何を求めるか
「他になにかありますかね。というか、あの教師陣は何を求めてるのかもイマイチ分からないんですけど」
「そうね。完璧な案を持ってこいとかそんなことは流石に思ってないと思うけれど……。それでもあわよくばそのまま採用しようぐらいは思ってるんじゃないかな?」
「やっぱりそんな感じですよねー。うーん、納得いかない出来だと再提出とかになっちゃうんですかね」
「もしも、案をそのまま採用しようとしているのならもしかしたらそうなのかも。1番よさげな案を最初から提出すべきよね」
「まぁ、その案が浮かばなくて困ってるんだけどな」
腕を組み、唸ってしまう。
「先輩。何か案出してみてください!」
夏川はそんな無理難題を強いてくる。
「何かって……。なんか面白いことして並に鬼畜なこと言ってる自覚ある?」
「ごちゃごちゃ言ってないで何か案出してくださいよー。話進まないんです!」
グダグダ文句を言われてしまう。
ただ、本当に案と呼べるような代物は手にしていない。
「困るなぁ……。うーん。ライブとかするか? 軽音楽部に頼んでも良いし、外部からお笑い芸人とかアーティストとか連れてくるのも悪くなくない?」
一応俺の中で浮かんでいた案を提唱してみる。
無論、こんなもの体育祭じゃなくて文化祭だろうと突っ込まれるのは重々承知だ。
なんせ、この案を出している俺本人がそう思っているのだ。
「それ文化祭っぼくないですか?」
「そうね。圧倒的に文化祭に毒されているわね。でも、考え方としては悪くないのかも?」
「体育祭っていう枠組みから離れるって意味でしたら確かにそうかも知れませんけど……」
もっと罵られるかと思ったが案外そうでも無かった。
「じゃあ一旦ライブから話広げてみましょう。もしかしたら何か良い案が産まれるかもしれないわ」
「話広げるって具体的に何するんだ? ライブから広げられるもん何も無いだろ」
「それに関しては概ね同意です。ライブはライブとして完成されちゃってますから。ここから広げてなにか拾うってのは中々難しいんじゃないかなと思いますよ」
2人から否定され、麗は気難しい顔をした。
1口コーヒーを飲むと小さくため息を吐く。
「特に反論はないわよ。その通りだと思う。けれど、そのままだと本当に何も案出てこない事になっちゃうけれど」
麗の言うことも間違ってはいない。
どうにかこうにかして話を広げないと、この難問に関しては答えが出てこないと思う。
だからこうやってライブという議題を無理矢理設定し、厳し紛れに話を膨らましていくという判断はごくごく自然な考え方ではないだろうか。
「あ、でも競技以外っていう着眼点は良いかもしれませんよ! 例えば放送担当をどっかのアナウンサーとか声優とか連れてきたら面白くないですか?」
どうだと言わんばかりに夏川はドヤ顔をする。
「ライブよりはかなりマシだと思うけれど……。声優とかアナウンサーとかを目玉にするのならそこそこ有名な人連れてこなくちゃいけないわよね? そうなると予算的にかなり厳しくなると思うけれど」
「てか、ふと思ったけど俺たちに与えられている予算ってどのくらいなんだ? 話にも出てこなかったけどさ。別に気にせず使えってことなのか、一銭たりともお前らには使わせねぇーよってことなのか……」
「私もその辺の話聞いてなかったです。というか、聞く気無かったのかも?」
「安心して。私も一切聞かされてないから。ただウチの学校に超有名な声優とかアナウンサーとか呼んでこられるような財力があるとは思えないし、普通に考えたら予算は無いって結論付けるのが正解かな」
悲しい現実だがこればっかりは受け入れざるを得ない。
校舎はかなり綺麗……、というか建て替えたばかりなので傍から見るとお金があると思われがちだが、建て替えたばかりだからこそウチにはお金が無い。
どっから予算を算出するのか……。
教師陣に自腹を切ってもらうしかない……、という訳にもいかないので麗の判断が正解だと言えよう。
ふと、思ったが部外者を使おうとするからこうやってお金という問題が発生するのだ。
であれば、部内者を使えば良い。
生憎ウチの生徒に芸能人は存在しない。
居るかもしれないが少なくとも知れ渡ってはいない。
「生徒を総員して応援合戦とかやらせるのはどう? 体育祭感もあるし、ライブ感もあるし、星羨祭ではまだ応援合戦とかやってないだろ? しかも、目玉にもなりそうじゃん?」
我ながら妙案だと思う。
「確かに……。問題点は特になさそうかな」
「強いていえばありきたりって所じゃないですか?」
応援合戦がありきたりと言われるとは思わなかった。
なんかドラマとかアニメの中では良くやっているイメージがあるけど、小、中、地域の運動会と参加してきて応援合戦をメインに置いていたことはない。
リレーの最中にコールをしたり……というのはあるがその程度でしかない。
「夏川。小、中でやったことあるのか?」
「うーん。私小学校の時の運動会全く覚えてないんですよね。中学は小さい応援合戦はありましたけど……」
「それメインじゃないだろ?」
「まぁ、確かにそれはそうですね」
「なら、ありきたりとも言えないだろ。やろうとしてるのは大きな応援合戦だからな」
「このまま他に案が浮かばなければこれ提出しましょう。少しごねれば通りそうな案よね。これ」
最低限の収穫を得た俺たちは一瞬にして気が抜けて、この後会議半分ふざけ半分という感じで話をし続け、結局この応援合戦以上にしっくりする案は浮かんでこなかった。




