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地には花、空には月を、そして僕らに安寧を。  作者: 鳩音
第一章  そして始まる僕らの運命。
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 第一節  僕らの日常。

 帝暦504年。この国のトップであるルクス王が御わす帝都ルクセリア。

その帝都から遠く離れた帝国領の端も端の辺境都市アリアナ。


 そこの貧民窟で僕らは育った。生きる事すら難しいこの暗い場所が僕らの世界だった。


 ここの大人達は僕たちを油虫程度にしか思っておらず、中には僕たちを捕まえて売る者すら居る。

その為、子どもたちは自然と集まり自分たちを守る様になっていった。


 しかし子供ができる仕事などたかが知れており、自分たちを支えきれなくなった大きくなったグループは犯罪行為や、危険な組織と繋がりを持ち、命をかけて命を繋ぐ矛盾じみた事態に陥っていたりしていた。


 そんな中、僕らのグループは6人と少なかった事や、文字が読める頼りになるリーダーが居たおかげで、そういった道を外れることをしなくてもなんとか生きていけたのだった。


 僕らのリーダーが言うのだ、「大人になってここを出たら世界を皆で変えよう。僕達が自由にしたいことを好きなだけできる世界に」と。

そしてそれが叶うかどうかは、今の僕達次第だと。だから僕らは頑張れたのだ。


 彼のおかげで読み書きもできるようになったし、僕らはあの掃き溜めで大人になるまで生き延びられた。太陽の様に僕らを照らして導いてくれた、僕らの王様。


 僕らは大人になったその日、冒険者になった。皆で一緒に。


 最初はうまくいっていたんだ。いつか世界も変えられると信じる事もできて。


 だけど、僕らの太陽は沈んでしまった。


 太陽の沈んだ夜の中、僕らはあそこに居た時から何も変わっていない。今でもただ生きているだけだ。


 それどころか、悪くなっているのではないか。そんな風に思ってしまう。


 あの時、僕が――



「ニール、起きて」


 僕を呼ぶ声に反応して、目を開ける。そこには僕の顔を覗き込んでいる青色の瞳――アイラが居て驚いて顔を動かしてしまった。


 かなり近い距離まで顔を近づけていた彼女の額に思いっきり頭をぶつけてしまい、アイラは曼珠沙華の様に赤い髪を揺らしながら後ろによろめいて、僕たちはお互いに低く呻いた。


 おかげで浅い眠りだったものの、痛みもあって完全に覚醒できたが。鈍く痛む頭を振って、思考を切り替える。


 きっと昔の夢でも見ていたのだろうが、今のでその感傷に引きずられることはなくなった。


 そして今の状況を手早く思い出す。僕たちはギルドからの依頼で洞窟に住み着いたモンスターの掃討を請け負っていた。そして今はその依頼は大方のところ済んで、帰還する前に休憩しているところだ。


 洞窟内なので薄暗いが、周りを見渡すとパチパチと心地よい音を鳴らす焚き火に照らされた仲間の顔が見えた。


 カインはフルプレートを着たまま壁に背をもたれさせてまだ眠っており、ユニはさっきの出来事で何事かと寝ぼけ眼をこすりながらこちらを見ている。


 僕を起こしたアイラはおでこを擦っていたが神妙な表情をしていた。何か問題が起きたのだろうか、確か今は彼女とグレッグが見張りをしていたはずだ。


 見渡すとグレッグは居なかった。


「なにか問題が起きたの?」


 そう聞きながらいつでも動けるように防具の留め金を締め直し、武器の確認を始める。

寝る前に手入れは済ませているので軽い点検だけで構わない。


「かなり……今グレッグが偵察に出てるけどゴブリンの群れが近くに居るみたいなの。彼は“はぐれ”だろうって言ってた。この後皆も起こすけど、グレッグが印を残してるからあなたを先行して追いかけさせろって」


