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ファミレスにて

 「いらっしゃいませ! 3名様でよろしいでしょうか?」

 「はい! 3人です!」


 愛想良く出てきた店員に対して、夏川は負けじと愛想良く笑い受け答える。

 ジーッと見つめていると頬を膨らませて目を合わせてきた。


 「先輩。なんですか? 私のおでこに何か付いてますか? 付いてるなら取ってください」


 夏川は頭をこちらに寄せて早く取れと言わんばかりの表情をしてみせる。

 そもそも何も付いていないのだから取りたくても取れない。

 どう反応すれば良いかなと思案していると麗が間に割って入って、夏川を引き剥がした。


 「ちょっと、福城先輩。なんですか? せっかく取ってもらおうと思ったのに。仕方ないので福城先輩が取ってください」


 ムッと頬を膨らませた夏川は麗に頭を寄せる。


 「そもそも何も頭に付いてないわよ。だからその馬のしっぽみたいな頭こちらに寄せるのはやめて」

 「馬のシッポじゃないですよ。ポニーテールです。ポニーテール! 福城先輩ってもしかしてお嬢様過ぎてオシャレとか疎い感じですか? だとしてもポニーテールぐらいは知ってないと女子としてダメですよねー」

 「ポニーテールぐらい知ってるから。今のは煽っただけよ」

 「福城先輩って後輩のこと煽っちゃうんですね……。嫉妬ですか? 嫉妬ですね」

 「……。私、本当にこの子と居ると調子狂うわ」


 麗はこめかみ辺りを押さえながら夏川から離れる。

 ここまで圧倒されている麗を見れることは中々ない。

 夏川のメンタルは化け物並みに強いだろう。

 少なくとも普通の女子はこんなこと麗に出来ないし、男子だって上辺でしか会話出来ない。

 あの、コミュ力お化けな奏太でさえ、初対面の時はグイグイ攻めることが出来ていなかったのだ。

 なのに、先輩後輩という関係のハンデがあるにも関わらずここまでグイグイ攻め込める夏川ってかなりの大物だと思う。

 悪く言えば人との距離がイマイチ分からないという感じではある。

 ただ、俺はウザイとか嫌だなとかそういう気持ちを抱かないのでもしかしたらギリギリを攻めるのが得意なだけかもしれない。

 と、考えると麗は口でこそ嫌がっているが内心は嬉しがっている可能性もある。


 「一颯。今、何考えていたのか一言一句誤魔化さずにぶちまけて」

 「なーんにも考えてないから答えられないなー。あ、それよりも注文しようぜ。ドリンクバーだけで良いか? 他になにか頼む?」

 「先輩逃げるのお上手ですね。ちなみに私はドリンクバーだけで大丈夫ですよ。先輩の奢りなら1番高いデザートでも頼みたいんですけど」

 「夏川さんは一颯のこと財布としか思ってないみたいね。こんな子に奢る必要はないわよ」

 「福城先輩。私のことは千春って呼んでください」

 「……。財布だと思ってることに関しては否定しないんだな」


 やっぱりこいつただ距離感が掴めないだけだわと思いながら、呼び出しベルを鳴らしドリンクバーを3つ注文しておく。

 ドリンクバー3つでこの席を店が混み合うまで占領できると考えるとカラオケよりもよっぽど安い。

 マジで高校生の味方!

