初めての会議
体育祭実行委員というキャラじゃない約職に就き……、早速第1回の会議に参加する。
教職員が使うような会議室で会議をするらしい。
いやはや、本格的なものだ。
こういう全校から代表を集めて会議を行うなんてのは小学校の代表委員以来である。
そういうえばあれもやる人がおらず嫌々手を挙げて、適当な仕事を1年間やっていた。
今考えてみるとマジで責任なんてものは1ミリも背負っておらず、仕方ないからやっている感が満載であった。
「お待たせ。待った?」
「いや、全然」
麗と合流し、その例の会議室へと向かう。
会議室前の廊下へ到着すると体育祭実行委員であろう人達が屯している。
「なんで鍵かかってるの?」
「知らねぇーよ」
「サボって良いかな」
どうやら鍵が開いていないらしい。
なんかどいつもこいつもやる気は無さそうだ。
まぁ、俺もやる気は無いので人のことをとやかく言う資格はない。
「先生が来れば開けてくれるでしょ。一颯、あっちの方で待ってよう?」
少し掃けた方の廊下を指さし、俺たちはそちらへ向かう。
しばらく待っていると会議室前にはどんどん人が溜まっていき、更に待つと体育教師がやってきて会議室の鍵を開ける。
すると、流れ込むように屯していた人達は中へ入り、落ち着いた頃合を見計らって俺達もゆっくりと中へと入った。
各学年、各クラスから男女1人ずつが選出されている体育祭実行委員なだけあってそこそこの人数が集まっている。
「そこ空いてるからそこ座ろ」
特に席の指定はないらしいので麗と隣になるような席を選んで座った。
更に待つこと数分、16時になったタイミングで若い体育教師がホワイトボードの前へやってくる。
「うし。それじゃあ始めよう。第50回星羨祭についてだ。まずは、委員長の選出を行おうと思う。やりたい奴は居るか?」
誰も手を挙げない。
ボールペンをカチカチ鳴らす音だけが鳴り響く。
またここでも長決めで時間をかけるのかと絶望していると皆俺の方に視線を集めている。
いや、俺ではない。
俺の隣だ。
麗の方に視線を向けてみると、麗はピシッと手を挙げていた。
こういうのやらないタイプだと思っていただけに驚いていると手を挙げていない方の手で軽くデコピンをされる。
「いてっ」
「なんで驚いたような顔してるのかな? もしかして、私じゃ似合わない?」
「いや、別にそんなこと言ってないだろ」
思っていただけであり、決して口に出していない。
「名前は?」
「福城麗です」
「オッケー。それじゃあ次は副委員長を決めよう」
「先生」
淡々と進みそうな中、麗は早速手を挙げて口出しをする。
「どうした?」
「先生が進行でなく、私が進行の方が良いと思うのですがどうでしょう?」
麗は若い体育教師に目配せした後、後ろの方で眺めている年寄りの体育教師にも目配せをする。
後ろの方にいる体育教師は一瞬考える素振りを見せたがすぐに首を縦に振った。
「それもそうだな。じゃあ進行頼む」
若い体育教師も素直に場所を譲り、麗はホワイトボードの前へ立つ。
麗って思っていた以上にこういう行事へ積極的なんだなと感心していると「副委員長は私が指名します」とか言い出した。
これ以上になくニヤニヤした表情を浮かべており、おぞましい。
特に他の方に視線を向けることなく、ただただ真っ直ぐに俺を見つめているのが背筋を凍らせる。
「私は町田一颯くんを副委員長に指名しようと思います。反対意見を持っている人は居ますか? 居ないですよね。居ませんよね?」
強引に話を持っていく。
今、遅れて来た生徒会役員達もこの雰囲気に気圧され、口角だけ上げながら黙って年老いた体育教師の立つ後ろの方へと向かう。
もちろん生徒からも反対意見なんか出てこない。
むしろ、副委員長とかいうめんどくさい役割を勝手に負担してくれて有難いとか思っていそうだ。
少なくとも俺がそっち側の人間であれば間違いなく思っていた。
体育教師達からも異論はない。
「ふふ。これで決定ね。後は書記……ぐらいかな?」
書記を募集すると1年生の女の子が手を挙げ即決定する。
あの女の子どこかで見たことあるような気がするけど……、思い出せない。
普通に学校ですれ違っただけかもしれない。
そんなことを考えながらジーッと見つめていたせいで、彼女と目が合ってしまい彼女はちょこんと首を傾げる。
「コホン。えーっと、書記の子。名前聞いても良いかな?」
凍てついた声で訊ねる。
あれ、もしかして嫉妬してませんか。
気のせいですか。
「書記に立候補しました。夏川千春です。よろしくお願いします」
可愛らしくペコリと頭を下げる。
周りからはその可愛らしい姿へか、書記にわざわざ立候補してくれてありがとうという感謝の思いか分からないが拍手が巻き起こる。
なんか、拍手が起こると自分もしなきゃという気持ちに駆られて意味もわからずとりあえず拍手をしておく。
不満気な様子を見せた麗であるが自分の方に視線が戻ってきたのに気付いたのか即座にキリッとしたクールな表情へと戻した。
その辺の切り替え方はマジでうまい。
「他に何か決めることってありますか?」
突発的に進行を教師から奪ったので、重役を決める以外特に何をすれば良いのか分からず、麗は教師に助けを求める。
「ここまで早く決まるとは思っていなかったから他の議題は今用意していないんだ……」
そりゃそうだろう。
立候補者が多くてジャンケンになる、もしくは立候補者が居なくて沈黙が流れるのどちらかが引き起こると予測するのは至極真っ当だ。
これだけ、パンパンと重役が決定していく方が中々珍しい。
「とりあえず星羨祭は今回が50回ってことで何かいつもとは違った競技だったりイベントを組み込もうという話になっているから、皆には適当に案を考えてもらってもらおうかなぐらいだな。でも、突然言われて決められるとも思わないからこれを宿題にしておいて今日は解散ってのがベストだと思うね」
「分かりました。では、本日は解散で」
麗の掛け声と共にガタガタと椅子から立ち上がり、椅子を押す音が聞こえてくる。
「部活、部活ー!」
ダーッと流れ出ていく様子を見ながら、体育祭実行委員ってこんなもんなのかと余裕な気持ちが芽生えてきたのだった。
いつもありがとうございます!
これからもよろしくお願いします!




