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心の拠り所

 「なんだなんだなんだ。そんな暗い顔して。一颯らしくねぇーな」


 教室に戻ると奏太が肩に手を回して出迎えてくれる。

 嫌なことがあった時にこうやって調子良く出迎えてくれると少しではあるが気持ちが楽になるのでありがたい。

 本当に感謝してもしてもしきれない。


 「あー、さてはまた屋上行ったろ。髪の毛めっちゃ乱れてるぞ」

 「は? マジ?」

 「マジマジ。ちょっと鏡貸して?」


 奏太は近くにいた女の子からいとも簡単に手鏡を借りるとパッと開き、俺の方へ鏡を向ける。

 これだけの力を持っていれば彼女と別れたって悲しくなるどころか次の方向に目を向けられるのだろう。

 はっきり言って羨ましい。


 鏡に映った俺の髪の毛は確かにボサボサであった。

 叫んだ時に髪の毛を一心不乱に掻きむしったのが主な原因だろう。

 崩れてしまった髪の毛を手ぐしで適当にならしておく。


 「凄いことになってたな」

 「だろ? 流石に一目見ただけで屋上行ってきたなって分かるから気を付けとけよ?」

 「あぁ。気を付けるよ。気を付ける」

 「それで何があったんだ? あまり周りに聞かれたくなかったらどっか人気ないところ行くか?」

 「うん……。ってか、もう授業始まるぞ」

 「たまにはサボったって文句言われないだろ。俺なんか定期的にサボってるぞ。つまらねぇーしな」

 「はぁ?」


 何言ってるんだという視線を送るが気付いてか気付かないでか、奏太は俺の肩に片手をポンっと置いて「まぁ、待ってろ」とだけ口にして近くの女子の元へと向かった。

 さっき鏡を借りた女子とは違う子である。

 コイツのコミュニケーション能力の凄さと福城と会話する時のギャップにやはり差異たるよなと改めて認識させられる。


 「ちょっと目眩するから保健室行ってくるわ。先生に伝えておいてもらえる? ちなみに、一颯は熱っぽいらしいから一緒に向かう。よろしくね」

 「あ、うん……」


 奏太は片手をホイッと挙げると俺の元へと戻ってくる。

 コイツたまに具合悪くて保健室行っていたがあれ全部サボりだったのかよ。

 口には出していなかったが心配していた俺がアホみたいじゃねぇーか。


 「これでオッケー。2人だと怪しまれるかもしれないけれど1回ぐらいなら誤魔化せるだろ」

 「オッケーではないだろ。サボりは」

 「ん? じゃあ、サボらないか? 俺はもうサボる気満々だからサボるけど」


 堂々とした顔でそんなことを口にする。

 せめて申し訳なさそうな顔をしておけ。


 「分かったよ。俺も一緒にサボるよ」


 結局俺も共犯者となったのだった。

 授業サボるとか青春っぽくて結構良いな。



 「うーん。屋上行くか?」

 「屋上? なんで?」

 「ほら、多分空き教室授業やってるだろ? 保健室じゃ話せないしさ。トイレでも良いけど長居するような場所じゃないじゃん? せっかくサボったんだし授業丸々サボりたいからさ。長居出来て、ゆっくり周りの目気にせず話せる場所が良いんだよね」

