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届く宛てのない手紙  作者: いしい けん
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第9章 亜樹と知樹②

 どうやら少女が、その視線に気付いたようだ。


「あら、知樹……お客様よ」

 そう言ってこちらを振り返る。どこか儚くも顔立ちの整った、とても美しい少女だった。


「お、お人形さんみたい……」

 江美が思わずそう漏らした。直美は緊張しながらも、初めて会う自分とは別世界に住むふたりに勇気を出して話しかけてみる事にした。


「こ、こんにちは。私たちは見に来ただけで、お、お、お客さんじゃないんだけど……おふたりは、お人形を買いに来たのかしら?」


 少女は表情を変えずに一度振り返り、花嫁人形を眺める。

「ふぅん……そうなの? なら同じね」


 どうやら店の関係者でもなさそうだし、人形を買いに来た訳でもなさそうだ。

 もしかして、ふたりも同じ人形がお気に入りなのかしら。そう思うと直美は、不思議と少し親近感を覚えた。


「この近所では見ない顔だけど、ふたりは何処から来たの?」


 直美の質問に今度は、人形に釘付けだった少年がゆっくりと振り返る。


 なんとこちらも、びっくりする程に端正な顔立ちの美少年であった。口元を少しだけ緩めて直美の問いに答えた。

「僕たちが何処から来たかって? ……そうだね、君たちの知らない遠い遠い所だよ」


「とおいところ? がいこくから来たの?」

 不思議そうに江美が聞き返す。


「うふふふっ……そうね」

 少女は嬉しそうに笑うと、その口元を手の平でそっと隠した。


「僕たちは双子。こっちが姉さまの亜樹、僕は知樹だよ。よろしくね」

 そう言ってふたりは、直美と江美に屈託のない微笑みを向けた。


 その笑顔に直美と江美もニコッと微笑み返したが、何故かミミは怖がって耳をペタンと寝かせ、尻尾を下げて丸めると直美の影に隠れてしまった。

 ドドは姿勢を低くして、牙と歯茎を剥き出しすると「ヴヴヴゥゥゥ」と低く唸り、ふたりに威嚇を続けていた。


「どうしたん? ドド」


 見たことが無いほど恐ろしいドドの豹変を心配して、江美が優しく身体を撫でて落ち着かせる。


 その様子をみて顔色変えず、少女はフッと鼻で嗤う。

「あらあら……嫌われてしまったみたいね」


「姉さま……そろそろ行きましょう」

 少年が少女の手を取り、そっと握る。


「そうね、では……ご機嫌よう」

 そう言って小さく手を振ると、ふたりは人形店の前から港の方に向かい去って行った。


「「ご、ごきげんよう」」

 今まで一度も使った事も聞いた事すらもない挨拶に、ふたりは声を揃え目を合わせると、その後ろ姿をしばらく見送った。


「お姉ちゃん、あの子って日傘ずっと持ってるけど、ささへんねんな」

「う、うん。ほうやねぇ、今日は暑いのにね」


 ふたりの影が小さくなると大人しくなるドド。

 ミミは何かに怯えるように「クゥーン」と鳴くと、直美の足元にべったりと身体を擦り寄せたままだ。


「珍しいわね? ドドがこんなに怒るなんて」


「そりゃお姉ちゃん、あんなお姫様みたいな格好してたらドドやってビックリするやろ? ほんで、傘ささへんのかいって」


「それもそうね、あははははははっ」


 ひとしきり大笑いすると、思い出したように人形店の窓にへばり付き、花嫁人形をじっと見つめるふたり。


「ええなぁ、きれいやなぁ」


「ほうね、ほんと綺麗やね」


「あっ、そうや! お姉ちゃんがおよめさん行く時は、江美のお父さんにしゃべってもろたらえーねん」


 コホンと咳払いをすると、お父さんの真似を始める江美。

「えー、えー……このたびは――」


 そのモノマネが似ているのかわからなかったが、直美には江美のそんな姿がとても滑稽だった。同時にそんなお父さんの事が大好きな江美の姿と戦争で亡くした自分の父親とを重ね合わせていた。


「お父さん……か」

「うん! 江美のお父さん、しゃべるのとくいやで。うちでもずっとしゃべっておもろいことばっかり言うてんねん」


 軍人であり艦長という立場もあって、頻繁に家に帰る機会は少ないが、外で何があっても家に帰ると明るく振る舞い、いつも自分にだけは特別優しく接してくれる。そんなお父さんの事が、江美は大好きだった。


 それは直美にとっても同じこと、この戦争に駆り出され早々に銃弾に倒れ亡くなった大好きな父親との思い出だった。

 酒蔵で男衆を束ねる父親は、職人気質で大変厳しくとも、一人娘である直美には格別優しかった。


 ここで自分だけ辛い顔は見せられない。無邪気ながらに直美の幸せを願う江美の気持ちを汲み取ると、涙がこぼれないように天を仰ぐ。そして、眩し過ぎる太陽に手をかざし、めいいっぱい明るく微笑んだ。

(お父さん、お空から私の花嫁姿……見ててくれるかな)


「ほいじゃあ、江美ちゃんにお願いして、艦長殿に仲人してもらおうかいね。では、何卒よろしくお願いしてつかぁさい」

 そう言って、深々と頭を下げる。


「うん。お父さん帰ってきたら、おねがいするね」


 屈託のない満面の笑みを見つめながら、直美は腰を屈め姿勢を低くすると江美の頭を軽く撫でた。


「ありがとう、江美ちゃん」

「えへへへへ」

最後までお読み頂き、ありがとうございます。


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また、連載中であります……擬人化した精子が人間になる迄を描いた新感覚学園ファンタジー『女神転精』も併せてお読み頂けると嬉しいです。


挿絵(By みてみん)


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