《07..魔導剣士の少女》
暖かい風が髪を撫でる。
柔らかいふわふわした何かが私の頬に当たっている。
そっと触れてみると…フニッとした触感が……。
まさかこれは……!? 気付くと女の子が膝枕をしてくれているという…アレか……??
《お?気が付いたか?》
――――――いや、お前かいぃぃぃ!!!
強めにツッコミを入れたところで、身体を起こす。
あれ?タオルケット?
「……あら、気が付いたん?」
声のした方を振り返る。
そこには、一人の少女が笑顔で此方を見ていた。
長く風に揺れる黒髪。燃えるような赤い瞳。透き通る様な白い肌に、それを包み込む黒いドレス風のヒラヒラした服が凄く映える。所々に真っ赤な薔薇の飾りが施されていて、白、黒、赤のコントラストが美しい。そうだ、あれだ。ゴスロリ。あれに凄く似ている。
何より、女性(中身だが)の私でも思わず息を飲む程の、西洋人形の様な顔立ち。年は今の私と同じくらいだろうか?その綺麗な顔にはまだ少し幼い面影が残る。
そして、私と同じく、耳は大きくて、長くフワフワな尻尾がお尻に揺れていた。私と同じ種族の様だ。
「君が…助けてくれたの?」
「……んん、そうやで。毒がだいぶイッてもうてて危なかったでなー。アタシがここまで運んで、治療もしてあげたん。運が良かったな、あのままやったらアンタ死んでたで。」
ハッと我に返り、脇腹を見ると傷口は何事も無かった様に塞がっていた。
「これを君が…」
「そそ。毒消し魔法と回復魔法を複合でかけて……な。良かったな、アンタを見付けたのが治癒系魔法まで使える加護『魔導剣士』を持ったアタシで。」
「えっと……加護??ジョブじゃなくて??」
「……あんた……毒で記憶までイカれてもたん??そんなん当たり前やんかww」
鼻で笑われた。
……いいえ、私の尻で記憶をイカれたのはそこにいるコアラです。
うーん、多分、私の知るジョブ(役職?)と加護って微妙に認識が違うみたいだな…後で詳しく聞いてみよう。
「……まぁえぇわ。とにかくアタシはあの洞窟に用があってきたんやけど…出直す必要がありそうやね。傷は塞がって毒も解毒したけど、ちゃんと医師に見てもらった方が良ぇ思うわ。まぁ乗り掛かった船やし、街まで案内したる。…立てる?」
「ありがとう…。初対面の見知らぬ輩なのに親切にしてくれて…。」
「気にせんでえぇよ。まぁ見る限りじゃアンタ、悪い奴じゃなさそぅやしな。
で……何や、追い剥ぎにでもあったんかぃな??証拠隠滅しようと毒付きナイフかなんかでやられてんやろ。んで、命からがらあの洞窟に逃げ込んだ……てな寸法やろ。な??な??せやろ?? …ふひひっ、完璧な推理!!ま、その追い剥ぎ、このアタシが見付けてコテンパンにのしたるわ。にししししっ」
この人、頭ぶっ飛んでそうやけど、面倒見が良いお姉さんみたいだな。ちょっとツンが入ってるけど、見ず知らずの初対面の私を助けてくれたばかりか、街まで連れていってくれるなんて…。
「あっ…そういえば名乗るの忘れてた。私…いや、俺の名前はハリー。危ないところを助けてくれてありがとう。良かったら名前を聞いても……?」
「……んへ……!?」
「ん……?」
少女はキョトンとした顔でこちらを見ている。何か変な事、言ったかな…?
「ア…アタシの事…知らへん?」
「……ごめん。」
「……んー、えぇよ、えぇよ。そっか……これでも少しは名の知れた冒険者やと思っててんけど、まだまだやった、っちゅーわけやな……。ん!!しゃーない、アタシもまだまだ頑張らなあかんちゅーこっちゃ!!」
少女は手を私に差し出して名乗る。
「アタシは冒険者のパイドナ・オカメーヌ。『オカメ』って呼んでくれたらえぇわ。宜しく!!」
「こちらこそ、宜しく!!」
私は申し訳ない気持ちで、その手をガッチリと握り返す。
「ところでハリー。」
「……ん?」
「早速お願いがあるんやけどな…。」
「なになに?君は命の恩人だし、出来る事なら何でもするよ!!」
「…………はい。」
「……ん??」
オカメは1枚のタオルケットを私に差し出す。
「……まずは、その粗末なモノを隠してくれへん…?」
――――――私は素っ裸だった事を、すっかり忘れていた。