 そろそろバイトしなきゃなと思っているが行動するのが如何せん面倒臭くてやらずにここまで来ている。

 そんな俺にとってはマジでこの安さ神すぎる。


 「先輩、私烏龍茶でお願いします!」

 「それじゃあ私はホットコーヒーで」

 「お前ら……。せめて行く素振りぐらい見せておけよ」


 なんだかパシられたような気がしてあまり気乗りしないがここで幾ら文句を垂れたって状況が変わることは無い。

 きっと幼稚園児のようにバタバタ暴れれば許してくれるだろうがそこまでするほど俺は落ちぶれていない。

 仕方ないので、烏龍茶とホットコーヒーと自分用のメロンソーダを汲んでおく。

 とりあえず腹いせに夏川の烏龍茶に砂糖とガムシロを入れておく。

 俺にドリンクバーを任せたことを後悔するが良い……。


 「お待たせ」


 席へ戻り、それぞれの前に飲み物を出す。


 「先輩、ありがとうございますー!」

 「一颯。ありがとうね」

 「いやいや、どういたしまして」

 「ふふ。一颯、コーヒー少し飲む?」

 「ん? あぁ……。じゃあ少しもらおうかな」


 一瞬迷ったが、麗の頬が若干赤くなっているのを見て何となく察する。

 もしかしたら店の照明の関係で軽く赤く見えてしまっただけかもしれないが、飲み合いっこしたいとか大体そんな所では無いだろうか。

 実は乙女チックな麗らしいっちゃらしいと思う。


 「こっちもいるか?」


 とりあえず聞いておくとコクリと頷いて、メロンソーダを飲む。


 「炭酸強い……」

 「そうか? そうでもないだろ」

 「もう。先輩たち……。目の前でイチャイチャ、イチャイチャするのやめて貰えます?」


 つまらなさそうに夏川は発する。


 「あら、嫉妬かしら?」


 麗はなぜか勝ち誇ったような表情をしつつ、夏川を挑発している。

 大人気ないし、そもそも夏川を挑発して何をしたいのか分からない。

 単純に自分のプライドを守りたいのかな。

 可愛らしいところあるね。


 「……? 嫉妬なんかしてませんよ。先輩を恋愛対象には見てませんし。ここに来た本来の目的覚えてます?」


 煽る麗に対して、夏川は今までにないぐらい冷静に淡々と話をする。

 こうやって見ていると掌でコロコロと転がされている麗が惨めで仕方がない。

 真面目にすれば煽られ、煽ったと思ったら何しているんだという雰囲気を醸し出される。


 「一颯。私無理……」


 弱りに弱った麗は俺へ泣きつく。


 「夏川。あまり、麗を虐めてやるなよ。見てて面白いけれど可哀想だからさ」

 「むぅ。一颯。面白いと思ってたの? 酷くない?」

 「すまんすまん。本音漏れちゃった」

 「本音ってことは本当に思ってたのね……」

 「はい! 先輩たち。ファミレスで痴話喧嘩はやめてください。見てるこっちが恥ずかしくなるので。それにイチャついている時間があるのなら何か良い企画でも提案してくださいよ」


 パチンと手を叩いた夏川は面倒くさそうな表情を浮かべつつ、話を進めた。

 収拾がつかなくなりそうだったのでありがたい。


 「そうね。とは言ってもそんな簡単に思い浮かばないわ。体育祭らしくて今の星羨祭に無いものをやるのが良いとは思うんだけれど……」

 「リレーとか綱引きとかが体育祭と言えばだよな。まぁ、どれも普通に競技として取り入れられてるからな」

 「そういうことなら借り物競走とか良くないですか? 1回やってみたかったんですよねー」

 「借り物競走だけだとパンチが弱すぎない? 目玉になるような物を多分求めてるんだと思うけれど」

 「あの先生たちはなんで私たちに求めたんですかね。酷すぎですよね」


 夏川は教師の文句を言いながら烏龍茶を飲む。

 特に変わった表情はしない。


 「……。夏川、ごくごく烏龍茶飲むな」

 「はい? そりゃ喋ってたら喉乾きますし」

 「その烏龍茶甘くないか?」

 「そうですね」

 「俺が砂糖とガムシロ入れてきたんだけど」

 「あ、もしかして悪戯のつもりでした? 私甘党なんで烏龍茶に砂糖とガムシロを入れて飲んだりするんですよね。だからてっきり先輩が気利かせてくれたのかと思ってました」


 麗だけじゃなく、俺までも掌で踊らされていることに気付き、悲しくなる。

 この子恐ろしい。

いつもありがとうございます!

ストックが無くなっなったのでゆっくり?になると思います。

よろしくお願いします!

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