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実行委員

 4月も終わりに差し掛かった今日この頃。

 ゴールデンウィークという楽園が近付き、世間は浮かれつつある。

 そんな中、ウチのクラスはピリついていた。

 理由は簡単。


 「男子ィ! 誰か体育祭実行委員手上げろ。お前ら種目楽しむだけ楽しんで前準備はやりたがらねぇーのか!?」


 担任は楽しそうに声を荒らげる。

 体育祭実行委員を選んでいるのだが、誰も挙手せず時間だけがただただ流れていく。

 普段こういうのに手を挙げそうな座間は、不機嫌そうにふんぞり返っており、奏太は話聞く気もないという感じで机に突っ伏している。

 もちろん俺はそもそもこういう実行委員になるようなキャラじゃないので関係ないという感じを大きく醸し出し、意味もなく外を眺める。


――背筋が曲がっているおばさんが傘さしてるな、雨降ってるのかな。日傘だったわ。


 みたいな感じで普段だったら絶対に考えないようなことを頭の中で巡らせる。

 でも、曇ってるのに日傘さしてるおばさんとかマジで雨降ってるのかと勘違いしちゃうよね。


 そんな誰かも分からないようなババアの話はどうでも良い。


 「今日までに決定しないと俺が怒られちゃうからなー。絶対に決まるまで帰さないぞ」


 ウチの担任が私情をぶち込んでくる。

 可哀想だなぁという同情こそ湧いてくるがだからやろうとは1ミリも思わない。

 早く帰りたいし、担任が可哀想だから誰か手挙げとけよ、いつもやかましい奴らがここで静かになってどうするんだよと内心罵倒しながらボーッとしておく。


 今は授業時間なのでさしたる問題じゃないが、SHRの時間に差し掛かり、放課後に突入するとなれば大きな問題へと発展する。

 主に、麗を待たせてしまうという一点においてだ。

 なぜか理由を聞いたことがないので分からないが常に麗は放課後忙しい。

 それこそ、放課後デートを誘ったところで用事があるからと断られてしまう。

 考えられるのはアルバイトだが、平日週5でシフト入っていると考えるのはあまり常識的ではない。


 「阿佐谷ぁ! お前がやれよ」


 痺れを切らした座間は立ち上がり、怒鳴るような声で奏太を叩き起す。

 流石にあれだけの声で名前を呼ばれれば呑気に机へ突っ伏している訳にもいかなくなり、如何にも眠そうという感じで目を擦りながら顔を上げる。

 そしてしばらく黙って周りをキョロキョロした後に「はぁ……?」と覇気の欠片もない反応を見せた。


 「あぁ?」

 「うーん。なんで俺がやらなきゃいけないわけ?」


 つまらなさそうに立ち上がる。


 「女子にはモテるし、運動も出来る。人をまとめるのも得意。阿佐谷の為にあるような仕事じゃねぇのか?」


 適当なことを並べるのかと思ったが座間は案外冷静にそこそこ納得出来そうな理論を並べ立てる。

 何人かの女子はうんうんと頷く。

 まぁ、適任か適任じゃないかと問われれば俺も適任だとは思う。

 だが、俺は知っている。

 奏太はやりたくないことなとことんやらないで生きてきている。

 良い表現をするならば自分の負担を軽減させるのが得意、悪く言えば嫌なことから逃げる。

 例え、天変地異が起ころうが奏太が体育祭実行委員をやると頷くことは無いだろう。

 もし、奏太が体育祭実行委員をやれば人類は救われるとなったとしても奏太は頑なに拒否し絶滅の道を選ぶ。

 基本的にそのぐらいコイツの意思は固い。


 「はぁ……。意味の無いやり取りしてるわ」


 誰にも聞こえないような声で呟きながら、自分の方に火種が飛んでこないよう存在感を掻き消しておく。

 奏太のことだ。

 きっと、俺と目が合えばニンマリと白い歯を見せながら俺へと振って、俺が断りにくい雰囲気を生成してくるだろう。

 都合の良い座間はそれに乗っかり、更に断りにくくさせた挙句、悪ノリ大好きな担任は助け舟を出すどころかあの二人に乗っかって煽ってくるのが目に見えてくる。

 絶対に目を合わせちゃいけないと確信した俺はラノベを取りだし字体と睨めっこし始めたのだった。




 結局授業時間内に実行委員が決定することは無かった。

 女子の実行委員は決定しているので、女子は解放されたのだが男子は当然の如く拘束されている。

 放課後に残されているということもあり、ピリ付き具合は大きくなっている。


 麗と今日は帰れないかもななんて悟っているとガラッと教室の後ろ扉が開いた。

 そこには麗が立っており、躊躇せずこちらへやってくる。


 「帰ろ?」

 「今日は居残りだよ。なんか、体育祭実行委員決まらなくてさ」


 周りの視線を一気に集めてしまう。

 麗はこういう視線になれているのか、平然としているが俺は動揺してしまう。


 「なら、一颯がなれば良いじゃん?」

 「んな、無責任な。運動は平凡、コミュニケーション能力も高くはない。そんな俺に出来るわけないだろ」

 「知らないけれど手挙げなかった人達が悪いんだし、良くない? それに私も実行委員だからさ。一緒にやろうよ?」

 「あ、そうなの? それならありかも……」


 一考しようとすると、麗が「町田くん実行委員やります」と高らかに宣言してしまう。

 それを見た奏太は小さくガッツポーズなんかしちゃっている。

 アイツ本当に最低だ。


 「良かった良かった。じゃあこれで提出しておくから。お疲れ様」


 担任は満足そうに教室を出て行き、今日は解散となった。

 国辰駅へ向かう中、俺はひとつの疑問が浮かび上がり麗へ問いかける。


 「麗って放課後忙しそうじゃん?」

 「そうだね。遊んだり出来ないから……」

 「なのに、実行委員は出来るの?」

 「うーん。実行委員って流石に20時とかまでやらないでしょ? それなら問題ないし、多少なら遅れても許してくれるからさ」

 「ふーん?」


 結局何をしているのかは分からないがそこまでキッチリ時間を守らなきゃいけないというものでもないらしい。

 もしかしたら帰りに少しだけ買い物ぐらいであれば付き合ってくれるのではないだろうか。

 そんな淡い期待を抱きながら別れたのであった。

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