 ゴブリンは本来、大勢の群れを形成して洞窟などに巣食っており、大規模なものになると100匹近くにまで膨れ上がる事がある。


 だが群れに馴染めず追い出されたゴブリンがたちが集まって身を寄せ合っている、少数の集団を冒険者達は“はぐれ”と呼んでいた。


 しかしセーフゾーンで休む際、近くの偵察は済ませていたのだ。となると向こうが移動してきたのだろうか。


 話が聞こえていたのだろうユニは慌てた様に杖を手に取り、隣で寝ているカインをゆすり始めた。


「わかった、点検も終わったしすぐ出るよ。距離はどれくらい?」


「700メートルくらいのところ。数は足跡からして12体程度だろうって」


「ありがとう、先に行ってる。このセーフゾーンにはもう戻らない、そのまま進むから完全武装で追いかけてきて」


装備の点検を追え、立ち上がりながらアイラに伝えた。


 カインも目を覚まし何事かとこちらを見ているが武装を整えた僕を見て察したらしい。

準備を始めているのを横目で確認した。


「ええ、気をつけて」


 彼女の返事を待たずに僕はセーフゾーンを出た。装備は殆どが革なので擦れて金属音がする事もない。


 とにかくグレッグの目印である魔法砂を追いかける。

魔法砂はただの砂に魔力を含ませた物で、一見するとただの砂なのだが、魔力を視る事で魔力を込めた者の色で光って見える。


 そのため、冒険者の間では目印として重宝されていた。

ちなみにグレッグの魔力は梔子色をしている。


 砂が一定間隔で落とされている間は、安全ということなので全力で僕も走り抜ける。

というのも、この砂は落とし方によって状況を伝える符牒にもなっているのだ。


 グレッグはスカウトとしてかなり有名な師匠に見てもらっていたし、その人曰く、才能もあるとのことだった。

そんな彼が問題ないとしているこの辺りの索敵は抜かりは無いはずだ。


 ちなみに符牒は人によって違うので他のパーティーが見てもわからない様にはなっているが、たった1つだけ共通した符牒がある。

それはこの先危険あり、という砂を横に長く引いた物であり、前方にそれが見えたので速度を落として、姿勢を低く保ちながら前進する。


 砂はまだ続いているので、それを周囲に細心の注意を払いつつ辿って行くと、1分もしない内に前方の壁際で様子を伺っているグレッグの姿が見えた。


 壁の先――おそらく広間になっているだろう所からは灯りが漏れており、ゴブリン達が騒ぐ声が聞こえてくる。


 微かな灯りのおかげで彼の姿を認識することが出来た。


 彼は顔をこちらに向けては居ないが、気づいているようで、静かにこちらに来るように手で呼んでいる。

近づいて僕もその隣に身を潜め、彼の差し出された左手に僕の掌を当てる。

すると彼が僕の掌を指を叩いて、現在の情報を共有してくれる。


『ごぶりん かず じゅうさん うち いち おーが そうび ひんじゃく』


 彼の手のひらを握ると、彼は掌を上になるようにする。そこに僕も指で叩いて返していく。


『ぜんいん そろったら ひかりいし を とうてき とつにゅう ぼく が おーが を ひきつける その あいだ に みんな は ごぶりん を かたづけて』


『だめ ふたり で おーが』


『ゆに の えいしょうちゅう の ごえい ぐれっぐ と かいん』


 彼は一瞬こちらを向いて困った様な顔をしたが、僕の信じてという口パクに渋々といった感じで納得してくれた。


 その後は顔を通路の方に戻して監視を続けていると、来た道の方から完全武装の皆がやってきた。


 全員に状況と作戦の伝達を終えると僕がオーガを引きつけるという提案に皆が反対したが、頑として引かない僕を見て皆はすぐに諦めた。


 野営の装備は通路にあった溝に隠してきていたらしく、既に戦闘準備も万全だった。


 僕は光が漏れている通路の縁までやってくると、光石と呼ばれる道具を腰に下げたポーチから取り出す。


 既に拾ってあった石ころを握りしめて、後ろを振り返ると全員うなずくのが見えたので光石を包んでいた布を解くと、そこだけ空間を塗りつぶしたかの様に漆黒の石が顔を出す。


 準備は完了したので、縁からまず石ころ中に向けて投げ入れた。

すると談笑をしていたであろうゴブリンたちが突然の物音に反応し、騒々しくなる。これで全員が音のした方を見たことだろう。


 そこにすかさず光石を投げ込む。

地面に接触した光石はガラスが砕けた様な音を響かせ、直後にその内に蓄えられていた光が洞窟内に閃光をほとばしらせる。


 この光石は錬金術で作られた道具で、その名前とは裏腹に真っ黒い石で非常に脆く、砕けると内側に蓄光していた光を放つという性質を持っているため、主に奇襲などに使われる物だ。


 消耗品としては割と高価な道具ではあるが、オーガが居るとなれば出し惜しみするわけにはいかない。


 中からゴブリン達の悲鳴が合唱となり響いてきたので、僕は覚悟を決め、通路から飛び出した。

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