人を頼る大切さ
「それで? なんでこんなことになっちゃったわけ? 何もしないでこういう噂は出てこないものだからね」
人気のない廊下の壁に麗はよっかかり、腕を組んで問う。
「知らない」という最強な逃げ道さえも塞がれてしまってしまい、意味もなく視線を右往左往させる。
「虐められてるんだよ」
腹を括り、全てをぶちまけることにする。
ここで強がっても仕方ない。
というか、強がったところできっと麗は見透かし、座間なんか比べ物にならないぐらいの形相で問い詰めてくるだろう。
脳裏にその姿が浮かんでくる。
「ふーん。一颯って虐められてるんだ」
鼻で笑う。
「なんだよその反応」
「え、一颯もしかして慰めてもらいたかった? 可哀想だね、虐められて惨めだね」
「勝手に可哀想な子扱いするなよ」
「もう。ワガママだな。どうして欲しいの?」
「その……助けて欲しいなって」
俺の言葉を聞いた麗は笑みを見せる。
そして、軽く花を擦った後に俺の手をぎゅっと握った。
手をゆっくりと離すと、周りをキョロキョロ不自然に見渡す。
視線が俺の方へと向けられると、麗は大きく息を吸った。
「生きる意味失ってた私に手を差し伸べてくれたのは一颯だしね。そのぐらいで良ければ助けてあげる」
「ありがとう」
「でも、女の子にイジメの救いを求めるって情けなくない?」
麗は小馬鹿にするような口調だ。
ただ、本気で馬鹿にしようとしている訳じゃないという雰囲気は伝わってくる。
あくまでも、場の空気が重くならないよう意識してくれているのだろう。
これで本気でバカにしているのであれば悲しくなるが、麗の心の中なんて分かりっこないのでポジティブに捉えておくのが吉だ。
「ふふふ。冗談」
「ほんとかよ」
「本当だよ。ほら、この私の目を見て。冗談言ってるように見える?」
麗は宝石のように輝く瞳で俺と目を合わせようとしてくる。
瞳が眩しすぎて視線を逸らそうとするが、負けじと麗は目を合わせようと追いかけてくる。
人の目を見たって何も分からないのにな。
「むぅ。なんで目合わせてくれないの?」
「なんでって……」
「ん?」
「麗の目が眩しいから」
「……」
「……」
麗は口を紡ぎ、目を合わせるのをやめてくれる。
「それよりも原因! 原因は?」
ズレた話をスっと軌道修正してくれる。
気まずい雰囲気が流れたからなのか、普通に話を進めたかったのか分からないがこの話の持っていき方は俺にとっても好都合なので乗っかっておく。
「クラスのとある人にさ言われたんだよね」
「とある人?」
麗は疑問を投げるが無視して話を続ける。
「突然『福城さんと別れろ』って迫られて、拒否したら精神的苦痛を与えてやるって言われてこうなった」
麗は顎に手を当てる。
しばらくすると、どこから吹いていてきたのか謎な風が麗の髪の靡かせて、邪魔だと言いたげか表情で耳にかけながら口を開く。
「それってつまり私のせいじゃん?」
これでもかってぐらい済んだ顔である。
清々しすぎて大きく縦に首を振ってしまいそうになるレベルだ。
何かやらかして開き直ってもここまで綺麗な澄まし顔はできない。
「そうか?」
「そうでしょ。だって、私と付き合わなかったらこんなことにならなかったんでしょ」
「いや、まぁ……うーん。それはそうだろうけどさ」
麗の勢いに押されて、しどろもどろしてしまう。
勢いしかない麗は何を企んだのかほくそ笑む。
もしかしたら別れる口実を見つけたと思っているのかも……とネガティブな思考に陥ったタイミングで麗は俺の頬に両手で触れた。
他人の体温が肌に直接伝わり、心がぽわぽわしてくる。
「ふふ。それじゃあ、私が手出すのは当然じゃん!」
俺の頬から手を離し、満面の笑みでそんなことを口走る。
「私が原因なのに、頑張れーって手を振ってるのはちょっと違くない? こういうことなら全力出せちゃうね」
「……。何するつもりなんだ?」
「何するって。面白いことかな。はぁー、今から楽しみだよ」
悪人より悪人顔をしてみせる麗。
やっぱりこの女恐ろしいわ。
こんな可愛い顔して、頭の中は多分どんな仕打ちをしようか考えているに違いない。
マジでメンタルも強いし、思考回路もイカれてる。
だからこそ、なんで自殺なんてしたんだろうかという疑念がより一層深まる。
「うーん。でも、しばらくはこの視線収まらなさそうだよね」
「そうだろうな。噂って流れるのは一瞬なのに、消えるのは時間かかるし」
「一颯が耐えられても私耐えられないかもしれない」
ふーん、可愛いところもあるじゃんと1人で感心していると麗は「思わず殴っちゃいそう」とかほざき始めた。
俺の感心した時間を返して欲しい。
「なぁ……。あのさ――」
「とりあえずある程度ことが収まるまではあそこでご飯とか食べよっか。あそこなら周りの視線とか気にせずに済みそうかな」
自殺について聞こうと思ったら綺麗に声を被せられて聞くタイミングを逃してしまう。
悪意はなかったようで、麗は空き教室を指さしながら首を傾げる。
「ごめん。なんて言った?」
「あー、ううん。なんでもない。大したことじゃないから。それよりも、空き教室でご飯食べるのは俺も賛成。教室とかで食べてたら落ち着かないしさ」
「そう?」
俺の中では膨大になる一方なのだが、あの一瞬を取り逃してしまうと聞こうという気力すら無くなってしまう。
今じゃないなという謎の気持ちに襲われてしまうのだ。
別にいつ聞いたって良いのだろうけれど……、これは感覚的な話なので難しい。
多分、理論的に説明するのは不可能に近いだろう。
「ちなみに誰に虐められてるの?」
麗は空き教室の方に歩みを進めながらイジメについての話を追求してくる。
「あのいつも一緒にいる子?」
「いつも一緒?」
「ほら、同じクラスのイケメンくん。名前は……、えーっと……。阿佐谷くんだ。阿佐谷くん」
「奏太か。奏太はむしろ味方だよ」
「ふーん。そっか」
麗はどこかつまらなさそうな表情を見せる。
「うん? どうかした?」
「ううん。ただ、頼れる人が居て良かったね」
少し表情が曇り気味なのが引っかかるが気にするだけ無駄なので思考を放棄したのだった。
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