《87..盗賊一味vs紫電来豪①》
チィ達は盗賊が現れたという渓谷に辿り着く。
「行商人の話によると、この辺で襲撃にあったらしいが……」
「……リーダー、ここを見ろ。足跡がまだ新しい。それに……」
「かなりの人数だな。気を付けろ。もう奴等の領域に足を踏み入れているのだからな。」
足元には無数の足跡が残されている。だが、チィの頭に1つの疑問が残る。
『疾風の牙』の一味ともあろうものが、こんな足取りを掴ませるような落ち度を見落とすのか?……と。
――――ヒュヒュヒュッ!!!!
その時、崖の上から無数の矢が降り注いできた。
「やはり現れたか!!―――散開!!」
「「「了解!!!!」」」
チィ達、四人は合図と共に四方に散開し、的を分散させる。
「疾風の牙……シロマル殿!!何故ゆえに悪事に手を染められたのか……貴殿の真意を暴かせて貰うぞ!! 肆ノ型:新月!!」
―――パァァァァン―――!!!!
チィが軽く刀で円を描く様にグルンと回転させると、目の前に迫る矢が全て消失した。正確には細切れにされたのだが。
と、次の瞬間、一人の影がチィに向かって上空から斬りかかってくる。
「……むっ!!」
ガキィィィィン!!!
チィは刀を上段に構え、斬りかかってくる刃を受け止める。
踏ん張る衝撃で足元の土が抉れる。
「……チッ……流石はAランク冒険者……か!!」
影は刃を弾き、その反動で後方に飛び、距離を取る。
そして、そのまま足を踏み込み、再びチィに斬りかかり、刀と刃の衝突で火花が散る。
「くっ……貴殿は……!!」
▽
▽
一方、ピピマルは矢を連射し、崖の切り立ちに矢を穿つ。
「よっしゃあぁぁぁぁ!!これで足場は出来たぜぇぇぇ!!!」
ピピマルは自ら射ちまくった矢を足場に、ぐんぐんと崖を駆け登る。
「だっはぁ!!俺の真価はこっから発揮されんだぜぇぇ!!!喰らいな!!!」
崖の天辺に到達したピピマルは視界に入る盗賊達を1つ上から穿っていく。狙った獲物は逃さない……放たれる矢は1本も討ち漏らしは皆無であった。
相当な射撃能力が備わっているのが伺える。
「っっしゃぁあぁぁぁぁ!!!」
正直うるさいのが玉に瑕……か。
▽
▽
「………地這雷土………」
バリバリバリィ……ッッ……!!!
タツヤを中心に蜘蛛の巣状に地面に紫色の稲妻が広がる。
「……な、何だ!!?か、身体が動かな………ぐはっ!!」
稲妻に触れた盗賊達は痺れて身体が動かなくなり、一瞬で距離を詰められたタツヤの手刀で意識を刈り取られる。
だが、何かがおかしい。
これが……この程度の手練れが、『疾風の牙』の一味の実力なのか?
「なぁなぁ、タツヤはん。何か、おかしないか?あまりにも手応えが無さすぎではありまへんか?確か『疾風の牙』はマスターと実力は拮抗してはったらしいやんなぁ?その仲間達が……この程度のはずが無いんと違いますか……?」
コハルが鉄扇で巻き起こした竜巻で盗賊数人を吹き飛ばしながらタツヤに声をかける。彼女は風を自由に操る事が出来る巫女であった。
▽
▽
ギィィィン!!
ガキィィィィン!! キィィン!!!
チィが一太刀、二太刀と斬り結ぶ。
「くっ……やはりAランクともなれば簡単にはいかんか……!!」
「貴殿はシロマル殿では無い!!彼は何処にいる!?」
チィに斬りかかってきた男の顔を見たチィだったが、この男は腕はたつが『疾風の牙』シロマルではない事に気付く。
「ふっ、確かに俺は頭目では無い…………が、あれを見ろ。」
男は刃で反対側の崖の上を指す。
「………なっ……!? 貴様……!!卑怯だぞ!!」
そこには村に助けを求めてきた行商人がロープで吊るされ、刃物が突き付けられていた。