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初仕事を終えて

 「初めまして。夏川千春です。よろしくお願いします」


 俺と麗が会議室の外で話していると書記に立候補していた彼女が挨拶をしてくる。

 高めに縛っているポニーテールを揺らして、可愛らしさがどことなくあり、気を抜くと触りたくなってしまう。

 あどけなさがあるのに、こうやってしっかりと挨拶をしに来るあたり常識は身に付いているんだなと感心出来る。


 「どうも。よろしくね。私は福城麗で、こっちは私の彼氏の町田一颯」

 「存じ上げてますよー。あんな舞台での告白見せられたら忘れたくても忘れられませんもん。女子の間ではあんな風に告白されたいって先輩の株右肩上がりなんですよー?」

 「そ、そうなのか……」


 知らないところで勝手に株が上がっておりなんとも言えない気持ちになってそんな冴えない反応をしてしまう。


 「ふふ。一颯ったら鼻の下伸ばしてない?」

 「の、伸ばしてないから」

 「そう……」

 「あ、ちなみに私は先輩より先輩とよく居る阿佐谷先輩の方が好みですよー。あの甘いマスクヤバくないですか? ヤバくないですよね」


 夏川は今にも顔が蕩けてしまうんじゃないかってぐらい甘い顔をしている。

 こちらに挨拶へ来たタイミングと同一人物とは思えないぐらい素を見せている。

 結構真面目で硬派な人なのかなと勝手に思い込んでしまったがヤバいとか使うやつに硬派な人間は存在しない。

 偏見過ぎるが16年間生きてき堅苦しい人がヤバいとか言い出したところを見たことがないので少なくとも間違いではないと思っている。


 「今ので夏川さんがとんでもない面食いだってことは理解出来たわ。一颯と阿佐谷くんを天秤にかけて阿佐谷くんが勝っている要素なんて顔立ちぐらいしかないもの。それとも一颯の魅力が伝わりきっていないだけかな?」

 「あ、別に惚気は聞きたくないです」


 夏川は真顔で片手を手前に出し、話を停止させる。

 些か不満げに麗はむくれるがこのままだと俺が居にくくなるのが目に見えていたので止めてくれてむしろありがとうという感じだ。


 「それと福城先輩、私のことは千春って呼んでくれて良いですよ。あまり同性から苗字で呼ばれるの慣れてないんですよね……」


 アハハと照れくさそうに耳あたりの髪の毛を触る。

 そしてハッと何か思い出したかのような表情をするとすぐに口を開く。


 「先輩は下の名前で呼ばないでくださいね。ゾワゾワしちゃうので」

 「なんか失礼だな」

 「そんなことないですよー。付き合ってもない異性に下の名前で呼ばれるのってなんかゾワゾワしませんか? ほら、そういう距離感の掴めない男って大体1回デートしただけで付き合ってると勘違いしたり、彼氏面してきたりするじゃないですかー。ああいうの嫌いなんですよねー」

 「一颯は私と付き合ってるんだし彼氏面なんてしないわよ。ね? ね? ね?」


 物凄い圧力を感じ俺は何度も大きく首を縦に振る。


 「とりあえず体育祭実行委員の間御二方よろしくお願いします! 今日はバイトなのでこの辺りでドロンしますけど、基本的に時間空いてますので何かあったら遠慮なく私のこと取っ捕まえてくださいー! あ、連絡先交換しておきます? その方が色々便利ですよね?」

 「そうね。その通りだわ。仕方ないから私の連絡先教えておいてあげる」

 「ありがとうございますー! 先輩はどうしますか?」

 「あー、俺も一応交換しておくか……」

 「一颯はする必要ないんじゃないかな? ほら、私が交換しておけば私を介してやり取り出来るしさ。わざわざ交換するメリットってないと思うんだよね」

 「福城先輩もしかして嫉妬しちゃってます? あの告白みた時先輩が福城先輩にベタ惚れって感じだと思ったんですけど案外逆だったりしません? 今見てる感じ福城先輩が先輩にベタ惚れって感じなんですけど」

 「そ、そんなことないわよ」


 麗は思いっきり声をうわずらせる。

 そこまでうわずらせると最早「そんなことある」と認めているようなものだ。

 正直その話を聞いていて悪い気はしない。

 むしろ、嬉しい。


 「じゃあ、また機会がある時に先輩とは交換しましょうね」

 「お、おう」

 「それじゃあ本当に私はこの辺で失礼しますー!」


 夏川は大きく手を振りながら走り去って行った。

 なんというかとても騒がしい。

 そういう印象を抱かせる人物である。

 疲労感も多少あるが、ウザいと感じさせることは無かった。

 それだけ綺麗に馴染んでいたということなのだろう。


 「あの子と喋ってると何だか調子狂わされるんだけれど」

 「変に取り繕うとするからじゃね。もっと素で居りゃ良いんだよ」

 「出来るのならそうしたいけれど……。私って変にクールなイメージついちゃってるから中々素出せないんだよ。大体『ベタ惚れだもん』とか言うような人間がクールなわけないだろ」


 それ以上なにか口にするなら殺すと言いたげな視線を強く送ってきながら俺の足を当たり前のように踏んでくる。

 殺意に満ち溢れた視線に脅えながら黙って頭を下げておく。


 「何はともあれ求められたキャラとかそんなのあるとか役者みたいで大変だな」

 「でも、なにか喋らないといけない場面で黙ってても『福城さんはクールだから仕方ないよ』って許されることもあるから悪いことばかりじゃないよ」

 「そういうものか。俺にはイマイチ分からないけどな」

 「理解されるつもりないから良いよ。それよりも私達もそろそろ帰ろっか。せっかく委員会早く終わったんだし」

 「あぁ、それもそうだな」


 俺たちはこのまま駅へと向かい、帰宅したのだった。


 50回記念として相応しい新競技かイベントを考えてくるという今回出されていた宿題。

 とりあえず電車で1人のタイミングであれこれ考えてみたのだが思い浮かぶのはどれめこれも体育祭で……、というよりは文化祭の余興っぽさのあるイベントばかりである。

 文化祭で出来そうなものをわざわざ体育祭へ輸入するメリットって本当に何も無いと思う。

 それなら普通に文化祭で開催すれば良いのだ。


 「結構難しい課題だなこれ」


 結局答えが出てこないまま電車は自宅の最寄り駅へと到着し、電車を降りてそのまま家へと歩いたのだった。

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