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地には花、空には月を、そして僕らに安寧を。  作者: 鳩音
第一章  そして始まる僕らの運命。
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 第三節  面倒事2

「お前がこの間持ち込んだガントレットな、やっぱ直らなんだわ」


 なっ……。


「見てくれだけなら整えれるが、肝心の魔銀――ミスリルが魔力帯びちまって使い物にならん」


「――」


 絶句するしかなかった。

オーエン程の職人が無理と言うならそれは無理なのだ。


 彼にオーダーして作ってもらったシールド複合ガントレット。

強度と軽さを両立する為に魔銀を表面に編み込んだ特注品である為、かなりの額がした。


 それがダメになったのだとすると、この間の洞窟掃討の収支がマイナスになるだけでなく、今後の活動にも支障をきたしてしまう。


「オーエン、なんとか――」


「無理だな。魔銀が魔力で砂になっちまってるんだ、もう戻らねえよ」


 ため息も出ない程に僕は落胆した。


 魔銀は魔力を弾く性質の他に柔らかいという性質を有している。

粘土の様なそれに魔力を挟んで閉じ込めるようにして、魔銀を重ねると衝撃を分散して物理的な攻撃にもある程度は効力を発揮する。


 本来は魔法防御が主な用途に使われる素材だが、そういった加工で両立はできるのだ。

問題は一定以上の衝撃が加わると間に挟んでいる魔力を弾き切れずに、魔銀が取り込んでしまう事があるということ。


 そうなると、魔銀はその構造を自身の魔力を弾くという性質でもって自壊する。具体的に言うと砂になる。


 まさに今回の様なオーガの一撃はそれに該当する威力だったわけだ。

もちろん、コーティングに使う魔銀の量に応じてそれは変わるのだが、そもそも魔銀は恐ろしく高価な希少金属である。


 オーガの攻撃を真正面から受け止めても大丈夫な程の魔銀となると、後五年頑張ってやっと届くかどうかと言った所だろうか。


「代わりの品……ある?」


「そう言うだろうと思って作ってはあるぞ。もちろん魔銀は使っとらんが」


「もう軽いならそれだけでいいよ……」


 諦めたから、と心の中で付け足す。

そもそもちょっと無茶したからこんな目にあったわけで、グレッグの提案を飲んでいたならこうはならなかっただろう。

本当に痛い損失だった。


「ニールよお、盾はやっぱ持つつもりはないのか?」


「俺も盾があれば安心なんだけどね。師匠の剣術だと盾は邪魔にしかならないからさ、ガントレットじゃないとダメだったんだよ」


 実際、盾を使おうとした事はあったのだが、どうしても剣を振る際に邪魔になるのだ。


 さらに言えば冗談だと思っていた、敵の攻撃は全て斬って迎撃するという芸当を師匠は本当にやっていたので、師匠の剣術だと盾は不要なのだろう。


 とはいえ僕はまだできないだろうから、刃で反らせと教えてもらったが、今だにうまく出来ない。


「そうか、まあ仕方ないわな。とりあえずこれ持ってけ」


 そう言ってオーエンは新しいガントレットをこちらに差し出してくる。

それを受け取ると彼は、重さはほぼ一緒だが強度はかなり低いぞ、と念を押してきた。

重さはほぼ同一とのことだが、こちらの方が軽いかもしれない。


「前のより軽いけど、どれくらい防御力落ちてるの?」


「そうさなあ。人間以外の膂力で殴られると、すぐダメになる程度には脆い。前も言ったが、受け流す様に使ってくれ」


「ん、気をつけるよ。お代は?」


「この後の説教込みで十万ルキスでいいぞ」


 説教の事忘れてなかったのか……。

そう思いながらも予想外に安かった事に驚く。


「安いね、どうしてまた?」


 思わず訪ねてしまった。


「高い方がいいのか?」


「そういう訳じゃないけど……」


「まあ気にすんな。今回限りのサービスみたいなもんだ。勿論、安いからって手を抜いてたりはねえから安心しろ」


 オーエンは自分の作った物に誇りを持っている。

それが壊された事に少なからず引け目を感じているのだろう。

そしてそれが僕のミスだった故に、だとしても彼はやはり気にしているのだ。


「ありがとう」


 申し訳無さでいっぱいになりながらも、感謝の言葉を伝えた。

そして十万ルキスを払って、説教だ!と言われる前に店舗側の方に戻った時に客が居ることに気づく。


 向こうもこちらに気づいた様で、嬉しそうに近づいてくる。

褐色の肌をした活発そうな女性だった。


 身長百六十センチ程で身体もよく鍛えられている所を見るに冒険者だろうか。

髪は艶のある黒で、前髪で片目を隠している。

隠していいない方の虹彩は青紫でとても美しい。


 背中に大きな包を背負っており、かなり重そうにも見える。

それを苦もなさそうに背負っているので結構力もあるのかもしれない。


「あのっ!私、武器がほしいんですけど、作ってもらえませんか?」


 彼女を観察していた僕を店員だと勘違いしたようだった。

確かにカウンターの奥から出てきたので、そういう風に思われても仕方がない気もするが。


「すみません、僕は店員ではないので……ちょっと待ってくださいね」


 観察していたのを悟られる前に、工房側のオーエンを呼ぶと、彼はすぐさまカウンター奥から顔をだした。

その風貌のせいか、女性が一瞬ビクッと肩が跳ねたのが見えて笑ってしまいそうになった。


 オーエンには見透かされて居た様で、ジロリと睨まれる。


「で、嬢ちゃん、誰の紹介だ?」


 お、新規客だったのか。

そもそも場所が場所なだけに誰かに紹介されない限り、気づかないだろう。


「えっと……酒場で評判だと聞いて、誰かの紹介というわけじゃないんです。ダメ……ですか?」


 明らかにシュンとしたのがわかる。

感情が表に出やすいのだろう。


「別に構わねえよ。で、要件は?」


 オーエンの店は別に紹介制というわけでもないので、気になって聞いただけなのだろう。


「よかった。えっとですね、私、武器が欲しくて」


「武器か。どんなのだ」


「これと同じものを一振りお願いしますっ!」


 そういって彼女は背中に背負っていた包の中心辺りを掴んで、オーエンの前に持ってくる。

そして包を解いて、その武器の全身が顕になった。

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