《91..ギルド最強??》
何でこんな事になったのか理解に苦しむ……。
俺はただお使いで買い物をしに来ただけだったはずなのだが。
「……おっし、じゃあひとつ、タイマンで夜露死苦!!」
ギルドの裏庭にある訓練所に連れられ、軽く準備運動を行うと、羽織った特攻服を脱いでサラシ姿になると、ズビシッ!!……と、白いヤンキーが俺に向けて親指を立ててきた。
正直ダルい。
「なぁおぃ、あれって、あの『疾風の牙』シロマルさんだろ?」
「いくら今一番の成長株の『勇者』ハリーとはいえ相手になるのか?」
「お前、どっちに賭ける!?」
再び野次馬冒険者達がギャラリーとしてざわついている。
ちくしょう、何にもメリットがない戦いをさせられるこっちの身にもなってみろっつーの!!
「では、俺が立ち会い人としてこの試合を進行させて頂く!互いに構え……始め!!」
――――ドンッ!!!!
立ち会い人、チィの合図で俺と白ヤンキーが蹴り足を踏み抜き、物凄い勢いで拳と拳が衝突する。瞬間、衝突の衝撃波が訓練所に走り、砂埃が舞い上がる。
「「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」」
ドシュウゥゥゥゥッッ!!!!
互いに精神力を練り上げ、闘気として放出する。身体中から勢いよく吹き出し放たれる闘気は包み込むように全身に纏われ、攻撃力、守備力を最大まで高めていく。
ドンッ!! ドガガッ!!!
ガガガガッ!!! ズドンッ!!!!
俺と白ヤンキーは一進一退の攻防を繰り広げる。
お互いにクリーンヒットは無く、ほぼ互角の戦いだった。
因みに武器の使用は認められていない為、お互いに拳のみで試合が行われている。
(……ほう?ハリー君、かなり腕をあげているようだね☆攻撃に全く迷いが無くなって、身体のキレが格段に上がっている。……だがしかし、シロマルは相手が強ければ強い程、その強さを発揮する。果たしてハリー君は、アイツに対してどこまでやれるかな……?)
一見すると互角の打ち合いに見えるだろう。
だが、その実、状況は全く違っていた。これは実際に拳を交わしてみないとわからない一撃の重さの差があった。
それはつまり、この高速での攻め合いの中にあって、シロマルの放つ拳は衝突する拳の打撃点を微妙にずらして此方の力を殺しているのだ。
「……強いっっ!!!」
じりじりと劣性を強いられる。攻撃をガードする腕がだんだん痺れてきた。
……いやほんともぅ、帰りたい。
「オメェの強さも半端じゃねーぜ?実際やりあってわかった、俺の目に狂いは無かったようだ。」
シロマルはスッと拳を引く。
お?やっと終わりかな?……と思ったのも束の間。
「………テメェ……まだ力を隠してやがんな……?……俺を舐めてやがるのかコラ……あぁん!!?」
急にぶちギレて怒りにうち震える表情を見せるシロマル。
……あぁん、もぅ嫌だ……何なのこの人……。
【多分、俺を望んでるんだろ。どうする?代わろうか。そうすりゃ納得すんだろ】
ハリーの言葉も一理ある。
だが、それって、明らかにハルノって見下されてるって事だよね?舐めてるのって、むしろ、お前の方じゃねーの!? っざけんな、白ヤンキーめ!!
このままおめおめと引き下がると思ってンのか!?
「ハリー、やっておしまい!!」
【……お前ね……。】
俺の黒髪黒目が白髪金眼に変わる。ハリーモード発動!!(キリリッ!!)
俺の身体から溢れ出る闘気の密度、質量が数段跳ね上がる。
そろそろカ○ハメ波あたり、撃てるんじゃないかコレ?
「おぉ、ハリー殿が『勇者モード』になったぞ!いよいよ全力を出す様だ!これはいよいよ分からなくなってきたぞ!」
チィの話が段々実況くさくなってきた。貴方、そんなキャラだったっけ?
「ははっ、いいじゃねーか!気に入ったぜハリー!そうだ、これだよ、このヒリヒリした空気が堪んねーのよ!なぁ、テメェもそうだろ!?ハリー!!!」
……滅相もない。ただただ帰りたいですよ俺。
「さぁぁぁ、こっからだぜぇぇぇ……行くぜコラ!!!……怒髪天………へぶし!!!!」
ズドンッ!!!…… ズシャァァァァ
ドゴォォォォォォォン――――!!!!!
攻撃を仕掛けようとしたシロマルだったが、突然強烈な衝撃がシロマルの顔面を捉え、その衝撃に堪えられずに吹き飛んで訓練所の壁を次々とぶち破っていく。
「………ア………ヤバイ。」
ギルドマスター、コテツが滝のような脂汗を流し、片言言葉を発した途端に機能停止した。
いや、彼だけでは無い。チィを始め、その場にいる全員の動きが一瞬で凍り付く。あの、狂気じみた笑顔と眼力を誇る『氷の女帝』アサリでさえも例外では無かった。
「………えっ………何………?」
ハリーはゆっくりと後ろを振り向く。
「―――――はわぁっ!!!!?」
あの男一貫のハリーでさえも不格好に腰を抜かして驚愕の表情で固まった。
「………貴方達………いったい………何をやってるの………?」
右拳から衝撃で焦げた陽炎を揺らめかせた…………オチヨの姿がそこにあった。