぐらい乗ってきたって良いじゃないですかー。夜ですし」
「そうだなぁ。確かに夜だしな……って、夜は関係ないだろ」
「え、ありますよ。夜って雰囲気に流されて先輩が求めてるようなことの成功率上がるんですよー。私はどちらにせよ断りますけどね」
一通り俺の事を掌で転がし満足そうな表情を浮かべる。
「じゃあ、そろそろ行きましょうか。この辺って居酒屋しか無いんですよねー。ショッピングモールの中行けばファミレスあるんですけどどのくらいやってるんですかね」
「知らないけれどそこそこ長い時間やってるんじゃないか?」
「そうですかね? まぁ、追い出されたらハシゴすれば良いだけですから」
「どんだけ居座るつもりなんだよ」
「そんなに長いこと居座るつもりないですよー。あくまでも話が終わればそれで良いですしー」
「分かった。とりあえず行こうか」
「そうですね」
俺たちは某イタリアンチェーン店へと向かう。
困ったらここだ。
神すぎて困ってしまう。
いつもの様に案内され、席へ座る。
2人なのにこうやって大きな席へ案内されると少し落ち着かない。
居にくいなぁなんて思っていると、夏川は女子とは思えないようなぐったりとした姿勢になった。
女の子がファミレスの机で突っ伏している姿なんて見たくなかった……。
マジでコイツが俺に好意を抱いていないことだけしっかりと理解することができる。
悲しいなぁ……。
「先輩何か注文します?」
「腹減ったし普通に飯でも頼もうかな。ハンバーグとかかなぁ」
「先輩……。せっかく女の子と2人っきりなのにそういうの食べちゃうんですね」
「なんだよ。悪いかよ。というか、そんな姿勢してる奴を目の前に異性として意識しろって方が難しいから」
軽く煽ると刺さったのか不機嫌そうに睨み付ける。
言われるの嫌なら少しぐらい女の子らしくしっかり座っておけ。
「それよりも、夏川は何か頼むのか? 頼まないなら俺のとドリンクバーだけちゃちゃっと頼んじゃおうと思うけど」
「うーん。それじゃあこのパンナコッタでも頼みましょうかね」
「良いんじゃね? 俺は奢らないけどな」
「流石に自分で払いますって。先輩、私の事乞食か何かと勘違いしてませんか?」
夏川は少し前にドヤ顔で言っていたことを思い出した方が良い。
俺に奢らせる気満々でしたよね。
君が忘れても僕は忘れないからな!
そんな恨み節をぶつけている間に夏川は注文していた。
手際だけは良いよね。
この子。
「先輩。話なんですけど」
媚びるような表情に、上目遣いでこちらを見てくる。
わざとやっていることを理解しているので特に感情は揺れ動かない。
知らなかったら惚れてたと思う。
基本的に俺はチョロい人間だからね。
「福城先輩ってあんなに頑固なんですか?」
首をちょこんと傾げる。
「頑固ってか負けず嫌いだな」
麗自身が口にしていたセリフをそのまま流用する。
本人曰く負けず嫌いらしいので負けず嫌いなのだろう。
「そうなんですね。いやぁー、なんか引くに引けなくなっちゃったんですよね。正直接しやすいとか接しにくいとか対して興味無いってか気にしてないというか……」
「なら、さっさと適当に謝って全て丸く収めてこい」
そんな私情で話を引っ張られるのは困る。
周りに悪影響を及ぼしているという自覚をして欲しいものだ。
「ただ、謝るのは謝るので癪に障るんですよねー」
「あっちから謝ってくることは絶対にないからさっさと謝ってくれ。あの状態の会議とかマジで地獄なの自覚してるか?」
「してはいますよー。あんな重々しい雰囲気なのに気付かないわけないじゃないですかー。福城先輩とか気付いてなさそうですけど」
「気づいてない……、ってか、気付いてなかったんだよ。麗はそういう人間だ。アイツ何も悪いと思ってないし謝ってもらおうとか企んでるならすぐに諦めろ。時間の無駄だ」
「むぅ……。先輩って福城先輩の味方ですよね?」
「そりゃ彼女の肩を持つことぐらい当然だろ……。それに、麗に謝れって言ったって絶対に謝らないしな。あぁいうのは自主的に謝らせるに限る」
「それって私は説得できると思ってるって事ですか?」
知らぬ間に運ばれてきていたパンナコッタを夏川は口にする。
知らない間に来るなんてなんてこった、パンナコッタ。
「それよりかは夏川ならそれぐらい上手く丸めてくれるかなって思っただけ。俺の見当違いなら謝っとくすまんな」
「ふふん! 別に出来ないとは言ってないですよ」
「でも、やらないんだろ? 俺が期待しすぎてただけだしさ。すまんな」
「待ってください。待ってください。上手くまとめてきますから。先輩、見てて下さいね」
ちょっと煽ってみたら綺麗に乗っかってきた。
この子、チョロい。
チョロイン。
いつもありがとうございます!
これからもよろしくお願いします!




