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和解

 色々な思いを巡らせ、結局思い知らされたのは麗のことが大切だという当然なことであった。

 手放すことの辛さを思い知らされ、近くにいることが当たり前じゃないんだということも同時に肌で感じた。


 「色々とごめん」


 2人っきりになった空き教室にて俺は謝罪する。

 勘違いの要因を作ったのも俺だし、先走って一方的に破局したと勘違いしたのも俺だ。

 変なプライドを持って強がるよりも素直になっておきたい。

 悪い事をしたと思うなら素直に謝る。

 人として当然のことだ。


 「ううん。私もショックで思わず言っちゃったし、言わなくても伝わると思ってた部分もあったから……。言葉がないと伝えたいことも伝わらないよね」


 麗は照れくさそうに頬を人差し指で掻く。


 「もう1回言ってあげる。私、一颯のこと好きだよ。告白された時は死ぬのやめておこうかなって思うぐらいだったのに今は死にたくない、生きてたいって思うようになったからね。まさか、私が男の人のことここまで好きになるなんて思いもしなかったよ」

 「そうか……。もう自殺なんてしようとしないか?」


 俺には一抹の不安があった。

 俺がいるから、俺がいたから麗は死にたくないと口にしている。

 仮に俺が居なくなったらどうなるのだろう。

 また、死にたいと思うようになるのではないか。

 そんな不安が渦巻いている。


 あの屋上で出会った時は真っ平な赤の他人であり、あそこで投身自殺をしたとしても目の前で人が死んだという事実しか残らないと思っていたから助けないという選択肢も出てきていた。

 だが、ここまで関わってしまった以上麗に自殺されるのは非常に後味が悪い。

 というか、仮に俺が麗を振って別れたとしても自殺されてしまえばとんでもない喪失感に襲われるのが目に見えている。


 別に別れるつもりなんて毛頭無いのだが、それでも未だに死にたいという気持ちがどこかに眠っているのであれば付き合いつつケアぐらいしてあげておくべきなんじゃないかと思っている。

 今までは自殺しようとしていた理由に触らない方が良いと思って、蓋を閉めたままにしていたが付き合っていく上で早かれ遅かれ触れる話題ではあるだろう。

 だからこそ、もしも自殺願望がどこかに眠っているのなら今のうちから原因を探り解消しておくのがベストではないかと思うわけである。

 そんなカウンセラーみたいな事、ただの男子高校生に出来るのかと問われれば首を縦に振ることは出来ないが麗の彼氏だからこそ出来ることって少なからずあるんじゃないかと思う。

 大きなお世話と言われるかもしれないが何か力になりたいのだ。


 「今はちっとも思ってないかな。だって、死にたくないもん。死んだら一緒に居れなくなるし、楽しむことも出来ないんだよ? 死にたくないよ。死にたくない」

 

 麗の言葉で不安は晴れる。

 死にたいと思っているのであれば手出ししようと思っていたが、死にたいとこれっぽっちも思っていないのであれば無闇に手出しする必要は無いだろう。


 「俺が居なくなってもか?」

 「うん。きっと一颯は最後まで私と一緒に居てくれるから。最後まで生きたいと思わせてくれると思うよ」

 「なんだそれ。プロポーズか?」

 「ふふ。私、こう見えても結構乙女チックなところあるからね。プロポーズは男の人からして欲しいと思ってるよ?」

 「なるほどな。参考にしておくよ」


 暫く沈黙が流れる。

 だが、焦りは感じない。

 むしろ、この何も音のしないこの1瞬1秒ですら心地良いと思えてしまう。


 麗は俺の元へと近寄ってくる。

 頬は真っ赤だ。

 流石に鈍い俺でも察せられる。


 「麗……」

 「一颯……」


 お互いに名前を呼び合い体を寄せ合う。

 麗の胸が俺の体に当たり、麗の背中に手を回し、麗の体を更に引き寄せる。

 麗の体温を直接肌で感じられ、雰囲気を更に盛り上げる。


 「する?」


 麗は上目遣いで恥ずかしそうにゆっくりと口を動かした。

 潤いを保っている唇が目に入り、鼓動が更に早くなる。


 自然に気づいたのか、鼓動が早くなったのに気づいたのか、はたまた表情に出ていたのか分からないが麗は少し頬を弛める。


 「緊張してる?」


 茶化すように口にした。


 「緊張してるさ。だって、初めてだぞ。むしろ、麗は初めてじゃねぇーのかよ」


 見透かされたことと緊張していることが相まってオタク顔負けの早口になってしまう。

 麗は麗で余裕が無いらしく、視線をスっと下の方へ逸らす。

 これ以上赤くなるところがないだろうってぐらい顔を真っ赤にする。


 「私だって初めてだし、緊張してる……から」


 女の顔をする麗に俺のスイッチは完全にONとなる。

 ガッツいていると思われるのは嫌なので平然を保っているつもりだが、出来ているのかは分からない。


 「……。行くぞ」


 麗は小さく頷き、目を瞑った。

 俺はゆっくりと麗の口元へ俺の口元を持っていく。

 その時、ガタッと教室の扉が開く。


 「昼飯持ってくの忘れてたわー。あ……」


 奏太は勢い良く入ってきて、抱き合う俺たちを見つめ言葉を失う。

 そして、誤魔化すように白い歯を見せて笑った。


 「阿佐谷くん……。殺す」


 物凄いスピードで俺から離れた麗はそんな物騒なことを口にする。

 まぁ、概ね同意だ。


 「すまんすまんすまん。わざとじゃないんだって。ほら、そこのビニール袋に入ってるサンドイッチあげるから許して」


 奏太の乱入によりファーストキスはお預けとなった。

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