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仲良し大作戦

 俺が席へと戻ると会話が生まれる。

 お互いに助かったというような視線を送ってくる。


 「ちょっと一颯良いか?」

 「え、あ? うん」


 奏太は突然俺を店の外へと出す。

 麗を置いて出ると、奏太は眉間に皺を寄せている。


 「良く福城さんのこと落としたな。なんか喋りかけるなオーラすげぇんだけど。この間会った時こんなだったけ」

 「うーん。普段はもっと柔らかいんだよ」

 「じゃあ俺が嫌われてるってこと?」

 「嫌われてるならそもそも来ないだろ。緊張してるだけじゃね」

 「そ、そっか……」


 珍しくネガティブな思考になっているがこれは致し方ないだろう。

 少なくとも俺が奏太の立ち位置だったら同じことを考える。

 あんなに表情固く、話しかけてもパッとしない返事をされてしまうと嫌われてるのかもと勘繰ってしまうし、そもそもこちらの話す気力すら奪ってしまう。


 奏太は確認だけすると腕を組みながら席へと戻り、俺も後ろを着いていく。

 席に座り、テーブルにあるコーヒーに口をつける。


 「映画のオチどうことだったんだ? 付き合ったってことなのかな」


 奏太は話題を絞り出す。

 俺は口を開かずに麗へと視線を向けると麗は飲もうとしていたコーヒーを机に置く。


 「分かりにくかったけれどそういうことじゃないかな。じゃないと体だけの関係ってことだからね。それじゃあ、ラブコメのオチとしては最悪だしね」

 「お、おう。そうだよな」


 せっかく会話が生まれたのに2人だけだと会話がすぐに沈んでしまう。

 いつものコミュニケーション能力を駆使すりゃ話せるだろと思うのだが、そうもいかないのだろう

 まぁ、追いかけていた人が目の前に現れてしまったのだから奏太が会話を広げられないのは仕方ないのかもしれない。


 「うーん。ちょっと麗」


 手招きをしてカフェの外へと呼び寄せる。

 麗は首を傾げつつも何も言わず、素直に着いてきてくれる。


 「何?」

 「なんでこんなに会話広がらないんだ? もっとなんか話広げてやれよ」

 「そんなこと言われたって……。明らかに好意持たれてるから素っ気ない態度してないと面倒なことになるもの」

 「好意……ね」


 奏太は本人にファンだとかなんだとか口にはしていないだろうが、麗には見透かされているというわけだろうか。

 麗レベルにモテる人間だと相手の小さな好意にも気付くほど敏感というわけだろう。


 「むしろ、一颯は何も言われてないの? 嫌味の1つや2つ言われてそうだけど?」

 「嫌味? アイツがか? 言う理由ないだろ」


 嫌味なんて言われるどころか、俺のことを助けてくれる奴だ。

 そんな奴が嫌味なんか口にしない。

 仮に俺のことが嫌いなのであれば、それこそ虐められていた時に加担していたはずだ。

 手を差し伸べる理由なんてこれっぽっちも存在しない。

 例えば「他の奴との関係もあるから俺には何も出来ない」とか言ってしまえば仕方ないと奏太の手は借りなかった。


 「ふーん。そう? 付き合い始めてから他の男からのアピール減っちゃったし、私のこの感覚も鈍っちゃってるのかもね」

 「そうじゃね。奏太は麗のこと好きだろうけど、恋愛的な好きじゃないと思うしな」

 「そうなんだ。それならもう少し柔らかくしても良いのかも……」


 また席へと戻る。

 もうコーヒーも残っていないので十数分時間を潰した後に店を出た。


 「次どこ行こっか。阿佐谷くんはどこかある?」


 大丈夫と判断したのか、率先して麗は声をかける。

 俺が居なくともやって欲しいのだが、すぐに出来るとは思えないのでニコニコ意味もなく微笑む保護者ポジションで見守る。


 「あ、俺か?」


 まさか自分に振られるとは思っていなかったのか、奏太は声を上ずらせながら反応する。


 「うん」

 「そうだなぁ。でも、今からだと行けるところもかなり限られるしな……。適当に買い物とか……?」

 「そう……。ショッピングモールにいる訳だし悪くない案ね。流石、イケメンなだけあるじゃん」


 顔こそ奏太の方を向けているが、視線は間違いなくこちらへ向いている。

 その視線の方向に気づいた奏太は苦笑いしながら俺の方へ一緒に視線を向ける。

 まるで俺が哀れみたいじゃないか……。やめてくれよ。


 そんなこんなで何かが欲しいという大きな目的を持ってではなく、時間を潰しがてらショッピングモールを散歩しようという意味合いでの買い物へ出かける。

 何か良いものがあれば買うが無ければ眺めるだけというお財布に優しい方向へ転んだり、全く優しくない方向へ転んだりする予測不能なお出かけだ。


 適当に歩き、服を見たり、滅茶苦茶柔らかいクッションを意味もなくモフってみたり……ととにかく生産性の欠けらも無いことをしている。

 だが、楽しくないという感情とは程遠い。


 慣れてきたのか、元々それだけの力を持っていたのを発揮し始めたのか分からないが2人とも自然に話せるようになっていた。

 今なら俺なんて要らないだろうなと思い、コソッと離れておく。

 ペットショップにいる可愛い子犬ちゃんの力も少なからずあるのだろうが、俺が居なくても大丈夫というのは大きな収穫だ。


 「福城さんは犬派? 猫派?」

 「私は猫派かな。でも、柴犬も好きなんだよね。一颯はどっちなんだろう?」

 「アイツは狐派だな。犬とか猫とか選ばないと思うぞ」

 「ふふ。確かにそうね。変なところでズレてるから」

 「ズレてるんだか、ズラしてるんだか分からないけどな」


 なるほどなるほど、2人は俺の事をそんな風に思っていたんだな。

 大体犬派か猫派って聞かれて狐派って答えるってなんだよ。

 ソイツ頭悪すぎだろ。

 俺は圧倒的犬派だ。

 猫は引っかかれるから嫌いである。


 「最初、福城さんと一颯が付き合い始めたって噂聞いた時ビックリしたんだよ。あれだけ『彼女欲しい、彼女欲しい』って嘆いてた奴に福城さんみたいな彼女ができるなんて思ってなかったから」


 2匹の子犬が喧嘩しているのを見つめつつそう口にする。


 「あ、別にアイツのこと馬鹿にしてる訳じゃないからね」

 「ふふ。わかってるわよ」

 「単刀直入に聞くけれど……なんで一颯だったの? すげぇモテてたでしょ?」

 「何でだろうね。面白いからって付き合い始めたと思ってたんだけれど……、もしかしたら知らず知らずのうちに口説かれてたのかな」


 アハハと麗は笑う。

 聞いているだけで恥ずかしくなってくるので「良い雰囲気じゃねぇーか。俺の彼女奪うなよ?」と茶々を入れておく。

 喧嘩していた子犬の片割れが逃げ始めたのを横目にしながら俺たちはショッピングモールを後にして解散となった。

 あまり仲良くなられるのも困ってしまうがそこそこ仲良くなってくれれば俺としては有難い。

 彼女と親友が険悪とか割と辛いしな。

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