《95..初陣》
清々しい朝。
鼻を擽る良い匂いで目覚める。
俺は顔を洗い着替えると、大広間へと降りていく。
「あっ、我が主、おはようございます。お食事の用意が出来ておりますので、お席にどうぞ。」
執事のハムチが丁寧に対応してくれる。
昨晩はオマツさんと調理にかかりきりだったというのに……何だか申し訳ない。
「おはよ、ハリー。」
「おはようございます、ハリー様♪」
「兄貴、おはようございます!」
「ハリーさん、おはようございます!」
もう全員、食卓についていた。どうやら俺が一番最後らしい。
いや、もう1人……。
「……えっと……その……おはようございます……。」
最後に、恥ずかしそうに2階から降りてくる少女。
連携を高める為に、今日から同居する事になった、ラピである。
まだ学生で魔導学園に席を置く彼女だが、すでに免許皆伝的な立場にあり通学しても学ぶ事が少ない。
ならば、実践経験を積み、尚且つ『勇者』同士としての連携を伸ばす方が彼女の能力を伸ばせるだろう……と、チラ学園長自らの権限で休学扱いとなり、此方で預かる形となったのだ。
「あ、あのっ、今日から御世話になります、よ、宜しくお願いします…っ!!」
元気よく挨拶を済ませ、ペコリと頭を下げるラピ。
……うん、初々しくて……実に尊い……。
「ほな、みんなそろったみたいやし、頂こか♪」
「「「いただきます!!!」」」
▽
▽
そして、今日から再びギルド依頼の受注を再開。
ここ数日、拠点探し等でのんびりしていたのだから、本職の仕事を再開しなければ感覚が狂ってしまう。
ギルドに到着すると、『夕凪戯団』は一際目立っていた3つの討伐依頼を受注。
討伐対象は『モリノオーク×15体』『アースイーター×20体』『メチャイタイガー×5体』の討伐だ。どれも商業ギルドの流通順路を脅かすBクラス相当の魔獣だ。
因みに、ヨウはヒュドラ戦で砕けた盾を新調する為に別行動となる。一人は心配だからと、モスケがヨウと行動する事になった。うまくやれよ、モスケ?
▽
▽
早速、俺達は魔獣討伐に向かう。
どれも都合良く同じ森林地帯で討伐が可能だ。まぁ、それが理由で同時受注したのだが、今の俺達の実力ならば問題無い。
王都から魔獣の森林地帯へは片道1日半なので、移動で3日かかる。
今回からは新しくラピが任務に加わった事もあり、特に急ぐ訳では無いので、のんびりと旅路を楽しみながら進む事にした。
日柄も良く、ポカポカした陽射しが実に心地好い。
「はぁ……私、ちゃんと力になれますですかね……。」
ラピが言葉を洩らす。彼女はまだ正式に言えばまだ『冒険者』では無い。
故に必然的に『彼女の護衛』も同時に行わなければならない。
とはいえ、彼女は『朱の勇者』である。しかしそれは俺達にとっては言葉で伝えられているのみなので、本当の戦力をまだ知らない。
オカメを治してくれた奇跡の時空魔法には驚かされたけれど……。
「大丈夫やよ、アタシ達がフォローするし、何も問題あらへんよ♪」
「そうですわ!わたくし達のパーティとしての初陣ですし、実力を存分に発揮しましょうね♪」
「は、はい、ありがとうございます!私、一生懸命頑張りますねっ♪」
今回の任務にあたるパーティは四人。
偶然ではあるけれど、勇者3人にSランク冒険者という最高の組み合わせのパーティで挑むのだ。腕が鳴るぜ!




