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天災 愛別離苦  作者: 蒼蕣
18/24

大勢

「ごちそうさまでした」

「はいはい」

「あ、これ片付けますね」

湊が食べ終えた自分の皿を持って立ち上がろうとした。

「いいわよ。主婦わね、いつも家でやってることやってないとなんか生きた心地がしないのよ」

それを淳の母親が制止した。

「そ、そうですか。じゃあごちそうさまでした」

「はいはい」

「おい、上でなトランプやってるんだ。一緒に入らねえか」

「上って?」

「三階の教室だ。たくさんのやつが集まってるぜ」

二人は顔を見合わせた。特にこれから何をするわけでもないので、了承した。

「そうか。んじゃあ…」


「結局一日中遊んで過ごしちまったな」

「でも楽しかったじゃん。こんなに遊べることなんて当分なさそうだしいいじゃん」

すでに夕暮れ時。あれからずっと遊んで1日を過ごしてしまった。高校生に入り勉強が忙しくなり、ここまで長く遊んだのは久方ぶりだったので、つい長居してしまったらしい。

久しぶりに遊び疲れたのだ。てっきりパソコンとかテレビゲームとかにじゃないと長く続かないと思っていたが、案外アナログなゲームでも大人数ならば存分に楽しめた。

「さてと今日のニュースは…」

湊はスマホで今日一日の世の中の動きを見た。

ニュースの見出しには「政府が緊急事態宣言を発令」と書かれていた。

「どうやら政府が発表した避難勧告をした地域の中にここは含まれてないな」

「んじゃあ、もう少しここで遊んでいられるね」

「お前、不便に感じないのか」

「そりゃあ感じるけどさ。でもみんなと一緒だとなんか楽しいじゃん」

「まったく今この時死にそうな人がいるかもしれないんだぞ。あんまり楽しそうにするな」

「はーい」

しかし斯くいう湊もこの時ばかりはまだ自分が本当の被災者であることを実感してはいなかった。


「ん…」

深夜、突然の揺れに気づき、二人は目を覚ました。

「地震か!」

「湊!」

一度寝たらなかなか起きない芽衣もすかさず飛び起きた。

「と、とにかく窓から離れよう」

二人はかけていたタオルを持って部屋の中央に移動した。

徐々に横の揺れが大きくなるのを感じた。

学校中に叫び声が響いた。

一人が叫べばそれにつられて他の人も叫ぶ。

やがて人の叫び声と物が崩れたり落ちて割れたりする音が混ざり合い噪音を引き起こした。

湊たちがいる教室でも真っ暗の教室の中で部屋の隅に重ねられた椅子が左右の動く音が聞こえたり、楽譜を置く譜面台が次々と倒れて行くのを聞き取っていた。

流石に部屋の隅に置いてある巨大なグランドピアノが動くことはなかったが、それでも月明かり以外まったく光のない空間であるがゆえに、二人は十分すぎるほど恐怖を味わった。

「湊…」

「大丈夫だ」

二人は互いを抱きしめ合いながら、その場にうずくまった。

数分のことだったのか、はたまた数時間のことだったのかさえ分からなかったが、気づいたら揺れは収まっていた。

「収まった…芽衣大丈夫か」

「う、うん」

抱きしめていた芽衣の体はまだ震えていた。

湊は芽衣を抱きかかえたまま、床に散乱していたろうそくに火を灯した。

「結構色々と散乱してるな」

「うん」

「でも窓ガラスは割れてなさそうだし、取り合えず落ちているものを一通り片付けたら、もう少しだけここでじっとしてよう。まだ余震が来るかもしれない」

二人は急いで床に散乱しているものを適当に片付けると、再度部屋の中央に座り込んだ。

まだ朝の三時過ぎだというのにすでに眠気は吹っ飛んでいた。

「地震が徐々に大きくなってる気がするな」

「うん」

「明日避難したほうがいいかもな」

「うん」

「きっと水がまたせり上がったと思うから。まだこんな夜だから何も見えないけど」

「うん」

「大丈夫か、芽衣」

「うん」

湊は強く芽衣を抱き寄せた。

「少し休め」

「うん」

そう言って芽衣は湊の胸に顔を埋めた。

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