《76..勇者、王城へ向かう》
「……国王への謁見……?」
「と、いうのもね、ハリー君は勇者の力に目覚めたわけじゃない?
即ち、正式に『勇者』を名乗るには陛下の正式な任命が必要なんだよ☆
だってさ、そうじゃないと、ちょっと力を付けた自称勇者が蔓延しちゃうじゃないかぃ?」
まぁ……確かに。
『勇者武器』の現物を見た事ある者の方が少ないだろうし、『勇者武器』だと偽りさえすれば、世界中のAランク、特にSランクの冒険者達の実力さえあれば『勇者』を自称で名乗っていてもおかしくない。
実際、『勇者』の力に目覚めたからといっても俺は『Bランク冒険者』だし、今の俺より強い者の方が多いかもしれない。
というか、最初の勇者モッチャンに至っては『冒険者』でさえないのだし。
「確かにマスターのおっしゃる通りですね。わかりました。」
===フム……我ガ盟友『ウォレット』ノ子孫カ。懐カシイナ……我モ楽シミデアル。アイツハ中々男気ノアル漢デアッタカラナ……。善キ王トシテ善政ヲ敷イテイルヨウデ何ヨリダ===
『聖剣エルハザード』の『ペイデ』が語る。
……あれ?今さらだけど、俺、ペイデ様と呼んだ方が良いのか?? 何か、このセンターギルドの創始者らしいけど……。ま、いっか、今さらだし。
「後程、聖騎士団が迎えに来るだろうから、ハリー君と、同行でモッチャン君の二人で謁見に向かってくれ☆」
「ハリー様と二人きり……はぁぁん♪」
モッチャンが真っ赤な顔を両手で隠し、くねくねし始めた。
トイレは早めに行っといてね?我慢は良くないよ?
「……うー……。」
その隣でオカメがジト目で口を尖らせながら此方を見ている。
「……前途多難ですねぇ……。」
と、ヨウが何故かニコニコしながらオカメの脇腹をつついていた。
………ガラガラガラ……
ギルドの表から客車の音が聞こえ、入り口の前に止まった。
「失礼!勇者ハリー殿、並びに勇者モッチャン殿を御迎えに上がりました!」
全身を鎧に包んだ、見慣れた女性騎士を初め、数人の騎士が膝をつき、口上を述べる。
「……あっ、サクラさんだ!」
オカメが無邪気に駆け寄る。
「団長から話は聞いている。なかなか大変だったそうだな。だが君達はこうして帰ってきてくれた。これも実力のうちだ、頑張ったな、流石は私の弟子達だ!」
サクラはオカメの頭を優しく撫でる。
端から見ると、まるで姉妹のようだ。
「どうも、御迎えありがとうございます、サクラさん。」
「あぁ、これも私の勤めだからな。早速で申し訳ないが、陛下がお待ちになっている。急ぎ同行頂きたい。」
「わかりました!」
俺とモッチャン、そしてコアラは客車に乗り込むと、客車を引く魔獣を操る御者が魔獣にピシャリと鞭を打つ。
「飛ばして行きますんで、しっかり捕まってて下さいよ!?」
「……え?……っわっ!!!!」
ガクンッと客車が加速する。
ドガラガラガラガラガラガラガラガラ!!!!
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ――――!!!!」
客車は物凄いスピードで爆走していく。
パレードの時、同じ客車見たけど、こんな早かったっけ!!?
ギルドの前でコテツが腕を組み、1つため息をつく。
「……相変わらずだなぁ、あの方は……。」
コテツはみるみる小さくなっていく客車を見て、ポツリと呟くのであった。