《88..盗賊一味vs紫電来豪②》
「貴様……卑怯だぞ……!!」
チィが吠える。
「卑怯……ねぇ。はっはぁ、そんなのぁ最っっ高の誉め言葉だぜぇ?俺達は盗賊団だぁ!!どんな手でも使って略奪すんのが俺達の仕事だからなぁ!!」
けして油断していたわけではなかった。なぜならば、行商人は今、ここまで俺達に同行していないからだ。
だが、強いてあげるならば、あの時に気付くべきだったのだ。
盗賊団がむざむざと行商人を村へ逃がすはずもなかった事を……。
自分達の情報を漏らさない様にするには、命を奪ってしまえば良いはずだったからだ。
なんたる不覚……!!!
「ならば……まさかあの村に流れてきたあの者は……」
「……そうだ。変装した俺達の頭目だぁ……!!はっはぁ!!今頃、頭目の手で村を蹂躙してるだろぅなぁ!? そして俺達はここで名のあるお前達を抹殺して盗賊団の名を上げるっつー寸法よ!!」
「リーダー!!今行く……!!」
「……おっと、動くんじゃねぇ。動くとあの商人の命は無ぇぞ?」
異変に気付いたタツヤがチィを救おうと動きかけるが、盗賊が脅迫する様に縛られた行商人の胸に刃物が当てられる。
「……くっ……!!!」
「名のある『紫電来豪』を討ち取ったとあれば、あのお方もさぞや喜ばれるだろうなぁ……はっはぁ!! その首、貰ったぁぁぁ!!!!」
(……くっ……無念……!!!)
盗賊の刃がチィの首に向けて振り下ろされた。
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―――その頃、オラガ村では、行商人に変装していた盗賊の頭目の脅威が村人達を襲っていた。
「うぅ……まさか馴染みの行商人に成り済まして盗賊が襲ってくるとは……!!……カハッ……!!」
「村長……!!」
村長の脇腹には刃物が突き刺さっていた。
「大人しく財を全て明け渡せ。女子供も全部だ。闇で売り渡せばそれなりに金になるだろうからな。
……チッ……あの時のガキの目がちらつきやがる……
……おらあ、早くしろ!!!死にてぇのかぁ!!!」
「「ひ、ひぃぃ……!!!」」
怯える村人達。だが頼れる冒険者はここにはいない。
(……ま、どのみち貴様らは皆殺しだけどなぁ……!!)
何らかの爆発で負った古い傷痕が刻まれた盗賊の頭目の顔には、闇に染まった悪どい笑みがニヤリと浮かんでいた。
「……んん?」
ふと、盗賊の頭目の目に一人の女の姿が映し出される。
「誰だ?テメェ……」
褐色の肌に赤茶色の波打つ髪をうなじで括り、紫色の露出が多めの盗賊衣装に身を包む。腰帯には金の装飾が散りばめられた短刀が備わっている。すらりとした体型ではあるが、最低限に絞られた締まった体つきをしている女。
何より、猛獣の様な強烈な殺意を込めた赤い目が自分に向けて突き刺さしてくる。盗賊衣装を纏ってはいるが、自分の仲間にこんな奴はいなかったはずだ。
「おぃ貴様、止まれ。……貴様、どこの盗賊団の者だ?俺達を誰だと思っている。最高峰と吟われる盗賊団の1つ、『疾風の風』を知らねぇのか?」
女はピタリと歩みを止める。
「……そうだ。そのまま足を止めておけ。……死にたくなければな!」
盗賊の頭目はこの時、気づいていなかった。
女の口が、グニャリと歪んで狂気の笑みに変わっていた事を―――。
▽
▽
「リーダー!!!!」
ザシュッ……。
チィの首に向けて振り下ろされた刃。
真っ赤な血飛沫が飛び散る。
「―――――ぎゃああぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!」
宙を舞う盗賊の腕。
チィの後ろに立つ男の影。
手にする刃は黒光りする刃に波打つ木目柄の日本刀、『名刀ダマスカス』。
滴る鮮血が刃先よりポタリポタリと滴れ落ちる。
真白きトサカのリーゼントは正義の漢のシンボルマーク。
サラシ姿に羽織る衣は特攻服。背中に背負うは「絶対正義」。
睨みを効かせた鬼神の如き「ガン飛ばし」が盗賊達に重圧をかける。
男は日本刀を地面に突き刺し、ゆっくりと口を開く。
「………俺の名を語る悪党どもは………テメェらか……?」
胸ポケットから取り出したクシでリーゼントを整える熱血漢。
その漢こそが二つ名『疾風の牙』を持つ伝説の漢……シロマル、その人であった。