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地には花、空には月を、そして僕らに安寧を。  作者: 鳩音
第一章  そして始まる僕らの運命。
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 第三節  遭遇

僕の口から出た吐息が白く、滲んで溶けていくのをぼんやりと眺める。

この状況の打開策は一つも浮かんでこず、彼女にかける言葉は思いつかない。


ふと、何か違和感の様なものを感じた。

さっきまでと何かが違う。

しかしそれが理解できない。


この場所の変化……上着を脱いで鉄を掘り始めた辺りから思い出してみるが、今引っかかった違和感の正体はつかめなかった。

鮮明な記憶と照らし合わせても、この答え合わせがうまくいかないのがとてももどかしい。


そもそも何を見て違和感を僕は感じたんだろうか。

タイミング的に候補はそう多くないだろう。


ディーマが恥じらって離してくれた左手。

うずくまっているディーマ。

僕のため息。


しかしこの中に一体違和感を感じる要素があるのだろうか。

本当に些細な違和感だったと思うのだが、具体的に何に対して感じたものなのか、判断しかねている。


その時、正面でうずくまっているディーマを確認すると彼女は脱いでいた上着を羽織ろうとしている所だった。

彼女と目があったが、恥ずかしいから上着を着ようとしたというよりは――。


「ディーマ、急いで戦闘用意!魔物が近くにいるかも知れない!」


違和感の正体、それは気温だった。

明らかに平時の坑道内の気温より低くなっている事が、今ならはっきりと分かる。

おそらく徐々に冷えていっていたのだろうが、状況に翻弄されてその変化に全く気づかなかった。


ディーマは今の僕の指示で気持ちを切り替えてくれたようで、近くに置いてあったその長大な大剣の柄を両手でしっかりと握りしめ、頭の横に柄を持っていき、切っ先を地面に向けて構えた。

僕も鞘を腰に手早く結び、剣を抜いて直様、正眼に構える。


防具を悠長に装着しなおしている時間はない。

僕たちが掘っていた壁を右側に置き、前方の坑道の先が見えない暗がりを凝視する。


こちらは僕たちが来た方とは逆の通路にあたる。

背後の僕たちがやってきた方の通路はディーマに任せることにした。


足元からひんやりとした冷気が纏わりついてくる。

恐らくは僕が見ている方から徐々に冷気が強まっている様に思う。


生唾を飲み込む。

頬を汗が一筋、流れた。


緊張を殺して、感覚を前方にだけ集中させる。

吐いた息が真冬の様に白く視界を染めた。


ひたり。


確かに坑道の奥からそんな音が聞こえた。

水に濡れた靴で歩いているときの様な、そんな不愉快な音だった。


ひたり。


それはこちらに向かって近づいてきているのだろう。


「ディーマ、こっちから来るみたい。僕の左手でカバーお願い」


彼女のさっきの動きから、そこそこ出来ると踏んで僕は彼女にカバーを頼むことにした。

指示をきいてくれて、彼女が僕の左側に立ったのを確認する。


今この坑道内は僕たちが今いる場所付近のランタンをつけている箇所以外はとても暗く、忍び寄るには絶好の環境だろう。

さらにはこの坑道内で僕の八十センチくらいの剣であれば、振り回しても天井に当たることはまず無いくらいの広さはあるが、軽く百五十センチを超えるであろう彼女の大剣ではまず振り回せないだろう。

であれば、僕がまず接敵してそのサポートに彼女に入ってもらったほうが動きやすいはずだ。


そもそもお互いの力量を把握していないのだから、連携がうまくいくなどとは微塵も思っていない。

これはあくまでも保険の様な布陣で、僕は一人で片付けるつもりで居た。


教えると約束した手前、彼女に何かあったら僕が参ってしまう。


ひたり。


不愉快な音はもうかなりはっきりと聞こえてきていた。

僕は右太ももにつけたポーチから砕けた光石を取り出し、右手に握り込む。


この砕けた光石は強烈な光を放つことはもうできないが、それでも衝撃を与えれば少しだけなら発光する。

それを音がする正面へと投げつけた。


ひたり。


音がする暗闇の中、光石の欠片は地面で砕け、微かに光を発する。

その灯りが瞬間、照らし出したものは二足歩行の見にくくブヨブヨとした、赤っぽい何かだった。


「OEeAaaaaaa」


光石に一瞬照らされた不気味な何かは雄叫びの様なものを上げて、暗闇の中で速度を上げる。

ひたひた、と不愉快な音を走っていると認識できる速度で立てこちらに向かってきていた。


そしてすぐにランタンの灯りで照らされる範囲にまで、そいつは姿を見せた。


それは見たことも聞いたこともない魔物だった。。

二メートル近い背をしたそれは、二足歩行をしており、容姿はオーガに近いだろうか。

しかしブヨブヨと全身の肉が膨らみ、皮は赤く爛れ、腐れ落ちる寸前といった感じのおぞましい見た目をしている。


そして体の爛れた皮膚の至ることから白い液体が垂れているのが確認できる。

その液体は地面に溢れるとそこから地面が氷始めた。


あれが気温が低下した原因であると理解したが、剣で切り込んだらあの液体を浴びる羽目になるかもしれない。

あの内側から膨らんで、たるんだ皮下には白い液体で満たされていたら……。


斬ったり突いたりする事が主体の僕とは相性が悪すぎる。

とはいえ、背中を向けて逃げても逃げ切れる保証はない。


「斬り込むから、ディーマは様子見!危ないと思ったら逃げて」


「……わかりました。気をつけて下さい」


不満はあるみたいだけど、それは後だ。

とにかくあの魔物の勢いを殺さなくては。


巨漢を揺らし、その液体を壁や床に撒き散らしながら迫りくる目の前の魔物に向かって僕は走り出した。

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