頑固者
「定刻になりましたので始めます。本日はスローガンについてです。各々持ち寄ってもらったものから私の独断でいくつか選定させて頂きました。この中から好きなものを選んでいただく形にしようと思いますが問題ありますか? これのスローガンが良いとかあれば先に言っていただければ選択肢に加えようと思います」
平然を装うとしているのはヒシヒシと伝わってくるのだが、装うとしているせいで余計威圧感が凄いことになっている。
本来コントロールしなくてはならないであろう生徒会の人たちも気圧されてただニコニコしているだけである。
「無さそうですね。では、ここから投票始めようと思います。挙手制で良いですよね?」
ここから粛々と投票が行われる。
普段であれば麗と夏川がなんてことの無い会話をし、ちょっと重たい雰囲気が軽くなったりするのだが、2人は絶賛喧嘩中ということもあって本当に業務の会話しか行わない。
しかも互いに見下すような地声で会話するので怖さが倍増している。
怖いし、この喧嘩になった原因とてつもなくしょうもないから困ってしまう。
結局場の空気が和むことは一瞬足りともなく会議は終わる。
2人は一目散に俺の元へとやって来るのだがお互いがお互いのことを認識し、鋭い視線を飛ばし合った挙句、お互いにフィッとそっぽを向いてしまう。
夏川自身、立場的に自分が不利だということを理解しているのか何か罵倒する訳でもなく、これ以上睨み続けるわけでもなくサッと荷物を持って颯爽と会議室を後にする。
その流れを見た麗は1人、満足そうにしていた。
「すげぇ勝ち誇ったような顔してるな」
「そうね。これは実質私の勝ちと言っても過言じゃないわね。だけれどね、私負けず嫌いなの。あっちから謝ってもらうまで私は引く気ないわよ。そうね……。謝ってもらって完璧な勝ちになるってところかな」
まるで、勝負内容が変わっている。
これじゃあ、接しやすい、接しやすくないとかの勝負ではなく単純にどちらが先に謝るかのチキンレースみたいだ。
喧嘩理由が脱線しすぎているので、なんで喧嘩しているのか思い出させようか口出ししようと思ったが火に油を注ぐだけなのでやめておく。
俺ったら偉い。
それに口出しをしすぎて変に干渉した結果更に巻き込まれる可能性を考えると1歩引いておきたい。
だからやらない。
単純な話である。
だが、このままだと会議に支障をもたらしすぎてしまう。
「そうか……。じゃあせめて場の空気重くするのはやめてくれる?」
「かなり気遣っているつもりだけれど? そんなに重たくなっているかしら?」
とりあえず、ストレートにぶつけてみたが気の所為だも思っているらしい。
もしかしたら気の所為なのかもと一瞬思い込んでしまうくらいにはすんなり口にしていた。
肌で実感出来たのに、気の所為であってたまるか。
「全然ダメだから。というか、今夏川と目合わせて喋れないだろ。そんな状況で雰囲気が重々しくならないわけが無いんだよ」
「それは私悪くない? あっちが喋る時に嫌そうな顔してくるんだからこっちだって気持ち良く喋れないんだよ。大体、一颯はどっちの味方なわけ? 私が悪いって言いたいってこと?」
「あー、いや。どっちが悪いのかって言われると……困るけどさ」
「ふーん」
「勘違いするなよ。俺はどっちが悪いとか思ってる訳じゃなくて両方悪いと思ってるから」
「そう。やけに素直だね。てっきり私をよいしょするのかと思ってたけれどそうでも無さそうかな」
「俺が思ってること素直に述べただけだからな。こういう面倒事で嘘吐いたって良い事何も無いし」
結局、深めに首を突っ込んでしまった。
その後、麗がどう思って、どんな行動をするのかは分からない。
そもそも真摯に受け止めているかすら怪しい。
俺が頭おかしいと思われている可能性だってあるだろう。
それでも国辰駅に到着してしまった以上解散せざるを得ないので今日はここでお別れだ。
どうなったのか、そしてどうなるのかというモヤモヤ感を胸に抱きながら麗の後ろ姿を眺める。
早く仲直りして欲しい。
ただただそれだけしか思わない。
家に居るとスマートフォンが鳴り響く。
こんな微妙な時間に電話とか誰からだよと首を傾げながら画面を確認すると知らない携帯の電話番号から電話が来ていた。
麗からかと少し浮かれていた俺が恥ずかしい。
とりあえず電話番号だけ控えておいて居留守を使っておく。
何コールか鳴った後、切れた。
そのタイミングでササッと電話番号を検索してみるが、特に検索結果が出てくる訳では無いので悪徳業者というわけでは無さそうだ。
だとしても、俺の見知らぬ人が電話わざわざ掛けてくるってなんだろうか。
あり得るとしたら学校からの連絡だろうが、携帯の電話番号から掛けてくるとは思えない。
「うーん。分からん。まぁ、重要な連絡ならもう1回来るだろ」
1人で勝手に納得した俺はスマホを充電する。
その瞬間にスマホがまた鳴り始めた。
「急に鳴るなよビックリするなぁ……」
スマホへ八つ当たりをしつつ、電話に出る。
「もしもし。どちら様でしょうか」
声は低めに面倒くささと多少の怖さを演出しておく。
相手が知り合いと確定したわけじゃないので舐められないように対策をしているだけだ。
まぁ、面倒臭いという感情を抱いているのは紛うことなき事実なんだけれどね。
『あれ? これ先輩の携帯ですよね? 私間違えちゃいましたかー?』
ふわふわとした聞き覚えのある声。
電話越しでも誰の声なのかは簡単にわかる。
「夏川か?」
『はい。夏川ですー。なんで、他人行儀だったんですかー? 酷くないですか? それに、先輩って電話だと凄く声低く聞こえますね。違う人に電話掛けちゃったかと思いましたよー』
「他人行儀ってか、知らない電話番号から掛かってきたらそうもなるだろ」
『知らない……? 名前表情されませんでしたー?』
「登録してないんだから表示されるわけないだろ」
『あれれ? 設定し忘れちゃったんですかねー。まぁ、良いです。先輩今から外出られます? ちょっとお話したいことあるんですよー』
「今からか……。どこかによるな」
『先輩の家』
「却下だ。大体夏川俺の家知らないだろ。それに家族も居るから無理だ」
『冗談ですよー。私の家と先輩の家の真ん中の駅でとりあえず待ち合わせしましょう! 多分昭湾駅辺りですかね?』
「あー、分かった。じゃあ今から向かう。あまり夜遅くまで話聞けないけど大丈夫か?」
『大丈夫ですよー。終電前には返しますのでー』
「終電って……。大丈夫じゃないんだけど」
俺が喋る前に電話を切られてしまったので俺の声は夏川へ届かない。
仕方がないので、重い腰を上げて向かうことにする。
家を出る時に妹に変な目を向けられたが大丈夫だ。
お兄ちゃん、生きて帰ってくるからな……。