 「だから、屋上……と?」

 「そういうこと。ってことでレッツゴー」

 「お前屋上行きたいだけだろ」

 「アハハ。バレた?」


 奏太は少し照れくさそうにして見せる。

 まぁ、普通行く機会は無いから行きたくなるのも仕方ない。

 俺たちは授業開始のチャイムが鳴っている中、屋上へと向かったのだった。


 屋上の段差になっている部分に腰をかける。

 友達と屋上に来るというのは味があって結構良いものだ。

 一人で来るのとは違った感覚を味わえる。

 青春してる感が強くて楽しい。


 「それでなんであんな顔してたんだ? 今すげぇ楽しそうだけどな」

 「はぁ? 楽しそうじゃねぇーし」

 「男子のツンデレはマジで需要ないからやめとけ」

 「楽しそうじゃなくて楽しいんだよ」

 「は? お前最高かよ」


 男子ならではの馬鹿みたいな会話を一通り繰り広げておく。


 「あー……」

 「そんなに言い難いことなのか?」

 「まぁ、言い難いって言うか言いたくないって言うか……」


 早かれ遅かれ言わなければならない事なのに焦らしてしまう。

 やはりまだ現実として自分自身受け入れたくないという事なのだろう。

 奏太へ話してしまえば現実として受け入れざるを得なくなってしまう。

 だから、口を紡いでおきたいと思ってしまうのだ。

 後は単純に奏太の反応が予測出来なくて怖いっていうのもあると思う。


 「ま、言いたくないなら無理に言う必要も無いわな。ダラダラサボるってのも悪くは無いし」


 奏太は立ち上がりぐーっと背を伸ばす。

 ワイシャツがズボンから出てきて、風に揺れる。


 「いや、聞いてくれ」


 奏太を下から見上げるという構図が説明出来ないがとにかく気に食わないので俺も立ち上がる。

 立ち上がった俺を見て奏太は白い歯を見せて笑う。


 「聞いてやるよ」

 「うん」


 大きく息を吸う。

 新鮮な酸素を体内に取り入れ、頭の中がスッキリした。

 言ってしまおう。ぶちまけてしまおう。


 「先に言っておくが驚くと思うけど叫ばないでね。ここね、結構下に響くんだよ」


 ソースはさっきの俺。

 発狂した声が下の方に響いていたらしく、屋上から立ち去って教室へ向かう途中に発狂がどうのこうのと会話している人達とすれ違ったのだ。


 「おう。てか、ハードル上げてくな。一颯のことなら大体すんなり受け入れられる自信あるんだけど」


 真顔だ。

 本当にそう思っているのだろう。


 「俺、福城と別れた」

 「そっかー。なんだ。福城さんと別れたんだ……。はぁ!?」


 一瞬落ち着いた様子で受け入れたのに時間差で大声を出してしまう。

 俺は人差し指を鼻に当てて「しーっ」と声を出す。

 ぶちまけるものを全てぶちまけた俺の心の中は案外すっきりとしている。


 「どういうことだ? 福城さんと別れたって……。恋愛的なことだよな?」

 「うん。一方的に振られた」

 「はぁ? 何でだよ」

 「詳しいことはあまり言えないけれどさ……。元々俺のことあまり好きじゃなかったんじゃない?」

 「うーん……。うーん?」


 納得出来ないのか奏太は顎に手を当てながらうんうん唸る。


 「顔も見たくないって言われたから経緯はともかく振られたのに間違いはないぞ。俺の誤解とかでもない……。あぁ、短かったけど良い夢見れたよ」

 「夢って……。達観してるな」

 「達観してるってか、もう悲しいって感情通り越したんだろうね」

 「あぁ」


 今まで納得していない表情を浮かべていた奏太はこの部分だけには同意したのかうんうんと大きく首を縦に振る。


 「でも、一颯は全校集会で愛を叫ぶ勇者って言われてるしそこそこ女子からの評価も上がってるから簡単に彼女出来るだろ。恋愛は切り替えも大事だからな」

 「奏太が言うと説得力あるな」

 「褒めるなよ。照れるだろ」

 「褒めてねぇーから」


 ぶちまけにぶちまけた俺は奏太となんてことの無い普通の会話を繰り広げて、時間を潰し5限を丸々サボったのであった。

いつもありがとうございます!

ジャンル別日間ランキングの下の方に入ってそうな雰囲気なので(確認はしてませんが)適宜ストックを放出していこうと思います。

ストックが無くなるのが先か、順位が上がるのが先か……、楽しみですね。笑


まだまだ話し続けるつもりで居ますのでこれからもお付き合いよろしくお願いします。

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