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《73..チコとラピ》

「女の子……?」


チコは幼子を抱き上げると、キャッキャッと笑った。思わず顔が緩む。


思えば、いつ以来であろうか……。

天涯孤独の身となり、その日を生き抜く為に日銭を稼ぎ食い繋ぐのみの毎日。

いつしかその顔からは表情が消えていた。


その失われた表情が和らいだ。

ただただ、その女の子の笑う顔が眩しくもあり、暖かかった。久方ぶりに心が暖かくなる思いだった。


しかし、この女の子は、何処から拐われてきたのだろう……?


チコは辺りを見回すが、手懸かりになる様な物は見当たらない。

ただ無造作に積まれた盗品と思われる金銀財宝のみだった。


「……むっ!?」


何やら遠くから足音がこちらに向かって集まってきている事に気付く。


(マズイ……あれは憲兵団だ……!!成り行きとはいえ、この状況を見たら、俺も盗賊団の一味と思われてしまうかもしれない……!!とりあえず逃げなければ……)


チコは身寄りの無い天涯孤独の身。例え弁明し、誤解が解けたところで保護され、施設に容れられてしまうだろう……。俺は自由でありたい。今更、施設で不自由になどなりたくはない……。


(なぁ、君もどこからか拐われてきた身なのだろう?君には親も家族もあるんだろう?このまま保護されて施設に容れられてしまうくらいなら、俺が君の帰る家を探して送り返してやるよ。)


盗賊団に拐われてきて、身売りされようとしていた子なのだ。

出生を突き止められない手筈はなされているはず……ならば、保護され、施設に移されてしまうのは容易に想像出来た。


チコは女の子をその小さな腕におくるみごと抱き上げ、盗賊団のアジトから逃げ出す事に成功し、そのまま商業都市『モカリマッカ』を後にしたのだった。


その時、ふと幼子のおくるみに文字が記されている事に気付く。汚れて、ボロボロになっていた為、殆ど読み取れなかったが、


『…………ナ・ラピ…コ』


とだけ、読み解けた。『ラピコ』の部分も汚れており、『ラピ、コ』と解釈してしまうチコ。


「君は、ラピ・コと言うのか。ならば俺は君の兄として君を護り、いつか必ず家を探しだして家に返してやる!」


その想いを胸に、旅立つのであった。





それから約2年の月日が流れる。


ラピの家の手懸かりを求め、何とか日銭で食い繋ぎながら街を転々としていた。ラピも4歳となり、この頃になると活発に走り回るようになった。


しかしながらまだ子供であるチコには二人が生きていくには並々ならぬ努力が必要であり、決して満足な生活を送れているわけではない。


時には2~3日、食べ物を口にしない日もあった。


ろくに寝床にありつけず、橋の下で枯れ草に身を包み寝た事もあった。


勿論、チコはラピの食事、衣服、寝床を優先させた。例え自分が満足に食べられなくても、その身を犠牲にしてラピの健康状態を護り続けた。

この子は自分の大切な身内だ。自分に何かあっても、この子だけは護り抜く……その固い意思を糧に日々を乗り越え、生きてきた。


そんな義兄妹の二人は、いつしか『王都モフチラータ』へと流れ着いていた。


だが、この頃になると、流石のチコも疲労と空腹で意識が朦朧とし始めていた。


「……む……雨……か。」


チコはラピを背負い、店の軒先で雨をしのぐ。

そして、自分の上着をラピに着せる。濡れて体温が低下していくのを防ぐ為だ。


「チコぉ……お腹空いたね……。」


「……あぁ、そうだな……。すまんな、ひもじい思いをさせて……。」


「……うぅん、大丈夫。あたち、チコがいてくれたら頑張れるよっ♪」


少し頬が痩けた幼い顔で精一杯、笑顔を作るラピ。


「……くぅぅっ……ラピ……!」


チコはグッと涙を堪える。




―――その時、雨をしのいでいた軒先の店の扉がスッと開く。


そして、扉の向こうから、大人の女性の声が漏れる。


「………あらぁ~、誰かいるのぉ~?

……あらあら、大変~、こんな小さい子が、二人でどうしたのぉ~?

お父さん、お母さんわぁ~?お家には帰らないのぉ~?」


「いえ……俺達、2人だけです。すみません、雨がやむまで軒先を御借りしても宜しいでしょうか?」


チコは丁寧に応え、無断で軒先を使った事を詫びた。


「あらあら~、礼儀正しいのねぇ~。あなた達、行く宛が無いのなら、うちに入りなさぁい♪

身体もこんなに冷えて……寒かったでしょうに……今、暖かいもの出してあげるわぁ~♪」


店の女性は、オマツと名乗り、二人をタオルでくるんで雨水を拭きあげると、暖かなスープと小松菜入りのお粥を店のテーブルに並べる。


「空きっ腹にいきなり御飯を押し込むのは良くないからぁ、まずは暖かいスープとお粥をどうぞぉ~。よく噛んで食べてねぇ~。」


見ず知らずの自分達に、こんなに良くしてくれるなんて……。


チコは心からこのオマツと名乗った女性の優しさに感謝し、緊張した心がいっきに溢れ、涙が止まらなくなった。


「チコぉ、どっか痛いのぉ?お腹痛いのぉ?」


ラピがチコの顔を除きこむ。


「……あは。いや、大丈夫、どこも痛くないから。……ほら、ラピ、お腹空いてるだろ。これも食べていいぞ。オマツさんにちゃんと御礼を言って……な。」


「うんっ、オマチュしゃん、ありがとぉ♪美味しいよ、美味しいよぉ♪」


暖かい食事にがっつくラピ。とても可愛い笑顔だ……。


「あらあらぁ~、ちゃんとおかわりあるからぁ、貴方も食べなきゃダメよぉ~?」


「……えぇ、俺は大丈夫、お腹いっぱいですから。ラピの笑顔で胸がいっぱいなんです。オマツさん、心から感謝します。ありがとうございます。」



この後、幼い兄妹は恩返しに……と、お店を手伝う事をきっかけに、オマツさんの経営している孤児院に身を寄せ、義理の親子となるのであった。





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