後輩は邪魔者?
昨日あれこれ考えたら企画を持ち込む。
「では、定刻になりましたので始めたいと思います……が。人少なくないですか?」
麗は首を傾げる。
誰がどうみたって人は減っている。
半減とは言わないが、1学年分ぐらいは雑感減少しているだろう。
ぶっちゃけ自分たちに直接関係することは昨日ほとんど決まってしまった。
今更参加する必要性はあまりない。
少なくとも、麗という存在が無ければオレは平気でサボっていただろう。
「待っているような時間はないから進めてくれ」
体育教師はまるでこの惨状に対して他人事みたいなことを口にする。
「はぁ……。本日は50回に相応しい新企画を決定するということですが企画を考えてきた方はいらっしゃいますか?」
こういう有志制である限り、案が出てくるとは思えない。
それこそ、各々にパワーポイントでブレゼンをしてもらうぐらいの気概じゃないとダメだろう。
それが出来ればここまで苦労はしないのだろうが、生憎時間が無い。
時間もなくてお金もないってマジでウチの教師陣何も考えてないだろ。
「ですよね。えーっと、一応本部一同で企画は持ってきてみました。『チーム対抗応援合戦』です。どこかの演目と演目の間に応援合戦の時間を設けて、場を盛り上げるというものです。とりあえずバカ騒ぎしたいという体育祭特有の雰囲気もあって盛り上がるのは確実だと思っています」
麗はなんか綺麗事を並べているが所々で本音が漏れてしまっている。
特にバカ騒ぎしたいとかもう隠すつもりすらないよね。
「反対意見や他に案があれば今のうちに提案の方よろしくお願いします。無ければこのまま通してしまおうと思うのですがどうでしょう?」
隣でペンをスラスラ動かしていた夏川はパタリと手を止め、ペンを置くと両手で拍手をしだす。
すると、周りも夏川に釣られて徐々に拍手が巻き起こる。
キョロキョロとした後にとりあえず拍手をしておくかというザ・日本人的思考に陥り手を叩く。
「ふふ。それでは『チーム対抗応援合戦』にしましょうか。何か意見ありますかとは聞きましたからね。これ以降は文句受け付けませんから」
威嚇するように釘を指し、目玉となるような新企画は決定したのだった。
ちなみに教師陣は特に文句を言うことも、褒めることもせず淡白に夏川が書いた企画書を受け取った。
女子らしく可愛くてカラフルな企画書であり、流石女子だなと感心していた。
俺だったら汚い字に黒色と赤色のボールペンを駆使した箇条書きが軸の面白みのない企画書になっちゃうからね。
自分のセンスの無さにウンザリしちゃう。
会議が終わり、帰宅する。
「先輩、帰りましょ!」
「俺麗と帰るから」
「えー、私も混ぜてくださいよー。ねー? 福城先輩も良いですよねー?」
「千春……。あなた勘違いしてるかもしれないけれど、私と一颯って付き合ってるのよ? 別に仲の良い異性の友達とかじゃないの」
「……?」
夏川は首をちょこんと傾げる。
「何言ってるんですか? そんなの分かってますよ。先輩と福城先輩が付き合ってるのは皆知ってる話じゃないですか!」
「じゃあなんで邪魔しようとするのよ。カップルに割り込むとか害虫以外の何物でもないわよ」
「むぅ。こんなに可愛い後輩がお願いしているのに害虫呼ばわりですか? 酷くないですか? 酷いですよね? 先輩、酷いと思いません?」
夏川は頬を膨らませて、なぜか俺の方に話を振ってくる。
「夏川が居ると麗とのイチャイチャタイムが奪われるのは間違いないからなぁ」
「先輩まで敵ですか……。仕方ないですね。今回は引いてあげましょう」
「今回はって何よ」
呆れながら息を吐くように突っ込む。
「今回は今回ですよー。何となく体育祭実行委員に立候補したのは良いけれど友達が一切居なくて帰り1人になっちゃう私の気持ちも少しは分かって欲しいです。こんな夕暮れに可愛い女の子を1人で歩かせたらどうなっちゃうんですかね……」
「……。分かったわ。今日だけ良いわよ。ただ明日からは別の人と帰りなさい」
「えへへ。福城先輩ありがとうございますー! 大好きですー」
「この子本当に調子良いわね……」
口ではそんな素っ気ない態度を取っているが声は弾んでいるし、口元も緩んでいる。
満更でもないのだろう。
まぁ、実際俺も拒絶するほど嫌いじゃないしな。
麗とのイチャイチャタイムが消滅するという絶望的な一点を除いてしまえば悪い話ではない。
下校時に美女ふたりを隣に置くとか男子高校生の浪漫だ。
そんな欲望を達成出来るとか文句なんか言えっこない。
「それじゃ先輩たち帰りましょー!」
こうして俺たちは帰宅したのだった。
人生、順調に進んでいるように見えても不都合は突然引き起こされる。
自分に直接降りかかる不幸や不都合が全てではない。
時と場合によっては周りの影響を受けた結果不幸になることだって有り得る。
例えば、自分の彼女と自分の後輩が喧嘩をし始めたとかはどうだろうか。
原因はどんな些細なことであっても女子同士の喧嘩。
結構エグいし、何より仲裁に入れるのは自分しかいないという状況がまた辛い。
まぁ、例え話じゃなくて実際に目の前で起こっているんだけどな……。
きっかけはしょうもなかった。
俺と麗と夏川は定期的にファミレスを陣取って会議という名の談話をしていた。
一応今日のお題は『星羨祭のスローガン決定』である。
だが、スローガンの話なんてそっちのけでただのプライベートな会話を繰り広げていた。
「福城先輩って友達少なそうですよねー。なんか近付きにくい雰囲気ありますし。先輩は先輩で良く福城先輩に告白しましたよね。断られたら変な罵倒とかされそうじゃないですか?」
「あら。そう言う千春だって友達少ないわよね。『この間一緒に帰る友達が居ないんですー』って嘆いてたものね」
「むーっ。私そんな声してないですよ。全然似てないですー。それに福城先輩よりは接しやすい雰囲気ありますよ! クラスにはちゃんとと、友達だって居ますし!」
「ふーん。なら連れて来なよ。居るならね。それに接しやすさは私の方があるわよ」
「先輩! 私の方がありますよね?」
「一颯。私の方が接しやすいわよね?」
……と、スローガンとは関係の無いところで喧嘩を始めてしまったのである。
せめて、スローガンに関して喧嘩してくれれば仲裁は比較的簡単なのだが、全くもって簡単じゃないのがまた難しい。
こんな変な問題を俺に抱えさせる2人とも接しやすくねぇーよとぶちまける訳にもいかないのでとりあえず俺は何も言わずにずっとニコニコ笑みを浮かべてその場を凌いだ。
女の子恐ろしい、まじ怖ぇ。




