避難場所
「よし、避難しよう」
「でもどこに?」
「とりあえず近くの高台とか水の来ない場所を探そう」
湊と芽衣は荷物を急いでまとめてマンションから離れた。
「ここの近くの避難場所といったら…」
「近くに公民館とかってあったっけ」
「食料が持って一日二日しか持たないからな。こんなんだったらもっと備蓄しておくんだった」
露頭に迷う二人に一本の電話がかかった。
—おう、湊かー
「淳か」
—大丈夫だったか。地震?ー
「ああ、なんとかな。ただああいう地震が立て続けにくるらしいからとりあえず、外に避難したんだけどさ。行くところなくて…」
—だったらちょうどいい。学校に来いよー
「学校に、なんで?」
湊は隣の芽衣を見た。
芽衣は湊の言葉から察したのか、ガッツポーズを見せた。
—校長先生が避難場所にと近隣住民に呼びかけてんだってさ。あそこ結構高い場所にあるしさ。当分の間は大丈夫だろうって。ただ、食料とか寝袋とかは持参だから来るんであれば持って来いだってさ。家に連絡行かなかったか?ー
「まあ、急に避難することになってバタバタしてたからな。 電話鳴ってたの気づいてたか?」
「ううん」
芽衣は首を横に振った。
—ん? お前、今誰かと一緒か?ー
「あ、ああ。芽衣と」
—なんだ、お前ら一緒だったのか。まあいいや。じゃあそういうことだからー
「あ、待て。そこって家族も来れるよな」
—ああ、当たり前だろー
「そうか。お前も行くのか?」
—そうだな。俺の家も地震でめちゃくちゃになったしな。避難した方が良さそうだー
「そうか。じゃあまた後で」
湊は電話切るととりあえず、互いの両親に電話をかけて見ることにした。
「もしもし、母さん」
—あ、湊大丈夫? そっちで地震が頻繁に起こってるって聞いたけどー
「ああ、だから俺学校に避難することにしたから」
—そう。誰かお友達と一緒?ー
「あ、ああ。まあ」
湊は芽衣の方を見た。
—そう、まあ気をつけてねー
「そっちは大丈夫?」
—ええ、こっちでは地震は一度も起こってないからー
「そうか。でも海面が上昇してるって」
—ううん。どうやら上昇してるのは東海道と関東周辺だけですって。だからまだこっちは大丈夫。でも飛行機も新幹線もそっちに行く便は全て運休になっちゃっててしばらく帰れそうにないのー
「大丈夫だよ。きっとすぐに収まるから。じゃあまた」
耳から離したスマホの画面を見て、ふとため息をついた。
「ふう…まさか彼女と一緒にいるなんて言えねえよな」
「どうだった? そっちは」
芽衣が湊の顔を覗き込んだ。
「ああ、大丈夫だって。そっちは?」
「こっちは地震が起こって家の中がめちゃくちゃになっちゃったって」
「じゃあ学校に避難してくるのか?」
「ううん。もっと近くに別の避難場所があるらしいからそっちに行くって」
「じゃあ、お前も行け」
「なんで?」
「なんでって。もうこんな状況で俺といる意味ないだろ」
「だってここからだったら学校に避難した方が近いもん」
「親はなんて?」
「いつまた地震が起こるかもわからないから、そっちも近くの避難場所に行きなさいだってさ」
「俺と一緒だってことは知らないんだろ」
「うん」
芽衣はニコッと笑った。
「はあ、なんか全てが終わったら説教されそうだな」
「大丈夫だって。ばれなきゃいいんだから」
そう言いながら二人は火山灰の降る中、学校へ向かった。