表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
届く宛てのない手紙  作者: いしい けん
42/43

第23章 エピローグ

 沢山の海鳥が空を飛び交い、澄んだ空に鳴き声が響く。

 カラッとした暑い陽射しが肌を照りつける。

 沖縄から遥か南に位置するこの島。その中心部から少し離れた、海が一望できる高台。


 八月、終戦記念日。


 私は、ある男の足取りを追って此処へ来ていた。


 そこには日本人の戦没者を祀る石碑が建てられていて、この時期になると関係者や遺族が遠方より訪れる。この日も日本人と思われる親子が献花に訪れていていた。


 少年と並んで座り何やら話す男の姿。遠くからその様子を確認すると、私はその石碑へと近付いた。

 妻と息子の三人家族。調査報告書の記録に相違は無い。


 父親が少年の頭をクシャクシャっと撫でると少年は顔を見上げ、眩しそうに夕日に目を細めながら父親の顔を凝視する。


 その時、遠くでふたりを呼ぶ声がする。

「ふたりとも、そろそろ帰っておいでー」

 母親の声だろうか? 少年は嬉しそうに振り返ると、手を振りながら母親の元へと走っていった。


 一瞬……ビュッと暖かく強い風が、丘の上を吹き抜けた。


 男が一人になる機会を伺い、少年が男から充分に離れたことを確認すると、私はその男の元へと足を早めた。


「あの夏、貴方は何を失い……そして我々は、何を得たのか」

 男は、そう呟くと……手に握ってあった少将の階級章をそっと石碑に置く。


 そして胸ポケットから一枚の手紙を取り出した。

 幾度となく読み返されたであろうその手紙にはこう書いてあった。



『ありがとう、未来のキミ達が日本を護ってくれていると信じている。

 キミは今、笑っているか?

 キミは今、生きているか?

 仲間達とやりたい事がやれる。

 仲間達と酒が飲める。

 仲間達と仕事が出来る。

 これは生きている者の特権だ。

 その命の有難みを自覚し、人を思いやり助け合い、人に感謝して生きる事で、俺たちが命を賭して戦った意味を少しでも理解してくれると嬉しい。

 最後に、この言葉を贈る。

 一人はみんなの為に……みんなは一人の為に』



 それは、あの日……海上自衛隊で男が私に見せてくれた、誰にともなく書いた「届く宛てのない手紙」だった。


「辻岡艦長、恥ずかしながら帰って参りました。これから未来よりお迎えに上がります……そして、共にあの戦争の続きを始めますよ。次は、負けません」


 男は立ち上がり手紙を胸ポケットに戻すと、石碑に向かって敬礼する。いわゆる、海軍式敬礼と言われるものである。

 敬礼を解き立ち去ろうと振り向いたその真後ろに、身構えるように立っていた私と目が合う。

 男は瞬時に全てを悟ると、目を伏せ顔を隠しながら無言で立ち去ろうとするが、強引に腕を掴み引き留めた。


「海上自衛隊幹部候補生学校、横井哲也二等海佐ですね? いや……横井水雷長とお呼びした方がよろしいでしょうか? 貴方にお話があります……」


 第一部完結……つづく

 二〇二〇年、日本は未知のウイルスが猛威を振るい経済は止まり、人々は恐怖のため自粛を余儀なくされ、次第に疲弊していきました。


 街ではトイレットペーパーやマスク、更には消毒用のアルコールまで奪うように我先にと買い漁る醜い姿を目の当たりにしました。戦争中とまでは言いませんが、非常時に人間が取る行動は斯くなるものかと、残念な気持ちになったのを覚えています。



 あの凄惨な戦争が終わりを迎え、七五年が経ちました。


 今では戦争を経験した方も少なくなり、貴重な体験談を語り継ぐことも難しくなってきました。


 学校で教わったことは、本当のことでしょうか?


 新聞やニュースで伝えられることは、本当のことでしょうか?


 当時の人たちは、どのように思い……どのように戦い、戦争という過酷な時代を生きたのでしょう?


 私は街を歩いていると、時に空想するのです。

 私たちが暮らす今の日本を、当時の日本人が見たらどう思うのだろうと……


 近代化が猛スピードで進み、物が有り溢れるこの日本を見て戦争に勝ったと、当時の人はとても喜ぶ事でしょう。

 ですが、実際に日本は戦争に敗れます。


 戦後の混沌期を昔の人が一所懸命に支えてくれたからこそ、今の豊かな暮らしがあるのです。

 しかし、日本は物質的な豊かさを得た代わりに、作中で西森が述べた「心の豊かさ」を同時に失ってしまったのではないでしょうか?


 私たちは勝手に生きているのではなく、生かされていると考えます。


 この素晴らしい地球に、そして平和な日本に生まれてきて、やりたい事が何でも出来ます。

 夢を持つことだって出来ます。仲間もいます。大切な家族や恋人だっているでしょう。

 当時の人が当たり前に出来なかった事が、当たり前に出来る時代です。


 その幸せの享受は当時、死ぬ覚悟を以て自らの命を賭して戦ってくれた先人たちと、生きる覚悟を持って戦後の焼け野原を復興し、今の豊かな日本へと導いてくれた先人たちのおかげに他なりません。


 生意気ではありますが、今ある自分の命の意味を再考して頂き、日本人が残そうとした美しい日本と、日本人が持つ本来の素晴らしい心を大切にしてもらえたらと思い、稚拙ではありますが本作を書かせて頂きました。


 これから日本と我々の歩む道は、もしかしたら平坦ではないかも知れません。

 しかし、隣を見てください。

 私たちには一緒に笑ったり、泣いたり出来る仲間がいます。

 愛する人、愛する家族がいます。


「ひとりは、みんなのため。みんなは、ひとりのため」


 互いに助け合って、この素晴らしい世界で笑いながら幸せに「みんな仲良く」暮らせたら良いなと心から思ってます。








最後までお読み頂き、ありがとうございます。


『面白かった』『続きが読みたい』と思って頂けましたら、下にある☆☆☆☆☆から、是非とも応援お願いいたします!


面白いやんか⇒星5つ。 おもんないんじゃボケ⇒星1つ。

正直な感想で結構ですが、傷付かない程度でお願いします。


また、なろうランキングもポチっとしてくれると嬉しくて泣き崩れます。


更に、ブックマークして頂いた優しい読者様には、年末お歳暮でも送らせて頂きますw


是非ともよろしくお願いします!



また、ローファンタジー部門 日間ランキングインし、只今連載中であります……

擬人化した精子が繰り広げる新感覚学園ファンタジー!

『女神転精』も併せてお読み頂けると嬉しいです。


挿絵(By みてみん)


作者ページ、またはこのURLからお進みください。

https://ncode.syosetu.com/n3796gv/


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