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会議へ向けての会議へ

 ウチの学校は頭が悪いので休みなく、星羨祭の会議が行われる。

 普通こういうのって1週間に1回、多くても2回ってイメージだが、そんなペースでやっていると色々内容が決まる頃には星羨祭が終わってしまう。

 星羨祭自体は5月の後半に執り行われる。

 遅くても3週間前には内容を決定し、プログラムの割り当てもある程度済ませて、作戦決めや練習の時間を生徒たちに与えなければならない。

 学校の予定で俺たちが苦しんでいるのだから授業時間を減らせば良いのにと思うがそうもいかないらしい。

 罰ゲームよりも罰ゲームしているよなと思いながら俺は参加している。


 今日のお題は『50回記念に相応しい新企画の立案』である。


 「何か考えてきた人居ますか?」


 相変わらず司会を担当している麗は問うが当然の如く誰も何も反応しない。

 誰かの様子を確認したいという気持ちもあるがそれ以上に何も思いつかないのだ。


 「一颯は何かある?」


 場を持たせようとしたのか、俺にとんでもないぐらいの信頼を置いているのか分からないがバトンを渡してくる。

 麗に直接問われたとしても頭の中に何も案がなければ答えることは出来ない。

 適当な出任せすら出てこない。


 「無いかな」

 「うーん。無いの?」


 困った表情を浮かべ、顎に手を当てる。

 もちろんこの間に誰かが案を出すなんてこともない。

 皆が皆誰か何かしら提案するだろうという人任せな思考を持っており、自発的な意見を発信しない。

 ただ、咎めることは出来ないと思う。

 許された思考時間は約1日である。

 そんな中で案を持って来いなんて無理な話だろう。


 「……。それじゃあ先にスローガンを決めておきましょう。各クラス1つずつ案を持ち寄ってそこから選択する方式と今ここで私達が案を出して、組み合わせたりして作り上げる方式……。どちらが良いですか? 私としては前者の方が色々楽で良いんですけど」


 麗は本音をダダ漏らしにしている。


 「前者の案に反対の方居ますか? 居なければそれでお願いしようと思うんですけど」


 ここでも誰も何も言わない。

 余計なこと口挟みたくないのか、単純に興味が無いのか、本当に賛成だと思っているだけなのか。

 どれであれ、誰も何も反対しないというのは提案する側としてはやりやすいだろう。

 この場の雰囲気でそのまま適当に記念イベントの提案で『ライブ』とか言っても通っちゃいそうな気がするが、きっと教師陣に止められるんだろうなと思ってしまうとやめておこうと自制してしまう。


 その他諸々のことを残りの時間で決めておく。

諸々というのは具体的に、得点係を誰にするだとか、誘導係を誰にするだとかそういう役割分担である。

 委員長、副委員長、書記は委員会の中軸であり、そんな末端な仕事は受け持たない。

 本部としてどっしりと構えることが最初から決まっているのでこの話し合いには参加しない。

 というか、したくても出来ない。


 本部の仕事って何があるのか……。

 一応形式上、『各係の総まとめ』とされているが各係には係長を選出させている為、まとめ役が不要だ。

 本来は問題が起こった時にこちらから教師に報告するのだが係長が教師へ直接報告するので本当にただ形だけの役職と化している。

 生徒会長が言うには準備段階で頑張っていたご褒美らしい。

 これ、副委員長の立ち位置神すぎるよな。


 あれこれ決めていると最終下校時刻を迎える。

 時間潰しのために他の作業をしていたため、最終下校時刻を迎えたその瞬間に誰もが一斉に下校準備を始めた。

 麗自身も荷物をまとめながら「今日はこれで解散です! お疲れ様でした!」と声を出している。

 俺もちゃちゃっと荷物を纏めて会議室をそそくさと抜けて、外の廊下で麗がやってくるのを待つ。


 しばらく待っていると麗……ではなく夏川が出てくる。

 ジーッとこちらを見つめた後にニコッと笑って手を振ってきた。

 少し照れくさくなりながらも手を振り返しておく。


 「先輩。お疲れ様です!」


 相変わらずポニーテールを存分に揺らしている。

 無性に触りたくなるのは男の性だろう。

 こればっかりはもうどうしようも無い。


 「急に企画考えろって言われたって無理じゃないですかー?」

 「まぁ、そうだな。何にも浮かばねえーよ」

 「ですよねー。福城先輩とかも何も浮かんでないんですかね」

 「じゃねぇーかな。浮かんでたら麗ササッと意見出して委員長権限使って半強制的に意見通しそうだなって思うし」

 「そうなんですねー。うーん、だしとしたら明日までにしっかりと考えて来なきゃいけないんですけど。どうせ他の人たち何も考えてこないじゃないですか。このまま決まらないと居残りとかにさせられそうじゃないですかー?」

 「そのうちなるだろうな」

 「居残りとか私1番嫌いなんですよー」


 あざとさを全開に口元へ手を当てながら上目遣いをしてくる。


 「そこで提案なんですけど先輩放課後空いてます?」

 「俺は空いてるよ。麗は多分空いてないけどな」

 「あー、福城先輩は空いてないんですね……。ま、別に先輩だけでも良いですよー! ファミレスかどっか行って企画案でも考えませんか? あの空気で居残りになるぐらいなら先輩たちと残って案考えた方が良いかなーって思ったんですけど」

 「なるほどな。それは良いと思う。俺も1人じゃ絶対案浮かばないしむしろ助かるわ」

 「それじゃあ決定ですね」


 声を弾ませる夏川を隣にこの辺りのファミレスをスマホで検索していると会議室から麗が出てくる。


 「お疲れ」


 そう声を掛けると物凄い剣幕で睨まれた。


 「ふーん。浮気しておいて何食わぬ顔するんだ」


 麗は腕を組み、凍てつく声を出す。

 どうやら今の話中まで聞こえていたらしい。


 「浮気じゃないから。話聞こえてたなら分かってるだろ」

 「浮気じゃないなら私が行っても問題ないわよね?」

 「むしろ歓迎だけど……。放課後っていつも麗用事あるだろ? 今日は良いのか?」

 「今まで毎日行ってたし、連絡さえしっかりとしておけば1日ぐらい見逃してくれるから」

 「ふーん。そっか」

 「福城先輩も来てくれるんですかー! これで企画も決まったようなもんですね。先輩だけじゃ不安でしたから!」


 パーッと晴れやかな表情で夏川は麗を受け入れる。

 どれだけ俺がダメなやつ扱いされていたのかが伺えて悲しくなってしまう。

 俺ってそんなに無能なのかな。

 無能に見えるのかな。

 違うよね、麗が敏腕過ぎて相対的に低く見えてるだけだよね。


 自己暗示しつつ俺たちは近くのファミレス、イタリアンチェーン店へと向かったのであった。

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